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#8 信越トレイルを歩く【4日目】 戸狩温泉星降るキャンプ場から赤池テントサイトまで

この日は赤池テントサイトまでの23kmの道のりだ。三日連続で30kmを歩いてきたのと比べるとだいぶ短いので、出発は遅めとなった。

10月のテント泊

縦走が始まってからのテント泊は例外なく寒かった。眠りも浅かったと思う。目が覚めては寝袋の中で体を小刻みに動かした。朝までずっとそうやって過ごしていた気もするので、本当のところ寝ていたかどうか分からない。朝起きると毎回霜がフライシートを覆っていて、僕の場合、テントも寝袋も収納袋を持って行かず、そのまま畳んでパッキングするので、霜がついたフライシートをパッキングすると、バックパックの中で霜が溶けて他の道具を濡らしてしまうことがあった。実は今回も寝袋を濡らしていた。昨夜眠りが浅かったのも、それが原因の一つだ。

毎朝霜がおりた

7時半。太陽が昇りだんだんと暖かくなってきたので、テントを解体し、ありとあらゆるものを道路の上に広げた。このキャンプ場はスキー場にもなっているので、施設内に道路が走っているのだ。まだスキー場は時期的ににオープンしていないし、自分以外には誰もいなかったので、迷惑をかけることはないだろうと思って思う存分広げた。霜は水滴となる。それをバサバサとやって払う。そうやってフライシートはすっかり乾いてしまった。濡れていた寝袋や着替えもだいぶマシになった。そろそろいいかなという頃には、朝8時を過ぎていた。

戸狩温泉星降るキャンプ場。

気持ちいいハイキング

この日の午前中はとても快適なハイキングだった。キャンプ場を出て、桂池から黒岩山までは多少上りになるが、そこからはだらだらと長い下りとなる。舗装路でもなく、急斜面でもないので、足がどんどん前に進んだ。12時過ぎ、一つ目の目標だった涌井に着いた。集落が3軒ぐらいの小さなところだった。

カナヘビちゃんも日向ぼっこ

涌井を過ぎると登りとなる。最初舗装路が続き、どこからか砂利を敷いた農道となった。歩き始めて1時間、美しい田園風景の脇で湧水を汲んだ。冷たくておいしい水だった。そこから45分、毛無山へ向かっている間に、今回初めて歩いている最中のハイカーと出会った。その人はこれから桂池テントサイトへ向かうと言う。桂池というのは、昨夜僕が泊まったキャンプ場から約1時間で通過してきた場所だ。僕はここまで6時間弱歩いていたので、ここから桂池までは5時間弱と考えた。

「たぶん5時間ぐらいかかりますよ。だから着くのは7時ぐらいかな…」

えっ、とその女性は驚いていた。もちろん、どちら向きで歩いているかでかかる時間は違うし、僕の足よりずっと速い人かもしれないので一概に言えないが、真っ暗な山の中を一人歩く女性の姿を想像して少し心配になった。あの人は無事に着けただろうか。

涌井新地
貴重な水。浄水器が必須。

謙信にとっての戦争の道

ところで、前日は暗さと焦りであまり目を向けていなかったが、関田峠を過ぎたあたりからトレイルはその方向を東西から南北に変えた。それに従い、見える風景も変わった。右手には山頂が白く染まった妙高山が時折顔をのぞかせた。左手には飯山の里の風景があった。戦国時代の上杉謙信と武田信玄の戦いは、謙信がこの山を越えて長野の川中島で繰り広げられた。今は木に覆われてしまっているが、その当時はもっと見晴らしがよく、山から麓の様子を観察するのに適していたらしい。謙信が陣を張ったと言われる大将陣や謙信を助けた百姓が謙信に願いを聞き入れてもらって出来たと言われる希望湖も見ることができた。とにかく、子どものころに夢中になった合戦の舞台裏だ。歴史好きにはたまらない区間だと思う。

妙高山
大将陣跡から見た飯山方面
この日野営した赤池テントサイト

#9に続く