電波戦隊スイハンジャー#80

第4章・荒ぶる神、シルバー&ピンクの共闘

ほのおの天使、ウリエル4


かちかちかち、と真雅が三色ボールペンを鳴らす音が神経質に響いた。


「問題なんは、聡介はんが二重人格っちゅーこっちゃ。


いっぺんカウンセリングした時、わしはその兆候を見抜けんかった。


幼児期の母子分離体験による愛着障害とばかり思うとった。プロの精神科医として少々へこんでいます…」


「いっぺん話しただけで相手の全部が分かるもんかい」


と空海が弟を慰めるように言った。


「人格乖離っちゅーても人それぞれで、普通に社会生活送ってる者もぎょーさんおる。蓮太郎はんは幼馴染やけど彼からそのような話は聞いてましたか?」


いやいやいや!と蓮太郎は音を立てそうになる位ぶんぶん首を振った。


「うーん、聡ちゃんはグダグダに失恋の愚痴はたれるけど、深いメンタルな弱みを吐き出すタイプじゃないわよ!


でも、二面性みたいなモノ…例えば高校時代、京都ヤンキーにからまれてさ、アタシもケンカに参加したけど、聡ちゃんケンカ相手をぶっ倒した上に、文字通りゴミ箱にたたっ込んだのよねー。


昔はスチールの網のゴミ箱だったから人間入れるのよ。うん、あれにはさすがに引いたわ。

ケンカ売られた時の凶暴性が凄いのよねー」


「さすがはわしの腕をへし折るだけある」


傷は消えたが、痛みの記憶は生々しく残っている。空海はさもありなん、とうなずいて無意識にかつて聡介に折られた左の肘をさすっていた。


初対面で喧嘩売ったわしとオッチー先輩が悪かったけど、やっぱりガキの頃から聡介はやんちゃが過ぎた奴やったんやな…


「え、聡ちゃん空海さんにそんなヒドい事したの?」


うわ、30過ぎても治ってなかったのねーと呆れる蓮太郎に光彦はさらにドン引きする情報を伝えた。


「その上オッチーさんの内臓破裂させてさー、後で手術する破目になったんだよね。自分で怪我させて自分で治療するんだから世話ないよ」


大好きな叔父は、想像を超えたDQNでした…


ずっと話を聞いていた菜緒はじんわりこめかみが痛くなってきた。


「蓮太郎はん、聡介はんのもう一人の人格が背広の上着預けた時、なんていうてはりましたか?」


吾(あ)とか汝(なれ)とか古語みたいな言葉づかいの他に…あ!


「傷つけたら聡介に叱られる、と言ってたわ」


「叱られる、という事は上位人格は聡介はんですな。大したもんや、おそらくはその超人的能力を持った別人格、銀髪の男を聡介はんは…


飼い慣らしているんやな。これ以上はカウンセリングを重ねん限りは言えません。


精神医学的に優先度が高いんは葉子ちゃんの方や。戦隊たちと戦った時の記憶。


果ては傷害事件の時の記憶…加害トラウマによるPTSDの懸念もあります。女の子なんで女医のガブリエルはん、葉子ちゃんのケアに協力してくれますか?」


真雅がお願いすると「もちろん」と腰まで届くロイヤルブルーのロングヘアの女性が右手を胸に当て、優雅にお辞儀した。ファッションショーのトップモデルにいそうなクールな美貌と長身である。


「私は女性と子供の守護天使…引き受けなければ大天使ガブリエルの沽券にかかわりまし」


さっきから腑に落ちない顔をしているクラウスに空海は無言で発言を促した。


「全部…全部悪い夢やった、という事にできんのかなあ?催眠術とかで記憶を消すとか。葉子はまだ12やで。この体験はあんまりや」


「マエストロ、人間の脳はハードディスクやないで。体験と記憶っちゅーもんは脳内や精神の中で複雑にからまっとるんや。もしパソコンの容量を減らすようにさくさく記憶を消して行ったら、葉子ちゃんの脳は赤ん坊からやり直しや」


「分かった!分かったもういい!わしが間違ってた」淡々とした口調に厳しさが込められた空海の言葉をクラウスは手で制した。


クラウス、何を現実逃避しとるんや?葉子と孝子を支えるんはわしの役目やないか!気弱になっていた自分をクラウスは恥じた。


「私たちも『記憶を消す』って表現してますけど実際は数分間の体験を思い出させんようにする催眠術や。別の体験をしたように書き換えとるだけのこと」


結局のところ、と空海は言葉を切って次の言葉で部屋にいる全員に言い聞かせるように術後カンファレンスを締めくくった。


「人間の『心』というものは環境や自分の行いによって傷つき、歪みねじれて道を誤る事もある。法の裁きが必要な場合もある。


自身の行いを内省し、反省し、超克するメンタルの強い者もおるが…

結局のところ心を正す、というんは、自分で気づいて過ちを正す。それしか特効薬はないんやないかなあ?」


「兄上、そんならわしがやっとる精神科医の役目って一体…」と情けない顔した弟に空海は


「人間というんは他人どころか自分と向き合うのも怖い弱い生き物や、『情』が枯渇しとる現代社会に精神医学のプロがますます必要とされるやないかい、お・き・ば・り・や・す!」


と最後に立ち上がって真雅のほっぺをぴたぴたしながら叱咤した。


解散!という空海の言葉で医療団の僧侶は脱力してさーて着替えるかー。帰りうどん食ってこーぜ。と帰り支度を始め、空海は正嗣に心配かけてるから、と泰安寺に帰って行った。


「聡介は完治したから、タオルケットかけてほっといていーでしよ。それより蓮太郎、もう付添人必要ないから帰ったら?」


と声を掛けたのは忘れもしないピンクの髪に眼鏡の大天使…


「ジョフィエル!」アタシはこいつに言いたいことが山程ある!


「ノンノンノン…」ジョフイエルはちっちっち、と人差し指を蓮太郎の唇の前で揺らして先制攻撃した。


「スーツのデザイン変更は簡単にはできマセンよ!

ピンクバタフライスーツは実は宇宙服も兼ねたNASA越えの高機能でしから。

作り直させるなら、25億支払らってから言って下サイ、でーし!」


に、二十五億…!?あまりの巨額に蓮太郎は顔色を失った。


戦隊1の金持ちボンボン、勝沼悟にも動かせる金額ではないであろう。


「それよーり、もう10時半回ってマース、お肌の美容の為に早く寝て下サーイ。明日もまたお稽古でしょ?寝不足のお顔で弟子の前に出るの?美しくないでし!!」


ぐぐ…と何か言い返したいけどジョフィエルの言ってる事は正論である。


「こ、今夜はこれぐらいにしといてあげる!」と新喜劇の俳優みたいな捨て台詞を残して蓮太郎も帰って行った。


残ったのは、クラウスと、光彦と、菜緒。


「うちはサッちゃんの部屋に泊めてもらうつもりやけど、光彦くんどうするん?」


サッちゃんとは聡介の姉で菜緒の叔母、野上沙智の事である。


このまま家に帰ってもいーけど、遅いし、お袋に叱られるなーと光彦が諦めの気持ちでいると、カンファレンスルームの扉が開いて入って来たのはちょうど噂していた沙智本人である。


「ミッツくん(光彦のニックネーム)泊まっていきなさい。お家には泊めるって連絡しといたから」


「え、手回しよすぎね?何時ごろしたの?」


「8時ごろかなあー、聡介から『今夜は泊める事になるかも』って頼まれてさ。あの子の勘は外れないから言う通りにしといた。事情はさっきガブちゃんから聞いたから。でも一応光彦くんから電話入れた方がいいかもね」


光彦は言う通りに母親の携帯に電話を入れると2コールで母親が出て「聞いてるわよー、勉強合宿も夏休みだからいいけど」と口調は全然怒っていない。


明日の朝ごはんは帰ってから食べるの?と聞いてきたのでうん、と答えると分かった、じゃあね、と電話は切れた。



「サッちゃん!?祥次郎とアデールの娘の?いっやー別嬪さんになってー」


「ミ、ミュラー先生?なんでここに…」


言い終えない内にクラウスは威勢のいいハグで沙智をホールドし、おでこにキスの嵐を浴びせた。ここんとこ、やっぱ西洋人だよな、と光彦も菜緒も思った。


「わしは赤んぼだったサッちゃんのオムツ変えてやったんやでー!


アデールに去られて、赤んぼやったサッちゃん抱えていっぱいいっぱいやった祥次郎の育児手伝ったんや。パリのふっるいアパルトマンで、男二人でな。懐かしいわー」


「その事は祥子叔母から聞いてます…」


「祥子から聞いたで、嫁に行くんやてな?式にはアデール呼ぶんかい?」


オペラ歌手、アデール・オードゥアンの話題になると沙智が苦笑いして「呼べないかも…」と言った。


クラウスはアデールの多情で我の強い性格、沙智を生んですぐ祥次郎に押しつけて別の恋人の所に走った事情も知っているので


「やっぱり…うまくいってないんやな」と何となく沙智と実母アデールの仲を悟った。


「ママは1年に1度は私の顔見にこの家来るけど、話すのは自分のことばっかりで…結局大ゲンカして帰って行く人だから」


「あの女こそ自分を省みない、内省せん女やからなー」


空海さんの言葉の逆やん、と菜緒は吹き出してしまった。


こうしてこの夜は、クラウスはクリニック休憩室で孝子の横に寝台を置いて付き添い、


聡介は葉子が眠るカプセルの横で寝台ごと天使たちに運ばれ、菜緒はお風呂に入った後沙智の部屋に泊まり、光彦は、というと…菜緒の後にお風呂に入ってから空いた聡介の部屋のベッドに眠る事となった。


「あの、沙智さん」光彦は一応聞いてみた。


「一階に住む叔母さんってさ、戦隊とか大天使のこととか全部知ってんの?玄関から入ってきてないオレと菜緒ちゃんが降りてきてお風呂借りても平気な顔してたよ」


あーそれねー、と沙智は何でもなさそうな顔で


「鉄太郎おじいちゃんが一番変わり者だったから、野上の家の人間は多少の不思議は気にしないのよ。


5年前、カラフルな髪の色の外人どもが2階から降りてきて祥子おばさんに見つかったんだけど、大天使たちが冷蔵庫のケーキ狙っててさ。

…確かミカちゃんとガブちゃんだったかな?


叔母さんはあら、パンクロックのバンドの子?って普通に紅茶淹れてケーキ食べさせてたよ。

あの人は鉄太郎の娘だからねー、私より神経太いかも」


おやすみ、と言って沙智がドアを閉めた後、聡介のベッドに寝転がって光彦は思った。


聡介先生も沙智さんも、母親とうまくいってないまま大人になった人なんだな。でも育ての親で祖父の野上鉄太郎という人は相当大したじいさんなんだな。


だってこの姉弟、ちゃんとした大人に育ってるじゃないか。


「生みの親より育ての親、か…」


光彦はそうつぶやいて部屋の電気を消した。



8日夜9時前に地球に降下した大天使ウリエル。


直属上司で天使長のミカエルの元に参じたのは、なんと午前3時過ぎていた。


エンゼルクリニックで数時間前空海たちが会議していた部屋で寝ずに待っていたミカエルは極力表情に怒りを出さないよう努めていたが…


駄目だ、もう我慢できない。


過ぎた怒りはミカエルの顔に引きつった笑いを浮かばせ、足元で神妙にひざまずくウリエルに思いつく限りのウィットの効いたジョークを次々に浴びせかけた。


「昨夜9時から6時間が経過したよ…現地に付いたらまず上司に挨拶するって常識だろ?

ああ、言い訳しなくてもいい。稲荷揚げ一丁食べて来たんだね?」


見た目16才少年の口から大人ジョークが迸りでる。


ウリエルの背中の筋肉がシャツごしにぎくっ!と跳ね上がった。分かりやすい奴め。もう少しイジってやるか。


「更に言うと、君の全身から石鹸のいい香りがする。LUSHの新作かな?


首筋には鬱血痕…直径3センチ。明らかに吸引されて付いたものだ。ずばりキスマーク…バレバレなんだよ。任地で真っ先にパートナーとお楽しみしてひとっ風呂浴びて僕の元に来るとは、いい度胸過ぎないかい!?」


ばんっ!と左手の拳でミカエルはテーブルを叩いた。


ははーっ…恥ずかしさで、上司の説教の間にウリエルの頭(こうべ)が20センチほど下がっていた。


「ったく、大天使ウリエルが1200年前に降格(堕天)した理由が実はウカノミタマによるハニートラップだったなんて、恥ずかしすぎて現世の人間には言えないよっ!


元々性欲の概念なんてない天使が…


はっ!『私たち、結婚しまあす』なんてさ、君の頭にはお花が咲いてるのかい?」


「お言葉ですが天使長」


おずおずとウリエルが顔を上げて反論した。


「ウカ様は元々ハニートラップ要員ではありませんでした。生前は一生処女を貫き通した清らかで気高き女性です。


大体あの時も私はウズメ、イシュタル、ハステトの世界3大ハニートラップ女神の誘惑を次々に退けましたぞ」


「単に好みじゃなかったからだろ?」ミカエルは冷たく言い捨てた。


「はっ、古代日本のセックスシンボルウズメはいきなり脱いで威嚇する(古事記より)という男子から見てはドン引きな行動しますし、


ハステトは歴史ある格の高い女神なれど所詮正体猫だし、イシュタルの男斬り武勇伝は地球外活動していた私の元にまで噂が届いてました。


という訳でお引き取りいただくよう丁重にお願いしていた所へ、交渉相手としてあのウカ様が現れたのです


…お互い一目惚れでした。しょうがないじゃないですか」



ええーっ?お色気タイプより、ソッチ(堅物キャリアウーマン)が好みだったかー!!


と地球連合3女神がプライドをズダボロにされた瞬間でもあった。


「君の脳内が一面のひまわり畑という事は今の発言で分かったよ」


まあいい、事務的には10秒で済む。ミカエルはA4サイズのクリスタル板を取り出して、浮かび上がる古代ルーン語の文字を淡々と読み上げた。


「大天使ウリエル。君に地球内での勤務を任ずる。期限は1年間。地球の日本時間8月9日、午前3時12分、天使長ミカエル…」


「宇宙の涯(はて)での危険任務の後の休暇ですね?有難く頂戴します」


ち・がーう!と叫んだ後でミカエルは辞令板でウリエルの頭をぶっ叩いた。叩いても壊れない、超硬質クリスタルで。


「君のデスクワークが溜まりに溜まりきってるからだろーがっ!


挙句の果てにこのクリニックの入室セキュリティプログラム、間違えたままにしやがって…

おかげで聡介の姪の菜緒ちゃんにまでここの存在バレちまったじゃないかっ!やり直しだー!」


「菜緒は聡介の3親等目…今更プログラム直しても遅いような気がいたしますが。それに野上家の人間は存外口が堅いですぞ」


「ま、まあそれはそうだが…」


「それより5年前、ここに住みついてたった1か月で野上祥子に見つかった天使長とガブリエルこそ、大ポカでございますぞ」


「ぐっ…!」これにはミカエルも言い返せなかった。


さすが天使最上級の役職、熾天使(セラフィム)だっただけある。


頭脳と実力は超一流。


なれど天使として最大の禁「恋に落ちる事」でウリエルは大天使にまで降格、地球で30年の謹慎をくらってしまったのだった。


まあでも当人にとっては謹慎の30年間は仕事せずに愛するウカといちゃいちゃしまくっていた「最高の新婚生活」なのだが。


あの頃は楽しかったなー、またウカ様と温泉にでも行くか。と仕事の辞令受けながら、ウリエルはバカンスの事ばかり考えていた。


「君も地球に着いたばかりで『かさねがさね』お疲れだろう、今から3日の休暇の後、デスクワークにかかるがいい」


このへっぽこ上司ミカは、少年の姿でえげつない嫌味吐くんだよなー。


表面上畏まって、ウリエルは辞令を受け取った。


それから二時間半後、9日早朝5時半、野上聡介はいつもの時間どおりに爽やかに目覚めた。


ここは…クリニックの回復室。自分はなぜ、上半身ハダカなんだ?


どうしてここに寝かされて、隣の回復カプセルは起動していて…榎本葉子が眠らされているんだ!?


聡介は自分の中にいる「荒魂」に体を譲り渡してからの記憶が無かった。時計を見たらあれから一晩経っている。


京都連続通り魔事件の犯人が葉子と解り、戦隊が変身して戦う破目になり…


葉子が蝶と融合したような形態になり、そうだ、全員消してやる。絶望的な宣告をされて「荒魂」が「自分に任せろ」と心の中で言ったのだ。


この様子だとあいつは彼女と戦い、怪我を負わせたのだな。戦隊の他の仲間は無事だろうか?蓮ちゃんは?ってーより…


「知られちゃったなあ…俺が人間じゃないって事を」


そうひとりごちた聡介に目覚めのコーヒーを差し出す者がいた。


約1年ぶりに会う焔色の髪の青年…


「ウリエル!」


「久しぶりだな、聡介」


滅多に笑わないウリエルが口元で微笑んだ。


「どうした、受け取らないのか?やっぱりグリーンティーが良かったか」


こいつがこうしてここにいるという意味。それは…



「とうとうこの惑星(ほし)を、破壊しに来たのか…」


昨夜の騒ぎよりもっと大きな厄災が来やがった。


「それはまだちょっと先。ウカ様との約束で延期しているだけだがな。だが、そこに眠る少女の怪我は、私のせいだ。お前との勝負は強制終了させた」


こいつが割って入るほど、俺はどえらい事態を起こしたのか?


ちくしょう、覚えてないこの身がうとましい!


聡介はカプセル内の葉子を横目で見ながら頭を抱え込んだ。


「事後処理は全て終わっている。遍照金剛(空海)の処置で少女は助かった。経過観察お願いします、と申し送られた」


ああ、空海さん脳外科医だったな。この子は頭部を打ったのか。聡介はカップを受け取ってふーふー冷ましながら薄めに淹れられたコーヒーをすすった。


「ウリ坊、お前は俺がアメリカンしか飲まないのは覚えてても猫舌なんは忘れるのな」


「その猪の子みたいな呼び方はやめてくれ」


と注意はしてみるものの、訂正する奴ではなかったな。と1年前の聡介のことをウリエルは思い出していた。


「それよりいつものように朝鍛錬してからシャワー、朝食、出勤…武道家とは大変だな。昨夜命がけの戦闘しといて」


「俺は怪我の治りが早いんは知ってるだろ?それで近所の医者の藤崎のじじいにうっすら怪しまれたもんだ」


自室に戻って道着に着替えようと回復室を出ようとする聡介にウリエルは楔を打ち込むように忠告した。


「この少女とお前のエネルギーがぶつかり合って、次元が裂ける所だったぞ…


それは宇宙の法則を乱す。

今度同じことをやったら、殺すから。

お前も、そこの少女も」


「…彼女だけはやめろ」


とだけ言って聡介は扉を開けて自室に戻って行った。



なんや?この会話は。その時葉子は覚醒して2人の会話を聞いていたのだ。


野上のおっちゃん、なんて恐ろしい存在と話してんねん!


そいつの正体は「破壊神」やで…あまりの会話の内容に葉子は寝たふりをしていたのだが…



ウリエルの心の中の光景は、閃光、爆発、灰塵、静寂…そっか、宇宙空間では音が響かないんやな。空気がないもの。


文字通りあまたもの「星の破壊」だった。


(少女よ、私の正体がよく分かったな…そちらも回復が早いな)


ウリエルの思念波が葉子の脳内に直に響いてくる。


(眠れ、この会話は悪夢と思えばいいさ。人間は夢のほとんどを忘れるのだから)


急激な眠りが葉子を襲い、そのまま意識を失った。



大天使ウリエル。彼の本当の使命は宇宙のバランスを取るための星の破壊。


地球もその例外ではない。


その星に生命があろうとなかろうと、「存在が宇宙の法則を汚す」と判断したらハンマーひと振りで数えきれないほどの星を砕いてきた。


判断基準は、彼が「気に入らねぇ」と思ったら。


そして、宇宙の法則を乱す者の、処刑。


大天使たちは、野上聡介に仕えている振りをして、5年前から監視をしていたのだ。


よいか少女よ…天使とは実は、恐ろしい存在なのだ。都合の良い恵みなぞ、人間の作った妄想なのだよ。


美しい言葉で夢といい、辛辣な言葉で迷妄という。



そしてこれから、迷妄に憑りつかれた人間どもが、この星を侵食する…


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