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この情熱は策略……?それとも、深愛ですか?

桐谷兄弟シリーズ第四弾、発売のお知らせです!

1月27日刊行。パピレス、Renta!は2月6日、ロマンスブックカフェは1ヶ月ほど遅れての配信になるかと思います。Kindleはいつごろ配信開始かいまのところ予測不可能なので、しばらくお待ちくださいませ。

配信が始まりましたら、Twitterで随時告知します。☆配信情報☆この情熱は策略……?それとも、深愛ですか?をご確認ください。

シリーズ最後を飾るのは長男優です。傲岸不遜なイメージが強く女性にも厳しく理想が高い。それゆえ『女嫌い』と噂されていて……。しかし彼の心には一人の女性への想いが隠されているのですー!ということで、またまた素晴らしい夢志乃さんの表紙が目印です。

秋乃のフランス人形のような可愛らしさがよく出ています。そして優のきりっとした眼差し……ふあぁぁ。腰が抜ける。


今回からお試し読みをこちらに掲載させていただきます。是非読んでみてください♪



■お試し読み■


この情熱は策略……?それとも、深愛ですか?


プロローグ

 

 東京六本木、朝の陽ざしに緩やかな光を反射するガラス張りの高層ビル。KIRIYAエンタープライズの重役フロアとなっている30階は、早朝のこの時間はまだ出勤している社員も少なく、シンと静まり返っている。

 COO室で桐谷優《きりやすぐる》はパソコンの画面に映し出されている数字を睨みつけるようにして、分析していた。

 映し出されているのは、人気急上昇のバッグブランドAKINOの業績だ。優が出資し株主となっている。優の主な業務は将来性があると見込んだ企業の買収だった。KIRIYAの傘下となった後は業績を上げることに尽力を尽くす。

 息絶えかけた企業を分析し、生き返らせることに優は長けていた。

 株式会社AKINOに関しては、優の個人名義で出資しており、KIRIYAの傘下に入っているわけではない。デザイナーの立川秋乃《たちかわあきの》自身が社長を務め独立起業として経営している。

 7年前、彼女はエコバッグをアイデアに機能的でファッション性のある独自のバッグを自作していた。

 ネット販売が始まりだったが、開業1年ほどで売り上げは目を見張るほど上がり、海外からも注文を受けるようになった。

 優が彼女に初めて会ったのはその頃だった。21歳の若さで、自分の才能を活かす方法を彼女は知っていた。小柄で華奢な外見に庇護欲を掻き立てられ、フランス人形のような可愛らしい顔をした秋乃に優は強烈に惹かれ、夢中になった。

 最初は彼女の才能をKIRIYAエンタープライズで活かすよう説得するために近づいたというのに、結局惚れた弱みで会社を設立することに力を貸すことにしたのだ。

 ネット販売だけでなく店舗を構えるようにアドバイスし、経営方法などわからない彼女にKIRIYAの息のかかった敏腕秘書をつけた。その結果、海外のオーダーにも対応できるようになり、主要都市に店舗を構えるまでに成長した。

 今や、有名デザイナーからもコラボレーションを持ち掛けられるまでになった。ここで、AKINOもバッグだけでなくレディースウェアの販売も手掛けるべきだと優は考えていた。

 そのために必要なことは……。

 KIRIYAの傘下に入るように彼女を説得しなくてはならない。

 優は嘲笑した。

 彼女は徹底的に拒絶するだろう。怒り狂うに違いない。愛らしい顔立ちに反して気が強く、折れそうなほど細い体からは想像できないほどバイタリティがある。

 秋乃の反応を想像していた優はドアがノックされる音で我に返った。

 ドアを開けて入ってきたのは秘書の香坂《こうさか》だった。

「COO、おはようございます」

「おはよう」

 そっけなく挨拶すると、香坂は優のデスクの前まで来て一つ咳払いをした。10年以上優の秘書をしている香坂のこの態度は何か重大な発表がある証だ。

 優は無表情のまま香坂に視線を向けた。

「COO、今月から私の代わりにアシスタントの中川がビジネスディナーや得意先の接待にお供します」

 優の眉が不機嫌を表すようにピクリと動いた。

「去年入社したばかりのアシスタントにか? いったいどういうことだ」

「COOが女嫌いだという噂は随分前から定着しておりますが、その後同性愛者だという噂があるのはご存知でしょう」

 優は呆れた表情で、鼻で嗤った。

「言いたい者には言わせておけ。そんな噂を信じる者がいるのか?」

 香坂は神妙な顔になり、また咳払いをした。

「実は、COOの相手がこの私だと……」

「なんだと?」

 笑うに笑えない。これは手を打たなければ香坂を手放さなくてはならない事態も招きかねない。優は直ぐに事の重大さを察した。阿吽の呼吸で、香坂は優の要望を即座に呑み込み、仕事が速く完璧だった。

 なくてはならない有能な秘書を手放すことは何としても避けなくてはならない。

「言いたいことはわかった。しかし……お前のアシスタントを連れて行くくらいなら独りでいい」

「トラブルを避けるためにも、単独行動には賛成できかねます。COOが女性とお付き合いされれば解決する問題です。婚約でもしていただければ噂などすぐに払拭できます」

 優はまた鼻で嗤い、「めんどくさいな」と吐き捨てるように呟いた。事実、それが優の本心なのだ。優にとって女嫌いというのは言い得て妙だ。

「立川さんとよりを戻されてはどうですか」

 先ほどまで思考の中にいた女の名を言われ瞠目する。

 確かに、彼女を取り戻せればそれに越したことはない。2年前彼女に一方的に別れを切り出され、大人の寛大さで見守るつもりで距離を置いた。3年ほど自由にしてやれば秋乃も大人になり、考えを変え戻って来るだろうと思っていたからこそ、他に女を作る気にはなれなかったのだ。

「考えておく」

「はい。では失礼します」

 一礼し、香坂は部屋を出て行った。

 優は椅子の向きを反転させると、立ち上がり窓から空を見上げた。

 3年は待とうと決意したが、それまで待っていられなくなったな。2年ぶりに顔を見に行くか。

 彼女に会うことを決意すると次第に心が躍り始めるのだった。

 さて、どうやって説得しようか。

 優はくすんだ東京の空を眺めながら、思案した。その表情は悪戯に輝いていた。

 

 

 

策略の匂いと再会

 

 いつもより30分は早めに家を出た秋乃は身長154センチの小柄な体に10センチヒールのブーツをはき、さっそうと南青山のオフィスへ向かっていた。自宅から徒歩10分。青山に引っ越して2年になる。株式会社AKINOのオフィスは1階が店舗、2階にオフィス、3階がアトリエになる。

 手作りのバッグから始まったバッグブランドAKINOの第一号店はこの南青山店だった。5年前から何一つ変わっていない。

 それまでは、自分で作ったバッグをインターネットで販売をしていた。

 エコバッグのデザインからインスピレーションを受け、軽くて折り畳みでき、リバーシブルにもなる機能的なバッグをどんな女性にも持ってもらえることを目標に作り続けた。

 色とりどりなテキスタイルに、柔らかなシープ革を組み合わせ、ポップな感じからシックなものまでいろんな女性に適応する。そんなバッグだ。ネット販売で反響を得たことで、その当時交際していたビジネスマンの彼に会社を設立するようにアドバイスされ、彼の力を借りて会社を設立したのが22歳の時だった。

 秋乃は社長でありながら、経営に関してはまったくの素人だ。会社経営について何も知らない秋乃に彼は敏腕秘書をつけてくれた。そして秋乃は彼が選んだ秘書、梶谷《かじたに》に助けられながら経営を行っている状態だ。

 営業、広報、経理の人材を選んだのも、株主で恋人だった桐谷優と、秘書の梶谷だった。秋乃は面接に立ち会ったが、ただ単なるお飾りでしかなかった。

 その状態に疑問を感じていても、そもそも自分はバッグのデザインしかできないことは明らかで、経営に関してはプロに任せておくに限ると理解していた。

 そうと言うのも、当時の恋人だった優はKIRIYAエンタープライズのCOOなのだ。日本屈指の大企業で手腕を振るう一目置かれているエリート。その彼の力を借りれることがどれほど幸運なことなのか、秋乃はわかっているつもりだった。

 ネット販売だけで展開していたAKINOが目の見張るような速さで、ファッションビルや、百貨店に店舗を構えるまでになったのは彼の手腕があったからこそだった。

 桜が散り始め、アスファルトに花弁が散っている。春の移り気な気候で、今朝は肌寒く風も強い。

 オフィスに入る前に必ず店舗の前を通り、ガラス越しに見える店内のディスプレイを確認してから秋乃は裏手にある従業員入口に向う。

 社長室とアトリエがある3階までは階段を使った。

 まだ8時前だ。流石にこんなに早ければ秘書さえ来ていないだろうと思っていた秋乃は、オフィスの前まで来ると、ため息をついた。


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