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電波戦隊スイハンジャー#157 龍神様と私4

第8章 Overjoyed、榎本葉子の旋律

龍神様と私4

「女王天照さまは御自ら天壌無窮の運命を選ばれた!転生の時期も自ら選ばれよう。よって『卵』を探す必要なし!」

と白銀の長髪を振り乱し珍しく強い口調でコトシロヌシに反論するのは、高天原族元老長、アメノコヤネであった。

「何をう!?」と犬歯を剥き出しにして紅い瞳を輝かせるコトシロが、今にも殴りかからん勢いでコヤネに詰め寄る。

「今のこの国の苦境、世界の腐りようを静観しろと申すか?相変わらず高慢ちきな異星人(エイリアン)め」

「相変わらず獰猛だな、進化の道を間違えたディノサウルスの子孫よ」

あと2,3ミリで鼻が触れ合うほど、高天原族元老長と豊葦原族の第一王子は顔を近づけて睨み合う…

一触即発の空気の中、どおん!と太鼓の音が宴会場に鳴り響いた。

「今は神々の憩いの時、争い事は許さぬ」

と朗々とした声で宣言したのはここ出雲大社の主祭神、大国主命ことクニヌシであった。

「私の息子であろうと騒ぐと追い出しますわよ、コトシロ!」

とコトシロの母でクニヌシの側室、カムヤタテヒメは小太鼓と撥を握り締めて息子を叱り飛ばした。

うっ、母上…と唸ってコトシロはコヤネから数歩離れると、「エイリアンと侮辱して済まぬ」と素直に頭を下げた。

「こちらこそ、クニヌシ様のご子息と龍族を侮辱する発言をした…済まぬ。
年寄りなのについ激昂してしまった」

というコヤネの発言に周りではらはら見ていた神々たちがどっと笑って、一気に場が和んだ。

「あーあ、ロン毛じじいどもの口喧嘩にはついていけないよ」

と論戦を吹っかけた張本人であるニニギが毒づいたので、コトシロとコヤネは揃って引きつった顔を、生意気な天孫の方に向けた。

「おいニニギ、どの口が言ってやがる…いくら天照さまの孫だからってなあ」

と長い白髪をわざとばさっ!と振り乱してニニギに歩み寄ろうとするコトシロを、その肩に手を置いてコヤネが止める。

「王・陛・下、いつから断髪なされた?」

と内心が知れぬ笑みを浮かべる元老長に、「あ?今年の夏から。クソ暑かったし切ったらスッキリしましたよ」

とクソ生意気な天孫は、へへっ、と人差し指で鼻の下をこする伝説のボクシング漫画の主人公みたいな笑いをした。

「だーいたいあんたら、毎年宴会来てていっつもロン毛だし、袴姿だし、もちっとお洒落で現代的な服装しろってーの!

男どもはロン毛、ロン毛、ロン毛!おまえら、エアロスミスかよ!」

ああ、この態度と口の悪さ…彼奴《きゃつ》は曾孫でアルジュナ計画の中心人物の野上聡介に、本っ当よく似ている。

とクニヌシは片方の見える目でしみじみとニニギを見てくすりと笑うと、

「さしずめ私はギターのジョー・ペリーでしょうか?ニニギ様、ちょっとおイタが過ぎやしませんか?」

と声に怒りをにじませた。

どおん!!と再びカムヤタテヒメが太鼓を鳴らした後で、

「神々たちよ、ちょっと天孫をこらしめてやりなさい。座興です」


座長が座興というなのら、フルボッコにしても許されるのがこの宴のルールである。


おう!と立ち上がって首を鳴らす超武闘派のタケミカヅチとタケミナカタが、我先にニニギに飛びかかった。

ニニギには彼らの動きが超スローに見える。

くすん、ニニギが鼻で笑うと同時に、隠し持っていたピンポン玉を二神に投げつけた。

七色に輝く光学迷彩粉末が宴会場じゅうに飛び散り、神々の目をくらませる。

(ばーか!!進化型高天原族の僕に敵う奴なんているかよ~)

と憎たらしい言葉を残してニニギは会場から逃げ去った。


「ニニギの奴、相変わらず無茶やらかすよな、ウズメ」

とあらかじめサングラスで目を保護していた小角とウズメが目くらましの中で顔を見合わせた。

「ほんま、乳母のうちも手を焼いたわ。あ~あ、新調したスーツにも粉が…」

「あ、俺もシフトの交替時間だからフケるよ。ウズメはどうする?」

「ウカちゃん欠席だからうちもフケる」

「そっか、じゃあ神々の皆さん、猿田彦夫妻、ドロンします」

と小角は組んだ両手に人差し指を立ててにんにん、と言うと今度は白い粉の詰まった玉を床に投げつけて姿を消した。

光学迷彩の後にメリケン粉を振りかけられ神々たちは、「まったく運動会かよ!!」とキレまくり、口に入った粉を徳利の酒で洗い流した…

そんな大混乱の最中にタイミング悪く参上したのは、ツクヨミ王子と元老オモイカネこと思惟であった。

「なになに!?この昭和のバラエティのような騒ぎは。あ~あせっかくのお洋服が台無し…」

思惟は藍色の髪に付いた粉末を丁寧に櫛で除いてから、

「これは、光学迷彩入りのチャフ(電波欺瞞紙)を粉末化したものですね。もう一つの成分は…メリケン粉。

なんとも古臭い隠遁の術ですね。ニニギ様と猿田彦さまの仕業でしょうか?」

と櫛に付いた粉末を見ただけで成分を分析した。

「さすがツクヨミ王子の最高傑作。人型有機端末、オモイカネ殿…」

と布で口を覆って粉末の中咳き込みながら、クニヌシがツクヨミと思惟に挨拶した。

「ウズメ様と同じくヒューマノイドですから」

見た目20過ぎの青年、思惟は全く何の感慨も感情も無い表情で答えた。

「それでも元老が務まるくらい高性能よ。思惟、この現象を一言でいうと?」

0.0003秒で高天原族のホストコンピューター思惟は結論を出した。

「元祖忍者とやんちゃ坊主が、ドロンしました。ニニギ様の行く先を追跡しますか?王子」

思惟の藍色の眼が鈍く光り始める。

「しなくとも良い。どうせ行き先は分かってるのだから」

と主人が言うと、あっそーですか。と残念そうに眼の光を消して思惟は神々たちに

「窓を開けて換気してください。原始的ですがそれが一番手っ取り早いのです」と自ら窓を開け対処法を指示した…


2013年10月11日の夜九時。約束の時刻と場所に戦隊たちが集まった。

「今夜は私から報告があります」

と勝沼酒造生命科学研究所の中の、壁三面にモニターが埋め込まれた部屋の中央で、白衣を着た小柄な女性、西園寺真理子が

ぺこん、と七人の若者たちに一礼した。

続いて真理子の隣で「8月はじめから隠しごとをしていてすんまへん」

と頭を下げたのは、柿色の僧衣に袈裟をかけた空海である。

「あのー、何かの企業の謝罪会見じゃないんだから…謝らないでくれよ。何か深い訳があったんだべな?」

と空海に優しく声を掛けたのは、レッド隆文。

「何か隠し事があったのは、実はバレバレでしたけど、それが何かまでは分かりませんでした。脳にバリアかけてまで守りたい秘密だったんですね」

続いてテレパシー能力のある正嗣が言った。

「僕が真理子さんから真相を聞かされたのは今月2日の夜。真理子さんが小人の松五郎から『2つの検体』を渡されたのは、

ちょうどお盆明けの頃だった…松五郎は、真理子さんを選んで人類の科学力を試したんだ。

課題は、この2つの検体の主と遺伝子上の関係を探れ」

「私は、悟さんにも気づかれないようにこっそり真夜中に課題に取り組みました…この研究所のあらゆる装置を使って。

そして、2日。自分なりの解にたどり着いたのです」

真理子は部屋のディスプレイのスイッチの電源をオンにして、

「戦隊の方々にはショックを与える映像かもしれません」

と言い置いてから「検体1」の提供者の映像を映し出した。

正嗣は一瞬口元を押さえたが、なんとか耐えて映像に映る異形の少女、サキュパスが裸体のまま胎児のように丸まって回転する様を見つめた。

正嗣自身が心臓を突き刺し、とどめを差して殺した怪物は、映像の中では繭の中で眠る蝶のように美しかった。

「大丈夫か?正嗣」聡介が、正嗣の手の上に自分の手を重ねた。

聡介はサキュパス戦の時、「これは介錯だ」と意味づけて正嗣にサキュパス殺しを命じたのである。

「大丈夫です」と正嗣は口から手を離して映像に向き合った。

「検体2」と真理子がモニターの何かのスイッチを押すと、

今度は、戦隊の皆が見覚えのある少女の映像が先程のサキュパスのように丸まって回転している。

「検体2の提供者は、榎本葉子。8月8日の夜に採取した毛髪の細胞から彼女を特定しました。

…検体1サキュパスと榎本葉子には、遺伝子上の繋がりがあります」

感情を一切廃した科学者の声で、真理子は研究結果を報告した。


「つまりはこうです。榎本葉子は、我々の敵、『プラトンの嘆き』のマスターはじめ幹部たちと血縁関係なのです」

8月8日の榎本葉子戦の時から、まさか、とは思っていた。


葉子の体を手放す訳にはいかぬ。

と葉子に憑りついた怨霊が言っていたではないか!

「わしが東寺で怨霊と戦い、あと一撃のところで取り逃がした大失態が…組織が起こす陰惨な事件の元になったんや。

わしが取り逃がしたんは。組織のトップ、『マスター』と呼ばれる男の魂。

仕損じなければ、全ては片付いていたかもしれないのに!」

と床に突っ伏して己が拳を床に打ち付ける。空海の拳には血が滲んでいた…

「そうか、怨霊の目的は同族の葉子ちゃんを組織に連れ去るついでに俺たち戦隊に復讐しようとしたんだな。

すべて合点がいった。なあ空海さん。これはトップ一人だけ倒しても終わらない問題なんじゃねえのか?」

聡介は空海の前に屈みこみ、皮膚が切れたのと打撲傷だな。と空海の手の傷を診察した。

「そーそー、何人いるかわかんないけどトップが居なくてもどーせ組織のメンバーどもがまた悪さしてたわよ」

「これは、メンバー全員立ち直れないようお仕置きしないと、ですね」

ときららと琢磨がすごく大胆な内容を軽口で語り合った。

「戦隊はおらたち7人だけじゃない。空海さんやオッチーさん、小人たち。味方かどうかわかんないけど大天使たちの力も借りている。

プラトンの嘆き、ぶっ潰そう、だべ」

いつもはぼーっとしてるけど、肝心な時にリーダーの風格を出す隆文が、笑って宣言した。

「空海さん、どうやら敵は異星から来たある種族みたいなんだけど、もう教えてくれますよね?

戦う敵の情報を知るべき時が来た。と思うのですが」

「それは2500年前のことやった、あの宇宙一美しい一族が地球に降下したのは…」

と空海が降下してから長い時を経て、人類に強い憎悪を持つようになったある一族の歴史を語り始めた。

聡介は8月12日に葉子が見せた「本来の姿」を思い出しながらその話を聞いた。

全身を覆うウサギのような白い体毛。昆虫の複眼をした紅い瞳。緑と白の縦縞模様の髪の毛…


「うちはバケモノや!」と泣き叫ぶ少女に、聡介が「可愛いじゃないか」と言った心には何の偽りも無かった。

まるでおとぎ話のような宇宙一美しい一族の話を、戦隊たちは真夜中にやっと聴き終わった。

戦隊全員は、望まずに罪を犯してしまった少女、榎本葉子を守らないと!

と強く決意した。

後記
昭和バラエティのノリで宴会をぶち壊す天孫とオッチー。















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