M1 UltraにみるAppleのコンシューマーラインにおけるデスクトップマシンの死

なんだかんだ言って選択肢はないので金が入ったら買う気はするけど、思うところがありすぎるのでポエム。メディアの提灯記事は腐る程溢れてるので、デスクトップMacユーザーからの率直な感想を書き連ねていきたいと思います。

Mac Studioは27インチiMacの変わりとなり得るのか?

去る3月9日日本時間未明、Appleの新たなデスクトップのラインナップとして"Mac Studio"が発表されました。発表時の鮮烈なグラフから様々なメディアでもてはやされ、その後実際のベンチマークなどからメディアや個人からいろいろな批評が飛び交っています。

さて、見出しにMac StudioはiMacの変わりになるのかと書きましたが、率直な感想としてノーだと思います。

今回発表されたMac Studioのラインナップは2つです。MacBook Proに搭載されているM1 Maxを搭載したモデル。もう一つはM1 Maxを2つ繋げたM1 Ultraを搭載するモデル。それぞれのモデルの価格は大体25万と50万です。
Appleの意図としてM1 Maxモデルをコンシューマー向けデスクトップコンピューターのハイエンドとして、M1 UltraモデルをHPCといったよりハードコアなユーザー向けと言った位置づけとしているのだろうと思います。

まず、M1 Maxですが、Apple的にはApple基準のベンチマークで前世代(2世代前)のintel iMacのハイエンドモデルを(特定のベンチにおいて)超えているのだからいいだろうというスタンスだと思うのですが、現代のコンピューターのハイエンドとして見据えるとこれは大きな乖離があります。いくらモバイルチップとして優れていようが、単純な性能比べでは"現代の"デスクトップマシンのパフォーマンスとは比べ物にならないのがM1 Maxです。intelマシンで言えばハイエンドNUCぐらいの位置づけが正しいと思います。

ついでM1 Ultraモデル。こちらはコンシューマーデスクトップにおけるハイエンドマシンとしてみたときに、CPU性能に関しては概ね問題はないと思えます。GPU性能に関しては21Tflopsと単純な演算性能で比べればNVIDIAのRTX3070ぐらいのクラスであると考えられます。Appleが標榜した3090クラスの性能というのはあまりに馬鹿げた誇大広告ですが、一般のミドルハイクラスのデスクトップコンピューターとしては申し分のないGPUスペックかと思います(NVIDIAの次世代が見え隠れし始めている今適しているのかと言われると微妙だがここでは目を瞑る)。しかし価格はどうか。性能を軸に価格を考えると高いと言わざるを得ないと思います。コンシューマーハイエンドとして捉えるとGPU以外の性能は妥当に見えるが価格はべらぼうに高い。かつてのMacPro(2019)のベースモデルと似たような構図に見えますね?
そう、Mac StudioはMac Proのベースモデルとして捉えるとスッと腹落ちします。

とするとiMac 27インチが位置していたモデルはどこに行ったのか?少なくとも現状のラインナップからはその位置はポッカリと消えてしまっているのです。

Mac Studioに感じる気に入らなさの理由

多くの人が抱えるモヤモヤ感の理由は大きく2つあるのではないかと思います。1つ目の理由としてはやはりMac StudioのM1 Ultraモデルを27インチiMacがかつて存在していた立ち位置に捉えているからというのはあると思います。iMacが持っていた5kディスプレイという付加価値もありませんし、価格の乖離が激しいため、元々のiMacユーザーとしては選択肢に入れづらいでしょう。

2つ目の理由はやはりパフォーマンスそのものでしょう。AppleSiliconは登場時、当時のラップトップと比べ物にならないほど低発熱でパフォーマンスも競合製品を超えるという華々しい登場をしたためかなりの衝撃がありました。しかし、M1 Ultraはその熱効率、省電力性の高さよりも競合に勝てないという部分が目立ってしまいました。狭い筐体でバッテリー駆動するラップトップでは低発熱、省電力は大きな魅力となりますが、なんの制約もないデスクトップマシンではこれらの優先度は低いです。ファンが回らないという利点はあるでしょうが、絶対的なパフォーマンスに比べると多くの人間にとってやはり響きにくいです。

これは、時速80マイルで走る電気自動車の燃料消費量がランボルギーニよりも劇的に少ないから、エンジンが優れていると主張するようなもので、「ランボが2倍の速度で走れる」という事実に触れていません

上記はVergeの記事の引用ですが、かなり的確な表現だと思います。価格の面、デスクトップコンピューターという製品特性の面から見ても、多くのユーザーがそこに求めているのは"ランボルギーニ"だと思います。

Appleがしなかった、これからするかもしれないがすべきこと

27インチiMacを求めていたユーザー層はモバイル移行した人以外は殺されてしまったことかと思います。Appleがするべきことは彼らの救済です。

iMacを支持していたユーザーのボリュームゾーンとしてDTMユーザーも多くいたと思っています。DTMユーザーはCPU性能自体はハイエンド級が欲しいが、グラフィック性能は別にモバイルに毛が生えた程度でも問題ないというユーザーです。つまりM1 Ultra程度のCPUパワーを備えつつ、GPU性能はM1 Max性能にとどまる程度のプロセッサーが必要なわけです。となると27インチiMacを復活させるためにはM1 Maxを2つ重ねたプロセッサーではなく、M1 Proを2つ重ねたプロセッサーがあれば良さそうな感じがしてきます。いろいろな噂を見ているとこれは実現するか怪しいところですが、M1 Maxに毛が生えた程度のプロセッサーでまたお茶を濁すようなことがあればその時点でAppleのデスクトップマシンは本当に死を迎えることになると思います。

ソフトウェアの面でもMacのDTMユーザーは危機を迎えています。そろそろAppleSilicon移行も終局かというところですが、UADをはじめ、主要DTMプラグインメーカーはAppleSiliconネイティブ対応を完了していません。つまりRossettaを手放せる未来が見えないのです。Appleがどれだけ華々しいベンチ結果を見せてきていても、そのグラフにすらパフォーマンスが届いていないかもしれない現状なのです。Appleはプロ向けを標榜するなら省電力性よりも何よりパフォーマンスを追求する必要があるでしょう。デベロッパーが全然ついてきていないのだから、もうなりふり構っている暇はないと思います。

2年ほど前AppleSiliconの発表で感じた怪しさは半分ぐらいは的中してしまったわけですが、このままPCに比重を傾けつつ、Macは単なるクライアントユースとするかどうか真剣に悩んでいます。
Mac StudioはMacProとiMacの間を埋めるどころかさらに溝を深めてしまったのはただただ悲しいです。

追記(2022/07/18)
Mac StudioのUltraモデル買いました。届いたらレビューします。いつ届くんだろう・・・

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