好きな人に会えなくなる日
昨日は好きな人の制服の穴に気づいてから他のことが考えられなくなってしまった。(前回の記事参照)
なんかやべえ情報がさらっと入ってきたような気がするので思い出せるうちに書いておこう。
昨日休憩室に入ったら、模様替えしていた。
椅子が増えた??気のせいかな。
そしてなんと今日の午前に来たタイミーは3人しかいないらしい。
そりゃ申し込めないわけだよ。激戦になるわけだよ。
70代のタイミーさんとお話しながら待っていたら、
いつもと違う社員の女の人が迎えに来た。
この人はたぶんここで一番優しくて人間味がある。
いつも穏やかで優しくて丁寧で本当に好き。
おそらく40代なのになぜかこの人はみんなにちゃん付けで呼ばれていて、
わたしの好きな人も彼女のことをみきちゃんと呼ぶのを聞いたことがある。
このときばかりは、
「わたしの下の名前なんでみきじゃないんだぁぁぁ」と大いに悶えたものだ。
でも本当にいい人だから仕方ない。
あれくらいいい人ならわたしの好きな人にちゃん付けされてもいいレベルだ。(何様?)
ここは工場だからなのかいつも雑談とかもなく機械的に案内されるので、
わたし達も無言で社員さんに着いて行くのだけど、
みきちゃんはリピーターのわたし達に
「みんな見たことある人達だ」と笑いかけて優しい声かけをしてくれてたので、
いつもとは全然違う雰囲気、
いやもうほぼ別の会社みたいになった。
さすがすぎる。人間のレベルが違う。
そしてなんと、
平日はタイミーじゃない人達が入っていること、
今月外国からの研修生が入ったのでタイミーの募集が減っていること、
来月またさらに外国人研修生が入るのでタイミーの募集は無くなるかもしれない
とわたしが最も恐れていることをさらっと教えてくれた。
「え、今なんかさらっとやばいこと言わなかった?」
と混乱する頭で好きな人のいる現場へ向かう。
70代のタイミーさんは、
重たいほうの仕事は絶対にできないだろう。
彼女もそれが不安だったらしくソワソワしていた。
どのポジションに振られるのか不安な気持ちは、
わたしも理由は違えど痛いほどわかる。
だからわたしも重たいほうの仕事は嫌だけど、
「もしあっちって言われたらわたし代わりますからね!!!」と声をかけてあげた。
今日は好きな人がタイミーを振り分けている。
彼はきっとそんな無茶振りはしないと思うけれど、念のためだ。
そして彼はやはりわたしと70代のタイミーさんを2人で軽いほうの作業場に送ってくれた。
さすができる男だ。
この人はそういうところだけは絶対に優しいのだ。
作業に入っても彼女はしばらく話しかけてきたので、
わたしはなかなか自分の世界に入ることができなかったのだけど、
でもなんかいつもより楽しい気がする。
たまにはこういう日があってもいいか。
少しずつ無言の時間が増えてくると、
わたしはさっきみきちゃんが言っていたことを思い出す。
来月はタイミーの募集が無くなるかも…?
てことはわたしは来月は好きな人に会えない?
今月でラストってこと?
1年かけてこんなに仕事覚えたのに?
この恋はこれで1年で終わるの?
わたしはこの1年一体どうすればよかったの?
最後なら連絡先渡したりできるの?
?マークが止まらない。???
でも思い出すのは楽しいことばかりだ。
ここで出会ったタイミーさんも、
ここの会社の人も基本的にみんな優しくて、
あまり嫌な記憶がない。
さっき70代のタイミーさんが怒鳴るパートさんの話をしていたけれど、
わたしはその人達に怒鳴られるどころか、
優しく仕事を教えてもらったり雑談したりしていた。
そう言うと「あなたは人当たりが良いから」と言われた。
なんか前も他の人にこんなことを言われた気がする。
あのときは「お姉さんはいつもニコニコしてるから」と言われた。
そりゃそうだ。
月に何回かしかお目にかかれない、
大好きで大好きでたまらない男が、
常に数メートル後ろにいるのだから。
今笑わなくて一体いつ笑うのか。
去年の夏、好きな人に会いたくて会いたくて毎日ここに通っていた頃のことも思い出す。
本業を終えて逃げるようにここに来て、
わたしは好きな人が来るのをずっと待っていた。
(彼は過労で寝込んで休んでいた)
あの頃はここの会社の人よりもタイミーの方が多くて、しかもほとんどリピーターだったので、
なんか放課後みたいなゆるい空気感があった。
漂うリネンの匂いと夏の夜の蒸し暑さ。
わたしは工場で働くのも初めての経験だったから、
きっと一生忘れないと思う。
あれから3ヶ月待って好きな人がやっと元の持ち場に戻ってきてくれたとき、
わたしはどんなに嬉しかったことか。
どんなにこの先の生活に希望を見出したことだろう。
あのとき彼がたまたまわたしの隣に来て話せたのが、悲しいけれど結局一番彼と話せた日になるのかな。
今年の秋も冬も、
わたしはもう好きな人には会えないのかもしれない。
昔大好きだった人の奥さんは、台湾人だった。
彼はいつもちょっと誇らしげに
「奥さん台湾の人だから」と言っていたから、
きっとお気に入りなのだろう。
日本人のわたしでは物足りないのだろう。
わたしは今でも台湾が好きじゃない。
旅行は大好きだけど、
台湾にはきっと一生行くことはないと思う。
わたしの好きな人は、
また外国の人に取られてしまうのだ。
そう思うと泣きたくなる。
もしかしたらわたしはそういう運命なんだろうか。
今年の夏も夜のシフトの募集が出ると思っていた。
今年は好きな人もいるのだと楽しみにしていた。
好きな人が暑くて前をはだける姿や、
汗をかいてセクシーなところが見れるかもしれない、
もしかしたら匂いまでわかっちゃうかもしれないどうしようとわくわくしていた。
今日も暑かったので彼は袖を肩まで捲り上げていて、
そんな彼を見るのは初めてだったので、
最初は本当に恥ずかしくて直視できず、
目を逸らしていた。
わたしはあまりにも現実の異性に免疫がなさすぎて、
好きな人の二の腕すら直視できないのだ。情けない。
そんなどきどきの夏がこれから本格的に来ると思っていたのに。
そして去年と同じなら、
夏は熱中症対策でヘアキャップを取っていいはずだ。
ヘアキャップを取って前髪を普通に下ろせば、
彼が少しでもわたしに興味を示さないかなとちょっと期待していた。
そんな楽しみな夏だったのに。
今年はわたしじゃなくて外国人研修生の女の子が入るのだ。
インドネシアから来るまだ10代の女の子達。
彼女達なら、毎日彼に会って仕事のわからないことも彼に聞いて仲良くなったりできるんだろうな。
彼だって男だから、
日本の30代のおばさんよりも外国の10代の女の子の方が良いだろう。
生物学的に見たら、絶対に10代の方が良いに決まってる。あの子達はお肌もピチピチだし。
今日彼が後ろでわたし達に「これも入るかな」とぼそっと言ったとき、
わたしは他のどのタイミーよりも真っ先に振り向いて取りに行った。
去年の夏に彼が倒れる前、
まだタイミーの人達も不慣れだったせいか、
彼は今よりもマメにわたし達に声をかけてくれた。
彼がわたしに「これやったことあるかな?」と聞いたとき、
わたしは死ぬほどときめきが止まらなかった。
男の人がこんなに優しく、子供に話しかけるみたいに声をかけてくれたのは初めてだったから。
しかもあの大好きな声で。
今日も彼が他のタイミーさんにお手洗いに行きたいと言われて「あぁ、いいよいいよ」と言ったとき、
わたしはもうこの音が好き過ぎて、
本当に来月からここに来れなくなるんなら、
この声を録音して帰りたいと一瞬思ってしまった。
脳内にボイスレコーダーが浮かんで、慌てて消した。
犯罪はまずい。
でもそれくらいわたしは彼から出てくる50音が全部好きだ。
こんなに好きな声の男の人にはもうきっと出会えない気がする。
だから失いたくないのだ。
わたしは彼を、ここでの楽しい時間を、
絶対に失いたくない。
しかしこの恋には終わりが見えてきてしまった。
でもまだみきちゃんが予告してくれて良かったのだ。
もしこれで来月突然募集が出なくなったら、
わたしは相当動揺したに違いない。
やっぱりみきちゃんはすごい。
彼にちゃん付けされるだけある。
わたしはあの人には絶対にかなわない。
わたしも彼女レベルにならないと、
きっと彼にちゃん付けなんてしてもらえないのだろう。