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電波戦隊スイハンジャー#201 王弟殿下オトヒコ

第10章 高天原、We are legal alien!

王弟殿下オトヒコ

以下、
真性の高天原族にしてスサノオ大王の憑依体である野上聡介の証言。

自分の脳から記憶を吸い出される感覚?

うーん、そうだなあ…
厳密に言えば俺の記憶ではなくて俺に憑依スサノオの記憶なんだけれど。

28年も取り憑かれてっと俺とスサノオは夢を通してかなりの記憶を共有してるわけよ。

意識無意識を問わずスサノオが俺の脳を使って思い出した記憶の断片のピース全て掃除機みたいに吸い上げて時系列的に思惟さんが組み上げて映像化していく。

そんな感じだったかなあ。

りぃ、異星人の技術なんで俺にはこれ以上詳しく説明できねーんだ。

あいつが真っ先に思い浮かべるのは帰れない故郷を思って見上げる星空と、

疲れた時に決まって見つめる海の、押し寄せる波と青い水平線だったよ…


勉学に疲れるとオトヒコ王子は決まって学舎から見下ろせる海岸まで高さ5メートルの崖から飛び降り、お供のタヂカラオ将軍と一緒に浜辺に落ちている貝殻やら石ころやらを拾っては海に向かって思いっ切り投げ上げて海割りをする遊びを唯一の気晴らしとしていた。

高天原族一、二の膂力りょりょくを誇る二人が交互に投げ合う度に衝撃波が手先から放たれ波打ち際から水平線の向こうまで海がぱっかり縦に割れ、数秒後には元に戻って波飛沫が二人の膝下まで打ち寄せてくる。

「うーん…海底が見えるまで割るのはなかなか難しいですねえ王子」

そろそろ休憩しよう、とタヂカラオが持参の軽食の入った背後の布包みに目をやった時である。

ぼごおっ!!!

という音と共に辺りの大気が振動し、ごごごごご…と唸りを上げて目の前の海が海底まで真っ二つに割れた。

オトヒコ王子が放ったあまりもの衝撃に海底の表面までがえぐれ、海の割れ目から魚の群れが素早く逃げ出す様子まで見える。

「初めて出来た…」
と自分の両腕を見つめながら突っ立っているオトヒコ王子の胴に腕を回したタヂカラオは学舎のある高台に向かって全速力で走る。

その間わずか1分足らず。

やがて割れた海面が崩れて両面が合わさると天に向かう程の波飛沫が立ち、大量の海水がたちまち岸辺を覆い尽くしてそれは高台まで逃げ切った二人の直ぐ足元まで迫るとしばらくして巻き返すように波が引いて行く…

「ですから海に強すぎる衝撃を与えたらこうなるんです王子。
ここが無人惑星で無かったら大惨事を起こしてましたよ…」

もう片方の手に軽食の包みをしっかり確保しながら叱るタヂカラオの声にうなずきながらオトヒコ王子は自分の両腕に装着された筋活動制御バンドに目を下ろし、

ユミヒコ兄様が作ってくれたこの装置、まさか効かなくなっている?

と一瞬、強い不安に駆られた。

あれはユミヒコ兄様が初めて女性化なさる数日前のこと。

性ホルモンの不調が原因で図書館の中で急に暴れだした兄様を押さえつけるために私が呼ばれ全力を出しただけなのだが…

王族兄弟が素舞(レスリング)の形で転がり回り、暴れまわった結果図書館は半壊。

破壊されたデータの修復作業に元老思惟とオペレーター達が総動員される騒ぎとなった。

「父王も罪な事をして下さった…日増しに強くなるお前の力はいつかコロニーを内側から壊す」

体力尽きて図書館の床に転がる兄様が激しく息を付きながら不吉な予言をなさり、「その時」を長引かせる為に作って下さったのが筋活動を制御するこの銀色の金属製の腕輪。

ユミヒコ兄様が出奔なさってから一度も調整されていない。

というか作りがあまりにも複雑過ぎて高天原族じゅうの科学者たちもどう手を加えていいか解明出来ないのだ。

400年前、ユミヒコ兄様は自ら第一王位継承者の位を返上する。という宣言書を残し思惟と共に出奔。既にこの銀河系から出てしまったのか未だにその行方は解らない。

「よって、第二王子オトヒコに王位継承権を譲りこれからは王弟殿下とする」

とつとめて平静に宣言なさる天照姉様も内心、調律の力を持つ弟ユミヒコに棄てられて我ら一族はどうなるのか?

と落胆なさっていたに違いない。

オトヒコは急遽全部面積の70%が海であるスサ星の孤島に建つ王立大学院に移され、そこで次代の王が身に付けるべき帝王学と大学教育を受けていた。

高天原銀河30星系の民を統べる王なんて、私には荷が重すぎるよ…と誰かにこぼしたい気持ちを堪えて厳しい教育課程をこなす日々も明日の全講義終了で終わる。

タヂカラオの送迎でもうすぐコロニーに帰れる!

そう思うだけで心が沸き立ち、幼い頃からの力比べの相手であるタヂカラオ将軍とつい海割りに興じてしまったのであった。

「う~ん、解らないなぁ」

帰還シャトルの中でオトヒコは一応これだけは科学者たちに解析された腕輪の設計図とにらめっこしながら修理工具を机の上に並べてはみた。
制御装置から出る何らかの波動がオトヒコの過剰な筋肉運動反射を調整している所までは解った。

が、
肝心の制御装置である青く光る石の組成が不明なのである。

兄様の事だからまたどっかの惑星の鉱石を適当にくっつけて作ったな。

人型コンピューターの思惟だって

「なんか異星人の胚のサンプルをテキトーに育てたらホストコンピューターオモイカネの処理能力を凌駕する個体が完成しちゃった」

って立法倫理規則を軽く20以上違反して作ってしまったんだもの。

出ていくなら出ていくでせめて代わりの鉱石でも置いて行って下さればいいのに。

とオトヒコは思うのだが疲れた頭で考えても仕方がない。

「何か食べて寝るかぁ」

と椅子の背にもたれて頭の後ろで手を組んだ所でコールが鳴った。

「夕食の準備が出来ております。献立は王子のお好きなダイゴのアツモノ(チーズフォンデュ)ですわよ」

とモニターの中で女性料理長のウケモチが自身たっぷりの笑顔を見せるので

「お前来てたのか!ウケモチの作る飯は全部旨い」

と今までの悩みなど全部忘れて食堂に走って行った…

3週間後、
コロニータカマノハラ王宮で天照女王によるオトヒコ王弟殿下への学位授与と成人宣言が行われ、

堂々とした態度で女王から杖を受け取るオトヒコの輝くような銀髪銀眼の眉目秀麗な容姿を他星の来賓たちはある者は複眼越しに、ある者は触手の視覚器越しにうっとりと眺め、恒星間中継越しに支配下30星系の視聴者達はこの瞬間、オトヒコ王子に一時的に恋をしていた。


「あー疲れた!」
来賓との晩餐会、祝賀会、等々一連の行事を終えてオトヒコは自室で礼服を脱ぎ散らかして上半身裸に筒袴のままどおっ!と寝台の上にうつぶせに倒れた。

このまま眠りこけてしまおう、と思った矢先、自室の呼び鈴を鳴らす者がいる。

「だ~れだ~よ~」

と恨めしげに顔を上げて寝台脇のモニターを確認すると幼い頃からの武術の師匠、タケミカヅチ将軍が酒の瓶と器を掲げ、
「よくぞ窮屈な儀式を務め上げられましたな、ここからは自由時間ですぞ」
と弾んだ声を上げた。

ハオマ星の黍酒を一口飲むなりオトヒコはぐはっ!と声を上げ「酒というものはこんなに熱い飲み物なのか!?」と充血した目をぱちぱちさせた。

「おやぁ?王子はいけるクチと思ったんですが意外にも弱いみたいですね」

そう言ってタケミカヅチは器の中の酒を一気に飲み干す。

寝台に並んで寛いでいる二人は今は王子と将軍である事を忘れ男同士の他愛もないお喋りを始める。

「さっにウズメに会ったんだけどさあ…お前まだ告白してないの?」

タケミカヅチは急に咳き込み「女王ひとすじに作られたお方に言い寄るなんて出来ませんよっ!」ともう3800才のいい年なのに恋愛に関しては奥手な将軍の顔が真っ赤になる。その顔を見てやはりこいつをからかうのは面白い、とオトヒコは意地悪な笑みを浮かべた。

「え~?私が400年コロニーを留守にしてる間に何の進展も無かったの?
ウズメとは堅物どうし相性がいいと思うんだけどなあ~元老いちの堅物アメノコヤネだって恋愛結婚出来たんだからお前頑張れよ」

そう仰るなら、とつまみの豆を齧って酒で流し込んだ将軍は「王子ももうご成人なさったんだからそろそろお妃選び考えて貰いますよっ!」
と王子に詰め寄る。

「帰還したばかりでそれを言うなってんだ。しばらく休ま、せてくれ…」

寝具を頭まですっぽり被った王子は連日の接待の疲れと酒の酔いからかそのまますうすうと寝入ってしまった。

1800才なれどもまるで胎児のように身を丸めて眠る王子のあどけない寝顔に向けてタケミカヅチ将軍は敬礼し、

「明日から成人した王子としての人生が始まるんです。今はゆっくりお休み下さいませ」

と実の家族以上に心を込めて語りかけた。

思えば我にとってこのひと時が

高天原族王子としての最後の安らぎだったのだ。

後記
掴んだ飯は離さないタヂカラオ。オトヒコはアルコールに弱い設定。




















































































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