5.映画館

今日、半年ぶりに映画館に行って映画を観た。
人の入りこそ半分だけど、だらっと座るのに最適な座席、予告編から本編に向けた照明の移り変わり、ドリンクホルダーがどこだったか手探りで探す感覚、そのどれもが懐かしく、嬉しかった。
映画館、大学の頃は山のように行っていた。
一年に100本は観ると意気込んで、予定が空けばすぐに映画館に行く。
神戸には、幸いなことに沢山の映画館があった。新開地まで含めると、渋谷や新宿に匹敵する数の映画館がある。

映画館で映画を観るって行為は、本質的にすごく馬鹿げたことだ。
一定の人数が等間隔に座り、ある映像を一斉に鑑賞する。
暗闇の中でそれぞれが、涙を流したり、笑ったり、腹を立てたりしながら、一言も喋らずに座っている。
そして、客席に明かりが灯ると、魔法が解けたように支度を始め、各々の帰路につく。
お互いがお互いに、隣に座ってたなんてまるで作り話だったかのような顔をしながら。

馬鹿げたことってのは、それだけで価値がある。
バンドをやることも、野球をすることも、本質的にはすごく馬鹿げている。
密室に集まって大きな音を出し合ってステージに立つことも、長い木の棒で小さなボールを打ち、その度に同じ箇所をグルグル走り回ることも、俺がもし地球の外で生まれ、「人間の暮らし」についてSFを書いたとて、思いつける自信がない。
学校や居酒屋や高速道路については、何とか思いつけそうだけど。

そして、馬鹿げたことほど、追いやられる。
なぜそれが必要か、証明できないから。
ただこの星に、なぜそこにいるか証明できる人間が何人いるだろう?

俺は、地球の隅っこにあって、映画館で映画を観ることに誇りを持っている。

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