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ワーケーションのテーマが「食」である理由

朝はいつも、おなかが空いて目が覚める。
寝ぼけ眼で今朝の朝ごはんはどうしようかと思う。

冷蔵庫には銀鱈の西京漬けとかぶときゅうりの糠味噌漬け、コンロの小鍋には一人分の味噌汁用の水に、寝る前にはらわたを取った煮干しを二匹いれてある。卵の賞味期限が明日までだから今日は桜エビを入れた卵焼きにしようか。
決まった食材がある日はこんな感じ、パンとかトマトだけとか、雑多な残り物しかないときは、ピザトーストにしたり、思いつかなかったら、冷蔵庫にある食材をクックパッドに打ち込んで、新メニューをためしてみたり。
そんな、素敵朝食計画を布団の中で10分くらい考えながら、わくわくと起き上がる。

米を浸水させてから、一時間ほどランニングして、帰ってすぐ土鍋で炊いたほかほかのご飯は、おかずが何もなくても、それだけでどんどん食が進む。
一口噛みしめるごとに、甘い米本来の味が口中に広がって、なんともいえないほわほわと、とろけるように幸せな気分になる。全身の細胞が素敵なエネルギーをありがとうと歓声をあげているのがわかる。
口内も身体も幸せで、ああたまらん、ほんとうに『美味しい死』しそう……と思いながら朝ごはんを食べる、これが日課だ。

朝ごはんなんて面倒だよ、だいたい食べないという友達には、都合がつけば、家に泊まらせて「超美味い朝ごはんの刑」に処したりすると
「むうわーーーしあわへーー」と、口に白米をぎゅうぎゅうに詰め込んだまま叫ぶので、うふふんと得意げな気持ちになる。

そう、美味しいご飯を食べることは「しあわへ」。
こうして始める一日は、やる気に満ちて楽しい。
前の日に、どんなに嫌なことがあっても、美味しいごはんがリセットしてくれる。

昔、じゃりン子チエという漫画で、大変な目にあった主人公のチエちゃんに、おばあはんがいう台詞があった

「人間に一番悪いのは、腹が減るのと寒いということですわ、ほんまに死にたいとき、メシも食べんとものを考えるとロクなこと考えまへんのや、おまけに、さむ~い部屋に一人でいたみなはれ、ひもじい、さむい、もう死にたい、不幸はこの順番で来ますのや」

小学校のとき読んだこのセリフが、なぜか、ずっとずっと忘れられずにいて、その後、つらい時、しんどい時を経て、まさにこの教えが真理と体感し、やばいときには必ず美味しいものをたらふく食べるようにしていたおかげで、52歳まで機嫌よく生きてこられた。

食べるという能動的な行為を行うことは、自ら生きることを決意できた証だ。食べた時点で、死へのルートから目を反らして、自らを明日生かすことを選択している。

食べることは、外部から自分以外の命を肉体に取り込んで、生きるエネルギーに変換することだ、仙人ではないので空気だけでは生きていけない。そこには必ず他者の命があり、他を喰らって生きる世の理を毎日、それこそ「噛みしめて」生きている。
それら命を、食べられる形にするのが料理であり、その技術者が料理人である。

私は、37歳まで家電メーカーでプロダクトデザイナーとして働いていたが、その後一念発起して、会社を辞めて調理師専門学校に行き、都内の日本料理の店に修業に入って10年修業させていただいた。
料理は人を救える。命を明日につなげる凄い仕事だと思い、その為の技術を身につければ、いつでもどこでも、自分も周りの人も幸せにできるようになるに違いない、と、思ったからだった。

そうやって、第二の人生を料理の修業をして過ごした私は、50歳でその仕事を辞し、国内外を巡る旅にでることにした。

そんなわけで、ワーケーションのテーマは「食」
食べること、生きること、その先にある沢山の笑顔のことについてを書いていきたいと思う。


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