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書評:ネトゲ戦記

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だいぶ今更ですが、書評を書かせてもらいます。
といっても書評というより、私はこの作品をこんな風に楽しみました、みたいな内容です。
もしかしたらイレギュラーな楽しみ方をしているかもしれないし、随分と変な読み方をしているかもしれないです。
が、こんな風に読んでみると一層楽しかったですよみたいな経験談として語らせてもらいます。

以下、ネタバレを含みます。
個人的には、この作品の面白さはネタバレ如きで失われるようなものではないと考えていますが、読み進める方はネタバレ了承済のものとします。

あと、ここからは書きやすいように常体にさせてもらう。

初読の際の楽しさ

あくまで持論だが、面白い作品というのは、一度きりではなく何度も何度も読むことによって味わいが深まるものだと考えている。

『ネトゲ戦記』は、そういう作品だ。
僕は既に五回以上読破している。

初回は、ユリウス・カエサルの『ガリア戦記』にインスパイアされたという自身のことを"彼"と表記するユニークな文章スタイルで淡々と語られるドラマチックな展開に惹きこまれる。

優等生から一転して高校をドロップアウトし、ネットゲームにハマっていく第一章のネトゲ編、
頂点を極めたネトゲの世界から一転、ゲーム制作の現場に戦いを移す第二章の起業編、
信じていた仲間から裏切られ、復讐を遂げる第三章の裁判編。
すべて面白い。

たとえネットゲームやゲーム制作、あるいは裁判について詳しく知らなくとも、十分に楽しむことができる内容とテンポになっている。
初読を終えた際には、ちょっとした心地よい読後感が残った。

二度目に読んだときの楽しさ

二度目に読むときは、既に"彼"という人間性の特異さを既に知っているわけなので、その点にフォーカスしながら読んだ。

この"彼"は2024年10月、現在進行形で東京都庁やいくつかの国政政党、あるいはテレビや新聞などのマスコミ各社等を敵に回して、常人ならば絶対に耐えることができないような戦いを繰り広げている人物なのだが、どのようにしてこの人物が形成されていったのかを、"彼"の視点から伺うことができる。これがとても興味深い。

ゲームのルールを守り、信じた仲間と協力して戦っていく"彼"の基本的な姿勢は、『FF11』でタル組のメンバーとして"闇の王"に挑んだ際も、ゲーム制作や企業においても、弁護士と共に困難な裁判に臨む場合でも変わらない。
フィールドや一緒に戦う仲間やミッションが違うだけで。

二度目に読み終わる頃には、"彼"がどのような価値観を持つ人間であるのか、その輪郭をある程度の精細さで掴むことができたように感じた。

注意深く読んでいると、どの場面での経験や教訓が後々どのように活きてきているのか(ときには裏目に出ているように伺える時もあるが)を感じられる。

裏目に出たことについてだが、例えば、何故"彼"がカモで、ネギとガスコンロと鍋と調味料を背負い、カモネギ鍋のレシピを手に携えていたのか? 
一概には言えないが、それは"彼"がネトゲの世界で、仲間を信じ、協力し合って輝かしい成功を収めてきたからではなかろうか。
もっと言うと、『UO』でも『FF11』でも『ブラウザ三国志』でも、"彼"は自分の才覚を買ってくれ信じてくれた人達がいたからこそ力を発揮できたことをよく知っていたのだと思う。だからこそ自分を信じてくれるように思えた相手に対しては、自身も全力で信じ抜く覚悟だったのではないか。
まさか、それがあんな風に裏目に出るなんて思いもしなかったことだろう。

三度目以降の楽しさ

三度目以降は、この作品があくまでも"彼"の視点での話であることに注意し、それ以外のことを読み取るつもりでゆっくり精読するようにしている。

あくまで"彼"ひとりの自伝であるわけなのだが、登場人物は多い(ヒロインは居ないが)。
"彼"以外の登場人物が"彼"についてどんなことを思っていたのか、書かれていることの中から書かれていないことを想像して読み進めていくと、作品の味わいが一層深まる。

たとえば、『FF11』で"彼"の相棒のような存在であった"Cion"という人物。
"彼"が考えたチームのルールを現実的なシステムにして運用レベルに落とし込んだり、ゲーム内のちょっとした出来事を記録したデータから大きな発見を成し遂げたり、作中でも屈指に才気溢れる人物だ。
この人物はタル組結成以前からの"彼"の相棒なのだが、このような優秀なプレイヤーが、何に魅せられて"彼"と行動を共にしたのか。
また、"Cion"はある日突然姿を消し、そのことが原因で"彼"はすっかり面白くなくなった『FF11』をズルズルと続けざるを得なくなるのだが、やがて一年ほど経った後に突如再び"彼"の前に姿を現す。
ネットゲームの世界で、1年近くも姿を消した人物は、普通戻ってはこない。
ましてや"Cion"の場合は、チーム内のメンバーに少なからず迷惑をかけてしまうような失踪の仕方であっただけに、戻ることにどれだけの勇気が必要だったことだろう。
しかし、実際に"Cion"は再び"彼"の前に姿を現した。わざわざ、謝るために。

本書はこのような部分では決して多くを語らないが、行間から伝わってくるものが多々ある。
3度目に読んだときに思ったのだが、"Cion"は、たとえネットゲームの中だけの付き合いであったとしても、"彼"に対して筋を通したかったのではないか。
そう思わせるだけの何かを、"Cion"は"彼"に感じていたのではないか。
こんな風に考えながら読んでいくと、とても面白い。

繰り返すが、登場人物は多い(ヒロインは居ないが)。
そのひとりひとりについて、その人に"彼"がどのように見えていたのかを想像してみると非常に面白い。
例えば、まだまだUO初心者だった頃の"彼"に、何故"LESTAT"さんは親身に手ほどきをしてくれたのか?
あるいは、何故PKギルドのリーダーだった"Pit"さんは"彼"に目を付けたのか?
"Nela"は、何故引退後何年も、"彼"に粘着したのか?
担当弁護士は、何故書面に書かずとも良いようなことを書いてまで、"彼"に対する谷さんの主張に怒りを覚え、それを表したのか(収益金配分請求訴訟の、原告準備書面④)?
そして何よりも、本書最大の謎のひとつであるが、何故谷さんは彼をあのような形で裏切ったのか?

上記のような問いに対する確実な回答は、本書をどれだけ読んでも見つからない。
しかし、だからこそ、書いてあることの中から書かれていないものを想像していくのはとても楽しいし、味わい深い。
その回答を考えているうちに、ふと"彼"自身が気づいていないような"彼"の一面が見えてくるような気もしてくる。

本書を手に取った方には、ぜひ最低3回は、この作品を読むことを楽しんでいただきたいと思う。
ただしヒロインは登場しない。



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