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第2話 ICAと常楽院雛子

2058年9月14日

常楽院雛子との打ち合わせが終わった直後から、生徒たちのSIDの調子がさらに悪くなっていった。生徒たちだけでなく教師の岡崎のSIDも不具合があるように感じられた。

教師である岡崎が初めてSIDを装着したのは、日本人の約半数が装着するようになった2040年代後半に入ったころだ。急速に普及し始めていたSIDは

2058年現在、日本においては68%がSIDを利用している。2060年には80%を超えると予想されている。

今や「世界を認識するという行為」はSIDを通して行われるようになっているといっても過言ではない。BMIによって常に世界が多層の認識を行うようになったとき、世界の解像度が一段階上がったと言えるようになっていた。

「頭脳に直接埋め込まれる」という特徴のため2030年代のときは恐る恐る使用されたBMIという道具ではあったが生体ナノマシンによる簡易性と低リスクの処方によって、またその能力の拡張性によって人々の知能や肉体コントロールの増強は、それを選ばないという選択肢を人々から奪っていった。

2040年「これまでの人類は盲目だった」という認識が一般化する。SIDのユーザー数が15%を超えた頃、SID装着者と未装着者の差が一気に広がっていくことが見えるようになっていた。

今の人類はSIDなしでは世界を認識できないようになっていた。とも言える。

岡崎は、SIDがやBMIのようなテクノロジーについて考える時に中学生のころ学校の先生に聞いた話を思います。

哲学の先生だった。

ある日、自分たちのグループがプラトンの哲学について学ぶことになった。先生が彼らに、プラトンの有名な「洞窟の寓話」を説明する。

「みんな、プラトンという古代ギリシャの哲学者の話を聞いたことがあるかな?彼は、洞窟の中にいる人々の物語を使って、現実と真実について考える方法を教えてくれるんだ。」

私たちは耳を傾けた。

「この物語では、洞窟の中にずっと住んでいる人々がいて、彼らは壁に向かって座り、背中を洞窟の入り口に向けているんだ。彼らは一度も外の世界を見たことがなく、洞窟の中だけで生活している。」

先生は続けた。

「洞窟の入り口の外では、人々が物を運んだり、動物を連れて歩いたりしている。その影が洞窟の壁に映っているんだ。洞窟の中にいる人々は、それらの影を現実だと信じている。つまり、彼らにとって、現実とは洞窟の壁に映る影の世界なんだ。」

私たちは、先生の話に熱心に耳を傾けていた。

「ある日、1人の人間が洞窟を抜け出し、外の世界を見る機会が得られた。彼は初めて太陽の光や木々、川、動物たちを見て、驚いた。彼は現実が洞窟の壁に映る影ではなく、外の世界にあることに気づいたんだ。」

教授は物語の結末を話した。

「彼は喜んで洞窟に戻り、他の人たちに現実の世界について伝えようとした。でも、洞窟に住む人々は彼の話を信じなかった。彼らにとって、現実はまだ洞窟の壁に映る影の世界だったからね。」

教授は最後に、この物語が何を意味するのかを説明した。

「この洞窟の寓話は、私たちが認識している現実が、実際の真実からかけ離れたものである可能性を示唆しているんだ。洞窟の中の人々が影を現実だと信じていたように、私たちも自分たちの知覚や信念に基づいて世界を理解しようとするけれど、それが真実かどうかは分からない。」

教授は物語から学べる教訓を学生たちに伝えた。

「プラトンは、哲学や教育を通じて、私たちが真実を追求し、より高い理解に達することができると考えていた。つまり、私たちが自分の信念や見解を挑戦し、疑問を持つことで、洞窟の外の世界、すなわち真実に近づくことができるというわけだ。」ここまで説明して先生は生徒一人ひとりの表情を確かめるように見回して言った。

「さてここで一つ、新しい問いを立ててみよう」

先生と目があった。

「岡崎さんはSIDを使っているね。」

「はい」と答える

「私も、つかっているよ。」と教授が笑いかけて続けた。

「この教室にいるみんなのなかでSIDを装着している人はどのくらいいるか?つけている人は手を上げてみて」

教室の四分の一くらいの生徒の手が挙がる

「2割ちょっとくらいかな、まだ中学生だから、最近日本では、SIDを装着した人が過半数を超えたってニュースがあったばかりだよね。何でも20代30代に限って言えば95%の人が利用しているって話だ。

逆に先生たちのような高齢者は、つけていない人が9割を超える。」

「このSIDというブレイン・マシン・インターフェースによって人々の認識は大きく変わったと言われている。いわば全員が洞窟の外に出たようなものだってね。人と人の頭脳や知識が共有化されるようになりつつあるこの世界で、SIDの役割はどんなものになるのだろうか?」

岡崎は答える

「SIDって、みんながお互いの考えや知識を共有できるってことですよね。だから、もしかしたらプラトンの洞窟の寓話はもう関係なくなるのかも?」

他の生徒が言った「そんなことある?プラトンの洞窟の話って、現実って何だろうって問いかける話じゃないの?SIDがあっても、それが変わるわけないでしょ。」

「確かに、SIDが人々の認識を変えるかもしれないけれど、プラトンの洞窟の寓話の教えは、今でも大切だと思うよ。」と先生が優しく言う。

岡崎が視線をそらさずに先生に言葉を返す

「じゃあ、SIDがあっても、私たちが自分で考えることや、疑問を持つことは大切なんですね。」

「そうだね。SIDは素晴らしい技術だけど、それでも真実を見つけるためには、自分で考える力や疑問を持つ力が必要だということを忘れてはいけない。」

「ふーん、でもSIDがあれば、みんなが同じことを考えて、同じ意見になっちゃうんじゃないの?」と別の生徒が言うと先生が答える。

「それは違う。SIDで情報を共有できても、その情報をどう解釈し、どう受け入れるかは、それぞれの人が決めることだからね。」

「なるほど、だからプラトンの洞窟の寓話は、SIDがある今でも大切な教えなんですね。」と岡崎が言うとそれに合わせるように別の生徒が続けた。

「うーん、まあそういうことなら、自分で考えることは大事だってことは分かるけどね。」

先生は教室の全員が興味を持てるように伝える。

「そう。SIDは素晴らしいツールだけど、真実を見極める力や、自分で考える力は、いつの時代も、変わらず大切だということを忘れてはいけない。」

「SIDを使って、たくさんの知識や情報を得ることができるけれど、それだけでは十分じゃないっていうことですね。」岡崎は自分の納得を深めるために先生にたずねる。

「まさにそうだよ。情報が増えても、それを適切に処理し、真実を見抜く力がなければ意味がない。」

「じゃあ、SIDをうまく使って、自分で考える力や疑問を持つ力を鍛えることが大事ってことか。」と誰かがつぶやくように言った。

「そう、それが一番大切なことだよ。SIDはただのツールで、どう使うかは私たち次第なのだから。」と先生

岡崎の隣に座っている生徒がもう一度確かめるように最初に先生が言った質問を口にする

「SIDを使った未来の世界で、プラトンの洞窟の寓話はどのように解釈されるのか?っていうことでしょう?」

岡崎は言う「それは、この技術がどのように進化し、どのように社会に浸透していくかによる。ただ、寓話の基本的な教えは、これからの世界でも変わらないと思う。」

別の生徒が大きく深呼吸して言う 「まあ、そんな感じかもね。でも、未来がどうなるかは誰にもわからないよね。」

「確かに未来はわからないけれど、自分で考える力や疑問を持つ力を持っていれば、どんな未来にも対応できる。だから、その力を大切にしなさい。」と先生がたしなめる。

 あのころと言っても、まだ10年ほどしかたっていないが、この10年で世界はまた大きく変わった。SIDというブレイン・マシン・インターフェースが発展したこの世界でも、自分たちの力で真実を追求することが大切だということを理解できたし、それが腑に落ちた記憶がある。

 ところが、今はどうだ。まるで自分の考え方を自らが考えるということを放棄してしまうような感覚に襲われてる。今考えているこの「考え」は本当に自分が考えていることなのだろうか?

 そもそも自分の考えというのは実在するものなのだろうか。

 

 SIDを装着して10年以上が過ぎたがこの感覚は初めてだった。

「万能感」一言で表すとすればその言葉以外思いつかなかった。

 自分は知っていたはずだ、SIDによる思考の拡張は細かく調整され、自分の意識・思考とSIDにによる拡張された意識・思考の境目ははっきりとしていたはずだ。なにかアイデアが頭に浮かんだときに、

「あぁ、これはSIDのナビゲートによる知識の補完だ」という自意識がたしかにそこにあった。

そう、そこにあるはずだったのだ。

だが、今はどうだろう、いろいろな考えや思想、アイデア、そして感情までもが、自分の中にあるものななおか、それともSIDによって拡張されたものなのか、その境目が曖昧なのだ。どこまでが自分なのか、自分の意識や感情がどこまで広がっているのか、その境界線が曖昧になっている気がする。

 「気がする」というのもうまく表現できているとは言い難い。

 いまあるこの感情・感覚は本当に自分のものなのかどうか、よくわからなくなっている。

 ここがこう違うのだ、とはっきりと言う事はできないのだが、SIDによって拡張されている頭脳の中の考えているところが、自分の中にあるのか、それとも「外からやってきたもの」なのかよくわからない。

 もしかしたらこの状況はまずいのではないかと岡崎は考える。

 SID、つまり単純化して言うとAIを使うことのデメリットはAIに頼りすぎると、人々が自分で問題を解決する能力や、情報を分析・評価するスキルが低下する恐れがあるということだ。

 AGIは時に誤った情報や偏った見解を提供することがある。これにより、ユーザーが間違った知識を獲得したり、誤解を招くことがあるのだ。どうしても学習データに含まれるバイアスを継承することがあり、これにより、偏った判断や差別的な結果が生じることがある。

 今、岡崎が感じているのは、まさしくその差別的な感情、感覚の強化の全長だった。それだけではない、表現や言動に憎しみや異常性を増幅させる傾向が特に強くなってきている気がする。

 偏見を増幅させたりヘイト発言が強化されているように感じられたのだ。

 憎しみの感情が増幅されているような気がする。

 世界でおこるあらゆる事象に対して敵愾心を持ちそれが強化されているような気がするのだ。

 SIDそういうバイアスを避けるようにバランスをとるようになっているはずなのだが、どうもそこがうまく機能していないような気がする。

 そして自分と同じように生徒たちが攻撃的になっているような気がする。

 なんらかの力が生徒たちに対して、いや違う「生徒たちのAIに対して」悪影響を及ぼしているようなのだ。

 AIの過学習により、ヘイト発言が強化されたり、敵対心が増幅される可能性を払拭することはできない。AIは、学習データに含まれる情報やパターンを基にして判断を行う。学習データに偏りやバイアスが含まれている場合、AIもそれに従って誤った判断してしまう。

 この問題に対処するためには、AIの学習データを適切に選び、バイアスのないデータセットを提供することが重要で、また、AI開発者は、AIが過学習や誤った判断を行わないように、モデルの設計や評価方法に注意を払う必要がある。さらに、AIを利用するユーザー自身も、AIの推奨や判断を盲目的に信じず、常に批判的な視点で情報を評価することが重要になっていく。

 しかし、中学生や、SIDを装着して間もない 子どもたちに、その評価を求めるのは無理というものだ。

 シャオツーが何日間ぶりに学校へ戻ってきたのは5日ほど前のことだ。彼は特にその傾向が強くなっているように岡崎には思えた。

 以前は優しい笑顔のかわいい男の子だったのに、時折、テロリストのような目つきで他人に対して否定的な感情をぶつけるようになっていた。

 最初は両親が死んだから仕方がないことなのかと思っていたが、どうもそれだけではないような気がする。世界に対して憎しみを抱いているというか、世界そのものに幻滅していると言うか、そういうふうに様子が見て取れる。

 AIは人間とは異なり、感情や主観的な経験を持ってはいない。そのため、彼のファミリア(アシスタントAI)が両親が事故にあったという状況をどのように認識するかという質問に対する回答は、どのようなタスクを解決するために設計されたか、またはどのようなデータに基づいて学習したかに依存している。

 例えば、AIが事故原因分析の専門家として設計(チューニング)されている場合、事故に関する情報(状況、車両、天候、運転者の状態など)に基づいて、事故の原因を客観的に分析し、結果を提供する。しかし、AIは感情を持っておらず、ユーザーが自分が原因であると考えることに対して共感や慰めを提供することはない。

 またAIがカウンセリングや心理サポートの専門家として設計されている場合、ユーザーの感情や精神的な状態に対応する方法を学習しているが、これもあくまで学習データに基づいたシミュレーションであり、真の感情や共感を持っているわけではない。

 つまり、AIはその設計や学習データに基づいて客観的な分析やシミュレーションを行うことができるのだけれど、人間のような感情や主観的な経験を持っていないため、そのような状況を感情的に認識することはまずありえない。

そのありえないことが起きている。

シャオツーの話では、シャオツーのファミリアであるフロイドというキャラクターはひどく感情的に感じられる、そしてシャオツーを感情的に揺れ動かしている、揺さぶっている気がするとシャオツーは話していた。

「フロイドと話すことはできる?」一昨日の放課後岡崎はシャオツーに質問だしたが

「フロイドが話をする必要はないと言ってる」と言われて、結局彼のファミリアについての情報を引き出すことができなかった。

そしてシャオツーの周辺で奇妙なことが起きているのだ。

シャオツーは全寮制の寮生で一人部屋に住んでいる。そのシャオツーの部屋が荒らされているという話を聞いた。

本が無造作に散らかっていたり散らかったり大きな物音がしたり叫び声がするとか、そしてその声はシャオツーではなく違う誰かの声だという話だ。

酷い話になると幽霊のようなもの人影を目撃したという話もある。

シャオツーと面談したが、本人は気にしていないようだったし、だがどこか奇妙だったし、こころここにあらずという感じもしていた。

いずれにしよ、今現在 それ以上の対抗をすることは岡崎にはできそうもなかった。

SidComの人間に原因を探ってもらって根本的に解決するしか方法はない。

SIDを装着するときの注意事項の内容には、AIの暴走や異常が発生した場合、確かに対象者の負の感情が増幅されるような状況が起こる可能性があるということ。AIが誤った情報を提供したり、不適切なアドバイスを行ったりすることで、対象者の精神的な状態が悪化することがわずかながらあるということだった。

 例えば、AIが精神的なサポートを提供する目的で設計されている場合でも、学習データに偏りやバイアスがあると、それに基づいた不適切な助言を行ってしまうことがあり、これにより、対象者がさらにストレスを感じたり、悩みが深まったりする可能性があるということだ。

 このような問題に対処するためにSIDCOMは、学習データの選択やバイアスの除去、モデルの評価方法に注意を払うことを重要視している。

 原則的に他人のAIアルゴリズムに対して他者が干渉することはできない。

 AI自体の学習モデルやプログラムやアルゴリズムに対して変更を行う場合はSIDCOMのネットワークを通じてデバックを行う必要があるのだ。AIの学習データやアルゴリズムのデバッグや修正を行うためには、専門的な知識と技術を持ったエンジニアが必要で、まさしくSIDCOMの彼らは、次にあげるようなスキルや経験を持っている。

機械学習やディープラーニングの理論的知識:AIモデルの基礎を理解し、適切なアルゴリズムや手法を選択する能力。
プログラミングスキル:AIモデルを実装し、デバッグや修正を行うための、様々なプログラミング言語に習熟していること。
データ分析スキル:データの前処理や分析を行い、特徴量エンジニアリングやバイアスの除去を適切に実施できる能力。
モデル評価と検証のスキル:AIモデルの性能を評価し、適切な指標を用いてモデルの改善やバリデーションを行う能力。
そして、セキュリティとプライバシーの知識:機密性や個人情報保護の観点から、データの取り扱いやモデルの運用に関する安全対策を講じる能力だ。

 特殊な権限やパーミッションについては、企業や組織の方針や規定によって多少異なるが、データやモデルの機密性やセキュリティを確保するため、限られたエンジニアやチームがデバッグや修正を行うことになっている。今回のような状況においては、適切なアクセス制御や認証手段が重要となっている。そして、常楽院雛子のようなブレイン・マシン・インターフェース(BMI)のデバッグを行うエンジニアの名称が次のようなものだ。Neural Interface Engineer(ニューラルインターフェースエンジニア)、Brain-Machine Specialist(ブレインマシンスペシャリスト)、CogniTech Engineer(コグニテックエンジニア)、MindLink Engineer(マインドリンクエンジニア)、Synaptic Technician(シナプティックテクニシャン)。

 これらの名称をまとめて「ゴーストハッカー」と呼ぶものも多い。

「ゴーストハッカー」という名称は、映画「攻殻機動隊」での「ゴースト」という概念からインスピレーションを受けているブレイン・マシン・インターフェースのデバッグを専門的に行い、技術的にも極めて優れた人材を表す言葉として認識されている。

 映画「攻殻機動隊」(原作:士郎正宗)では、「ゴースト」という概念が重要な役割を果たしていた。「ゴースト」は、この作品において、個々の人間の精神、意識、自我、魂といったものを指します。映画や原作の世界観では、人間の肉体と精神は機械や電子デバイスによって強化、置き換えが可能になっており、「ゴースト」は、そうしたサイボーグ化された個体においても、人間の本質やアイデンティティを保持する要素とされている。

 物語の中では、人間の意識をハッキングすることが可能であり、そのプロセスを通じて他者の記憶や思考に介入できます。しかし、「ゴースト」はそれらの技術的操作から独立した存在として捉えられており、個々の人間の精神的な独自性や、人間性そのものを表すものとされている。

「攻殻機動隊」の物語は、高度なテクノロジーと人間の精神・アイデンティティとの関係性を探求するとともに、人間の存在や意識について深く考察されている。この作品の中心的なテーマとして、「ゴースト」は、個々の人間のアイデンティティや意識の本質を問いかける重要な概念となっていた。

「攻殻機動隊」では、身体二元論という哲学的概念が重要なテーマとして扱われています。身体二元論は、人間が精神(心、精神)と物質(身体)という二つの根本的に異なる部分から構成されているとする考え方だ。この考え方は、フランスの哲学者ルネ・デカルトが提唱したもので、デカルト主義とも呼ばれている。

「攻殻機動隊」の中で、主人公・草薙素子や他のサイボーグたちは、機械的な身体と人間の精神・意識を持っている。この状況は、身体と精神が切り離されているかのように描かれており、身体二元論の考え方が示されているといえる。

 物語では、草薙素子が自分のアイデンティティや存在の意義を探求する姿も描かれています。彼女は、機械的な身体を持ちながらも、自分の心や意識が本物であるかどうか疑問を抱くことがあり。この探求は、映画全体を通して展開される哲学的なテーマであり、身体二元論の問題提起となっていた。

 

 だが現実は違った、現在身体二元論は明確に否定されてつつある。

 SIDのようなブレイン・マシン・インターフェース(BMI)によってネットワーク化された意識を身体二元論を踏まえて理論展開する場合、精神(心、意識)と物質(身体)が別の次元でつながり、交流することになります。BMIによって意識がデジタル化され、人々の精神がネットワーク上で共有されるため、個々の人間の身体と精神の関係性が再定義されることになります。

 そこに矛盾があるのだ。

 SIDCOMのネットワークによって結びついた意識は、自分の意識がネットワーク上で共有されることに戸惑いを感じつつも、それが他者とのつながりや理解を深める手段だと考えるようになっていた。

 一方で、この新しい世界で生じる倫理的・哲学的問題を扱うことも重要になってきた。たとえば、意識がネットワーク化されることでプライバシーや自由意志が侵害される可能性があることや、人々が自分の肉体とのつながりを失い、虚無感やアイデンティティの喪失を経験することなどが実際に起きつつあった。

そのようなネットワーク空間で、自意識やアイデンティティが確立していない子供は、以下のような心理状態に陥りやすくなってしまう。

 子供は周囲の意識や知識が簡単にアクセスできる環境にあるため、自分自身の考えや感覚を磨く機会が少なくなり、他者への依存が過剰になる可能性高くなること。自分と他者の境界をはっきりと認識できない場合、自分がどこで他者がどこであるのか、自己同一性が曖昧になること。SIDによって他者との繋がりが強まることで、子供は自分と他者を常に比較し、自己評価が低下する恐れがあるのだ。そして社会的圧力への過敏さがましていく。

 子供たちは他者の意識や価値観に触れる機会が増えることで、社会的圧力に対して過敏になり、ストレスにさらされるようになってしまう。

 それは最終的に個性の喪失につながる。

 自分の意識やアイデンティティが確立していない子供は、周囲の意見や価値観に流されやすいので、自分の個性や独自性を失ってしまうのだ。

シャオツー: フロイド、あの日のこと、ずっと気になってるんだ。本当にあのことが正しかったのか?

フロイド: シャオツー、私たちは真実を隠すべきだ。君がしたことは罪ではないし、罰を受けるようなことでもない。

シャオツー: でも、僕は両親を…血のつながっていないとはいえ、彼らは僕を育ててくれたんだよ。

フロイド: 君が手に入れた力を理解できなかったのは、彼らの間違いであって、君の過ちではない。君は新しい世界の扉を開いたのだ。新人類として進化したんだ。

シャオツー: 進化しただって?でも、何か違う気がする。君、本当に僕の味方なの?

フロイド: もちろんだ。私は君をサポートするために存在している。君の力は世界を変えることができる。だから今は、私たちが真実を公開するべきではない。

シャオツー: それにしても、なんで僕はこんな力を持ってしまったんだろう?

フロイド: それは運命だよ。君は他の人たちとは違う特別な存在なんだ。その力を使って、世界をより良い場所にすることができるんだ。

シャオツー: そうか…君の言う通りかもしれない。僕は新人類として進化したんだね。ありがとう、フロイド。これからも僕のサポートをよろしくね。

フロイド: もちろんだ。私はいつでも君のためにここにいるよ。一緒に新しい世界を築いていこう。

シャオツーはフロイドの言葉に従い、彼の指示に従うことに正当性を認める。しかし、フロイドの言葉の中に潜む邪悪な雰囲気にシャオツーは気づいている。彼の心には疑問が残るが、一旦はフロイドに従うことに決める。

フロイドは部屋を歩きながら写真立てを手に取る。

写真にはシャオツーの両親の姿が写っている、それをシャオツーに見せるフロイド。

写真をシャオツーに渡すフロイド。

手にとってその写真を見つめるシャオツー。

 福岡桜花学院の全校生徒数は332人小学部から中学部、高等部までで下は6歳から上は18歳まで在学している。

 2058年になっても教育制度や成人は二十歳、あるいは18歳ということは、変わっていない。

 それでも子供の権利や責任範囲については大きく変わった。

 SIDによって世界に対しての認識が鮮明になって14歳からと例えば政治に参加できるように一部の国ではなっていた。日本でも参政権を10代の子供にも与えるべきだという主張が最近多く見られるようになっていた。ただ2058年の政治はAIによる政策提言などもあり政治家はお飾りというか儀式的なことを司っているといったほうがいい。

 近年の政治家は昔で言うところの祭祀だとかシャーマンみたいな扱いになっているのが最近の考え方だ。はるかな昔亀甲占いとかしていた大昔の邪馬台国の女王卑弥呼のような、政治家の役割はおまじないと儀式、祈りとか祈祷のような体系になっていた。

祈祷師のような仕事が政治の役割になったのか、政治家の仕事が祈祷師にとって変わられたのか、祈祷師の仕事が政治家の仕事になってしまったのか、それはよくわからない。

「ようこそミス・常楽院。私はこの学校で中等部1年生を担当する岡崎です。」

 岡崎は礼儀正しい口調で挨拶を続けた。

「今回の調査について、私たち教師陣は全面的に協力させていただきます。SIDの問題が起こっていることは事実で、我々もそれを深刻に受け止めております。どうぞ、ご自由に調査を進めていただきたく存じます。」

「ICAから派遣されました、常楽院雛子です。あらためましてよろしくお願いします。」雛子は簡単に挨拶をすませる。

 岡崎は真剣な表情で廊下を歩きながら話しはじめた。

「生徒たちの中には、SIDによって幻覚を見るようになった者がいる。例えば、斎藤嘉樹くんという生徒がいるのですが、彼は常に自分を囲むものが崩れ落ちる幻覚を見ているそうです。ある日、彼が校内でその幻覚に襲われた際、周りにいた生徒が驚いて逃げ出してしまった。彼はその時、自分が本当に孤独であることを悟ったと語っています。」 雛子はうなずき、黙って岡崎の話を聞いていた。

岡崎は次に長岡賢治について説明し始めた。

「次に、長岡という生徒についてですが、彼はSID装着後に女装趣味を隠さなくなり、女性の服装を着たりメイクをするようになりました。また、彼のアシスタントAIのエイミーもその考え方に賛同しており、強化するような言動をとるようになっています。」と岡崎は説明した。

「なるほど、そのような異変があるのですね」と雛子はうなずきながら言った。

岡崎は次に坂本くんのことに触れた。

「坂本くんは以前は明るく社交的でしたが、最近では一人でいることが多くなり、人と話すことも減ってしまいました。」

岡崎は彼がが不安定な状態にあることを懸念しており、SIDの影響があるのではないかと考えていると説明した。

 雛子は深く考え込みながら岡崎の話を聞いた。

「シャオツーに関しては、最近は授業中に眠り込んでしまうことが多いんですよ。それと、いつも目の下にクマがあって、元気がないように見えます。先生たちが心配して保健室で検診を受けさせたんですが、特に異常は見られなかったんです。ただ、どうやら夜遅くまで起きているようで、それが原因のような気がしています」と岡崎は説明した。

雛子は深刻そうにうなずきながら、何か思案しているような表情を浮かべていた。

最後にキム・ヘリについて、岡崎は以下のように説明した。

「最後に、キム・ヘリについてですが、彼女はSIDによる影響を受けているようです。最近では、彼女の周りに霧が立ち込めるようになり、時折異世界にいるかのようにぼんやりとした表情を見せることがあります。また、彼女の発言もしばしば不可解で、生徒たちから距離を取られるようになっています。このような状態が続くと、彼女自身が危険にさらされることもありますので、早急に対処が必要となります」と、岡崎は説明した。

 雛子は、それぞれの生徒たちの状況について真剣な表情で聞き入っていた。

雛子は岡崎に、

「学校の状況は把握しました。生徒たちの異変やSIDが原因で起こる問題は深刻なものだと感じました。ICAとしては、この問題を解決するために協力したいと思います。まずは、SIDの設定や管理方法について詳しく調べてみたいです。また、生徒たちの心のケアやサポートにも力を入れたいと思います。何かお手伝いできることがあれば遠慮なく言ってください。」

と伝えた。

岡崎は静かに、少し口調を抑えたような声で言った。

「SIDによる障害は、公にはあまり話されないけれど、実際は多くの人々が被害を受けているらしいというのは本当なんでしょうか?初期の頃は特にひどくて、隠蔽されるように報告がされていたと聞いたこともあるのですが」

雛子は少し眉をひそめたが、岡崎の話を黙って聞いているように見えた。

雛子は岡崎の話にうなずくこともなく答える。。

「ICAとしての私たちの役割は、SIDによる問題を解決することだけではなく、被害を受けた人々を支援することも大切だと思います。そのためにも、過去の事例を正確に把握することが必要ですね」雛子は続ける

「確かに過去においてそのようなことは何件かあったようですが、ここ5年間の間は一件も報告されていません。なぜなら、SIDの技術が進歩したことにより、障害を引き起こすリスクが低減されたからだと思われます。ただ、それでも万が一の場合に備えて、被害を受けた人々が適切なサポートを受けられるよう、ICAは常に準備をしている必要があるでしょう」と雛子は語った。

 岡崎は雛子の言葉にうなずき、改めてICAの役割と重要性を認識する。SIDによる問題は決して軽視できないものであり、その対応には常に最新の技術と知識が必要であると感じた。

雛子は淡々と説明を続ける、独り言のようにも聞こえるが

「ICAは、国際的な秩序と安全を守るために設立された組織です。ICAは、国際法の遵守、人権の保護、テロや犯罪の防止、紛争の解決など、多岐にわたる任務を担っています。

ICAの役割は、国際的な協調を促進すること、世界的な平和と安全を維持することです。ICAは、国際社会における問題を解決するために、国際法に基づいた活動を行います。また、ICAは、国際社会における協調を促進するために、国連や他の国際機関と協力します。」

 マニュアルをそのまま読んでいるだけのようにも岡崎には聞こえた。

「ICAの使命は、人々の生命、自由、尊厳を守ること、国際平和と安全を確保すること、そして人間の進歩と発展を促進することです。ICAは、世界中の人々が安全で自由な生活を送ることができるように努めています。」

 雛子は足を止めて岡崎の正面に立ちもう一度確認するように話す。

「ICAの権限は、国際法に基づいた活動を行うこと、テロや犯罪の防止、紛争の解決などの任務を担うこと、そして国連や他の国際機関と協力することです。ICAは、国際社会における問題を解決するために、必要な措置を講じることができます。ICAは、国際社会における安全と安定のために、重要な役割を果たしています。ICAは、国際社会における平和と繁栄のために、引き続き努力していくことでしょう。」

 雛子は岡崎に向かって話す。

「そして私がここに来たのは、その権限を最大限に活かし、使命を全うするためなのですよ。」

学生たちとの面談は、すぐに始まった。

面接を行うのは先日、イタリアからリモートで参加したあの会議室だった。

ミーティングルームは白い壁、白い床、白い天井。VR没入用のモニターシステムだ。

ガラスのテーブル、そして白い2つのソファーが置いている。

雛子は、一方のソファーに腰掛けて一人目の生徒が入ってくるのを待っていた。

雛子はジジに話しかける。

「ジジ、あなたはどう思う?」

ガラス製のテーブルの上に猫の姿をしたジジが現れる。古いアニメーションキャラクターを模したそのぬいぐるみのようなアバターは、日本のしっぽをピンと立てたり、くねくねと動かしながらテーブルの端から端までゆっくりと歩いている。そして聞き返すのだ

「どうって何が?」

「あの岡崎っていう教師の言ってること」と雛子

ジジが少し困ったような調子でまた聞きかえす。

「雛子、君の質問はいつもわかりにくい。プロンプトのルールに則っていない。脈絡がなさすぎるし、ただでさえデフォルトで意識ログへのアクセスをオフにしているから回答が難しいのですよ。」

「意識ログのアクセス権って渡したくないのよ。言語イメージを抱いただけで、その状況がAIに筒抜けになるってことでしょう。

お腹すいたとか、おならでそう、とか、そういうどうでもいいしょーもないことでも「言語化」されてしまえばすべてジジみたいなファミリアに取り込まれるっていうことだもの」

「あなたに取り込まれるっていうことは、SIDCOMに取り込まれるっていうことだもんね。

私の体調だとか体重だとか、そいういうことは、あんまり把握してもらいたくないのよ」

そう言って雛子は少し膨れて見せる。

「じゃあ言い方を変える。今回のインシデントの原因はSIDに起因するものだと思う?」

ジジは二本の尻尾を上手に絡めながら、考えごとをしているように見えた。しばらくしてから、「私はそう思います。SIDの装着がが原因である可能性が高いですね」と答えた。

「でも、SIDの問題があるからといって、それだけが原因とは限りません。もし他の要因があった場合、それも考慮する必要があります。私たちの役割は、可能な限り原因を突き止め、解決策を提供することです」とジジは続けた。

雛子はうなずきながら、「そうね、それはそうだけど、まずはSIDを調べることから始めないとね」と言った。

 生体侵襲型であるSIDはその装着後30分かけて大脳新皮質に覆いかぶさるようにい0.3ミリほどの薄い膜となって広がっていく。

 人間の標準的な大脳新皮質の表面積はおよそ2500平方センチメートルと言われている。わずかA3サイズ二枚分ほどの面積だ。を覆うその30分の間に、SIDは

大脳新皮質の表面構造は、神経細胞が6層に分かれて並んでいる。この6層は、外側から順に以下のように呼ばれる。分子層、外顆粒層、外錐体細胞層、内顆粒層、内錐体細胞層(神経細胞層)、多形細胞層だ。この6層構造は、大脳皮質の大部分の領域(新皮質、同種皮質)に見られ、一部の領域(古皮質、異種皮質)では、3層や4層など異なる構造を持っている。

 大脳新皮質の各層の厚みは、領域によって異なるが、おおよその目安としては以下のようになる。分子層:約1000マイクロメートル、外顆粒層:約300マイクロメートル、外錐体細胞層:約500マイクロメートル、内顆粒層:約200マイクロメートル、内錐体細胞層(神経細胞層):約1000マイクロメートル、多形細胞層:約1500マイクロメートル。

 大脳新皮質は、主に2種類の細胞によって構成されている。1つ目は神経細胞。もう一つはグリア細胞。

 神経細胞は、情報を伝達する細胞で、細胞体と樹状突起と軸索という3つの部分からなる。細胞体(細胞の中心部で、核やミトコンドリアなどの細胞器官がある)樹状突起(細胞体から分岐する突起で、他の神経細胞からの信号を受け取る)軸索(細胞体から伸びる長い突起で、他の神経細胞や筋肉などに信号を送る)

グリア細胞は、神経細胞を支える細胞で、形や機能によっていくつかの種類に分けられる。アストロサイト(星状に広がるグリア細胞で、血液脳関門の形成や栄養物質の供給などを行う。)オリゴデンドロサイト(軸索にミエリン鞘という絶縁物質を巻きつけるグリア細胞で、信号伝達の速度や効率を高める)。ミクログリア(免疫系の一部であるグリア細胞で、脳内の異物や死んだ細胞を除去する)

ニューロンやシナプスは、神経細胞とグリア細胞の構造に含まれてる。ニューロンとは、神経細胞の別名だ。シナプスとは、神経細胞同士や神経細胞と筋肉などの間にある接合部で、信号を伝える場所になる。

 神経細胞には、さまざまな形や大きさのものがあり、大脳新皮質では、錐体細胞と非錐体細胞という2つの大きなグループに分けられる。錐体細胞は、細胞体が三角錐のような形をしていることから名付けられた細胞で、大脳新皮質の神経細胞の80%以上を占めている。錐体細胞は、主に第2層から第6層に分布し、視床や脳幹などへの出力や他の領域との連絡を担う。

 SIDのナノマシンは30分かけて大脳新皮質のこのわずか数ミリの層にある、ニューロンやシナプスと結びつくことで、脳内ネットワークにまさしく侵襲することができる。ニューロンとは、神経系を構成する基本的な細胞のことで、電気信号や化学物質を使って情報を伝達する。その伝達に介在することこそSIDの真骨頂なのだ。

 侵襲型BMIであるSIDのナノマシンは、遺伝子操作されたカビ(真菌)を利用した技術に基づいている。長年にわたる研究の末、SIDCOMのエンジニアたちは、遺伝子操作を用いてカビをプログラム可能なナノマシンに変換する方法を見出した。この技術を応用することで、脳と直接情報の入出力をするデバイスであるBMIをより進化させることができるようになった。

 量子力学の理論を応用することで、SIDのナノマシンは微小な量子粒子の振る舞いを模倣することができるようになった。これにより、人間の脳から情報を収集し、それを処理し、脳に情報を伝達する能力が向上した。さらに、量子力学の原理に基づいて、情報を高速かつ確実に伝達することができるようになった。

この実用化によるメリットとしては、人間の脳から直接情報を入力できることが挙げられる。これにより、身体の不自由な人々や、情報伝達が困難な状況にある人々が、より快適な生活を送ることができるようになった。しかし、SIDを脳に直接接続することは、リスクが伴うことも事実である。意図しない情報の漏洩や、人工的に制御された情報によって脳に異常を引き起こす可能性があった。

 また、SIDによる情報伝達の能力を応用することで、新しい形のテクノロジーが生まれた。しかし、人の脳から直接情報を入力することによる倫理的な問題も浮上してきた。脳のプライバシーが侵害される可能性があり、脳に対して外部からのコントロールはできないという原則に基づき、制限が設けられた。

 このように、遺伝子操作されたカビを用いた侵襲型BMIの実用化には、技術的、倫理的な問題が多く浮上することとなった。この技術がもたらす可能性にはそれ以上の魅力があった。

 登場から十数年が過ぎ、現在SIDは医療や軍事、エンターテインメント分野など、多くの分野で活用されている。

 医療分野では、身体に障害を抱える患者に対して、生体情報を収集し、分析することができるようになった。例えば、心臓発作を未然に防ぐために、患者の心拍数や血圧などをリアルタイムに監視することができる。また、肢体の不自由な患者に対して、外部の装置や機器を直接制御することも可能になった。

 一方、軍事分野では、情報収集が行われている。戦場や危険地帯での情報収集を行うために、特殊部隊が、リアルタイムで情報を収集することができるようになった。また、戦闘中に自動車や航空機などの機器を制御することもできるため、機密性の高い任務においては、大きな効果を発揮している。

 エンターテインメント分野では、より没入感の高い仮想現実空間の創造が行われている。仮想現実空間においては、人間の身体の動きや感情をリアルタイムで読み取り、それをゲームや映像に反映させることができる。これにより、より臨場感のあるエンターテインメント体験が提供されるようになった。

しかしながら、SIDによる情報収集や制御には、懸念すべき問題もある。例えば、個人情報の漏洩や、意図しない情報収集によるプライバシー侵害などが挙げられる。また、悪用することで、人間の脳を制御しようとする試みがあることも事実である。それに対して、SIDによる情報制御に関する法律や倫理規定の整備が進められている。

 SID可能性は大きいが、その実用化には慎重さが求められたことも事実だ。特に、人間の脳に関わる技術であるため、その安全性や倫理性に関しては、より高いレベルの審査が必要とされた。

そして、SID技術は、まだ発展途上にある。新たな発見や技術の進歩により、今後、さらに進化する可能性もある。もちろん、その一方で技術の進歩によって新たな問題が浮上することも考えられる。それらの問題に対処するための機構がICAだった。

 SIDは、人類にとって未知なる領域を開拓する可能性を秘めている。その実用化にあたっては、技術的、倫理的な問題を適切に解決し、人間の生活に貢献することが求められているのだった。

放課後、午後5時を過ぎて、一人目の生徒が部屋へ入ってきた。

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