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電波戦隊スイハンジャー#213 智持と思惟、スクナビコナと青い星

第10章 高天原、We are legal alien!

智持と思惟、スクナビコナと青い星


私とお父様の最後の思い出は、薄紫色の小花舞い落ちるヤカルタの木の下での行楽。

若草の上に絨毯を敷いて、ユミヒコ様とお父様と並んで座って、

「はい、智持。そして王女」

と手渡してくれた父様お手製のササゲノモチ(米粉バンズの照り焼きチキンバーガー)、美味しかったなあ…

次世代型自律式有機端末タクハタチジヒメこと智持はちじは、

生まれた時から300年間(地球人の時間間隔で3年)の人生のほとんどをコロニータカマノハラから離れた王子ユミヒコ専用の研究ユニットで過ごし、

自分を制作した「父」である思惟によって養育された。

養育といっても胎児の頃から高天原銀河の全ての歴史や人類が得たありとあらゆる知識、それにコロニータカマノハラと宇宙船団を全制御するシステムプログラムを脳実質に負荷のかからない程度に入力され続け、

運動機能を発達させるため定期的にユニット内の人口庭園に連れ出られては遊具の鉄で大車輪をしたり跳躍網(トランポリン)から3メートルの高さで飛び跳ね夢中になって遊んだ。

「智持、こっちこっちー!」と敷布の上で水分補給用の果水を持って手招きするお父様。

その傍らには
「もーぉ、子供って1つのことにのめり込むから疲れる…でもそこが可愛いんだけどね」

と敷布に寝そべってほほ笑むユミヒコ様。

それが私にとっての「家族」。

しかし行楽から二月後、智持を1400年後覚醒設定にしてカプセル冬眠させたのち二人は移住先を求めて別の銀河に旅立ってしまわれた…


私の名前はタクハタチジヒメ。またの名を智持。

私の脳に入力された管制プログラムで高天原族全船団を導く艦隊運航管理長官なり。

銀色の鳥の形をした旗艦天鳥舟の、鳥の頭の部分に設置された管制ユニットにひとり浮遊している智持は濃い紫の髪の毛の一本一本全てをアンテナにして広げ、

コンマ0.000001秒も狂いを許さない全船の航路調整や隕石や小惑星などの浮遊物質予測と回避、

全船間の距離調整などの膨大なデータを思惟の10倍の処速度でさくさくと処理し、

「今この時に必要な行動」を端末を通して各艦の船長とオペレーターに指示し続ける…

ひと通りの指示を終えたところでふっ、と智持の意識が落ちそうになる。

ああそうか、これは疲労による眠気なのか。

と重力モードを生活用にした智持は自分のすぐ真下にあるロッキングチェアに降り立ち、しばらく眠ろう、と目を閉じたところを見計らったかのように管制室モニターに「お役目交替いたしますわよ智持さま」と女官長ウズメの顔が映り込んだ。

「え?でも女官長どのに」とまで言って口ごもる智持に、

「そこまでの性能が無いのは解っております」

モニター上で艶然とした笑みを浮かべたウズメが管制室のロックを解除して入って来ると智持の目の前で通信型ティアラを装着し、

先程までの智持の処理内容をトレースして仕上げたウズメ独自の管制システムを管制モニターに送信して見せた。

「過去11日間のあなた様の処理パターンに沿って作り上げたものですが、いかがです?」
とウズメは振り返った。

「凄い…これなら一定期間任務を交替できます!」

と口をあんぐりさせる智持に向かって「それに、あなた様のこれからの任務はお産までゆっくりお休みになること。これは、女王陛下からの命令です」

と、あと20光年で出産予定の智持のはちきれんばかりに膨らんだお腹を愛しげに見つめながら

「タクハタチジヒメこと艦隊運航管理長官『智持』よ、高天原族王位継承者を宿すそなたに産前産後休暇を申し付ける。
休むこともまた任務であるから安心して休むよう」

と手のひらの半分ほどの大きさの半球状の玉石の形をした女王からの勅書「御鏡」に映る文面を読み上げ、智持に手渡した。

「王子が心配してお待ちですわよ、早く戻ってあげてくださいませ」

そこで智持はやっと心底安心した顔をして「はい…はい!」と頷きながら御鏡を押戴くと、夫オシホミミが待つユニットに戻って行った。

お腹をかばったもったりとした足取りで管制室を出てゆく智持の後姿を見ながらウズメは、

まあったく、真面目な性格の子って「休むことも任務」と言って許可してあげないと倒れるまで働き続けるからねえ…

と一つため息をついてから管制室の指示席に着席し、

脳に直結したアンテナから

「タクハタチジに代わり私ウズメが指揮権を執ります」

と命令を送ると自らの顕在意識を眠らせてから無重力状態で浮遊し、ただ船団に指示を送るだけの端末と化した。

その頃、愛妻の帰りを一日千秋の思い迫っていた高天原族王子
(廃太子によって王子に格下げ)

アメノオシホミミは智持を一目見るなり「ちぃ~じぃ~!」と半泣きになって智持に抱き付き、

「見てごらんっ!子育て道具はすべて揃えたよっ!」
と居住ユニットの居間の半分を占める保育ベッド、紙襁褓(おむつ)、乳児用人口乳などの育児道具を示してみせた。

「まあ…嬉しいです、王子」

「それに、卒論が通って大学課程を修了したよ!来月から私も働いて給料が支給される一人前だ」

「よく頑張りました、王子」

さあさあ疲れただろう、寛いで休みなさい。と居間のテーブルには間食用のお茶とお菓子。かたわらの寝椅子には枕と膝掛けまで揃っている。

夫の言葉に甘えて智持は寝椅子に横になりふわぁ、と欠伸をしてからそのまま眠った。

膝掛けの下の膨らんだ智持のお腹に手をやったオシホミミは
「我が子ニニギよ、地球ちだまでの暮らしはどんなだろうな?お前の祖父の思惟どのにも会えるぞ」
ともうすぐ会える天孫ニニギに向かって語りかけた…


一方、父親の方は新たな研究対象であるスクナビコナ族と名乗る小人たちの観察と研究に夢中になっていた。

とこうんとこどっこい うんとこどっこい うんとこどっこいしょ♪

とこうんとこどっこい うんとこどっこい うんとこどっこいしょ♪

植え付けられたばかりの畑の苗の一本一本に小人たちが「褒めて育てる」呪文をかけて手を合わせる野良仕事をしている。

小人たちがまじないをかけた苗は病気も枯れもせず、本当に収穫まで実るのだから驚嘆すべき能力だ。


読者の皆さんごきげんよう。私の名は元老オモイカネこと思惟。

主ユミヒコ王子により肉体を与えられし高天原族のホストコンピューターなのです。

豊葦原族第二王子コトシロ様ががカプセルに入った小人ハガクレと孫スミノエを釣り上げてから50年が経過し、今は春。

最初祖母と孫二人きりだった小人たちは今や成体34体と幼体17体の計51体にまで増えていた。

この外性器を持たない一族がどうして生殖することが出来るのかというと…あの時ハガクレとスミノエと共にカプセルに保管されていた緑色に光る苗木。

思惟がこの木を育てるのに適切、と分析した成分の土を十数種類配合して育てて見ると…たった一年で1寸から10寸の高さまで生育し、秋に実を結び、熟して落ちた実から一寸程の赤ん坊小人が生まれた。

スクナビコナ族は植物から生まれる知的生命体だったのだ!と最初は驚き感動さえしたがこのいかにも哺乳類形状の赤ん坊にどうやって乳を遣ればいいの?と戸惑っていると「心配ない」と長のハガクレどのが幼体を宿した果実の間にぶら下がる乳房をもいで赤子に吸わせた。

成程、幼体の養育に必要なものは全てこの樹から成るのか。ハガクレ殿の指導のもと初めは研究対象として未知の生物スクナビコナ族を育てているうちに母性と父性みたいなもの両方の感情が(思惟は元々AIだったので心の性別があやふやなまま)出てきて今や…

「おーい、思惟のお父ちゃーん」とちび小人たちから慕われるスクナビコナ養育に長けた保育士(スーパーナニィ)となっていた。

「はいはい、何ですかぁ~?」

とわらわらと手に肩に頭に乗って来るちび小人たちを乗っけて相好を崩す思惟の有様はスパコンというよりは子供たちに甘いただの兄ちゃんである。

「スミノエの兄ちゃんが岬の鳥居まで疾く来い、って!」

説明しましょう。
ハガクレどのとスミノエしか持たない頭部の「角」は私ですら感知できない遠い宇宙からの発信を感知できるので索敵などのお手伝いをしていただいているのです。

「では小さい子供たちよ、私がお留守の間は決して、けーっしてこの宮殿から出ないように。人間には見られないようにね」

「うん解ったー!」
と元気良い返事を受けて思惟は文字通り瞬間移動でひとっ飛びすると鳥居の建つ岬から望む海上には体長20メートルほどの紅い眼をした白い龍に変化した王子コトシロが最大限の警戒で全身の毛を逆立て、コトシロの頭部に取り付いた齢10才のスミノエが

「空の向こうから船団が近づいて来てるぞっ、武装もしてる知的生命体だっ!」

と異星人接近の報を知らせてくれた。あ、それもしかして…

(思惟、思惟聞こえてる!?姉上の高天原船団が太陽系軌道に接近してるの、今すぐ金星に飛んで帝釈天に移住交渉をお願いできるかしら?)

と数秒後に主ユミヒコからの緊急通信が届いたのでかねてより計画していた高天原族の超新星爆発からの脱出と天の川銀河地球への移住計画を実行に移す時が時がとうとう来たのだ…!と興奮で全身の血管が開いた。

でも、スクナビコナとの暮らしが楽しすぎてつい忘れてたの~。

ごめんなさいっ、てへっ。

後記
スクナビコナ属スクナビコナ科スクナビコナ
植物から生まれる生態
































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