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東京・水道道路にて

東京の環状7号線の西側、青梅街道の南側、方南通りの北側、そこに水道道路と呼ばれる道路が通っている。
これぞ南北にまっすぐな、一直線の道路である。

この道路、夜に歩くのには、少々薄気味悪い。
この道の脇には縄文式住居跡とかがあり、一部は切通のようにになっているからだろうか。
東京の23区内には、このような道路は珍しいと思う、

今から30年ほど前、方南通りのワンルームマンションに住んでいた。
最寄り駅は、地下鉄丸ノ内線方南町駅だ。
この路線、終電が早い。
当時は飲み会が多く、そうなると丸の内線の終電を乗り過ごしてしまう。
やむを得ず、酔い覚ましにと、終電の遅いJR中央線の高円寺駅から、水道道路に入り、まっすぐな道なので、そこを歩いていれば帰宅できる。
ところが、この道、いろいろなことが起こる。しかも背筋にヒンヤリ冷たいものが流れる類のモノだ。

その日も丸ノ内線の最終に間に合わず、高円寺駅から歩いて帰ることにした。

水道道路のまっすぐな道に入り、酔いも手伝ってか、気分良く歩いていた。

そうすると迎え側から黒ずくめの女性が一人歩いてきた。
こんな夜更けに女性一人が歩くようなところではない。
最も水道道路上に、いくつかの小さな小さな商店街があるので、そこからの帰りかな、と思っていた。
すれ違う時に何やらつぶやいていた。
「ナンミョウホウレンゲイキョウ。ナンマイダブツ」と聞こえた。
やはり変だ。そもそも真夜中なのにつばの大きな帽子をかぶっている。
それだから顔は見えなかった。

少し気持ち悪いので、早々にその女性とすれ違った。
しかし少し歩くと、またその女性が向かいから歩いてくる。
しかもお年寄りの女性と手をつないでいる。
その老女は「ナンミョウホウレンゲイキョウ。アーノクターラーサンビャクサンボオウダイ」と般若心経を唱えている。

ボクの中の危険信号が点滅をはじめた。

だが、である。
少し速足で歩いていると、すれ違ったばかりの栗ずくめの女性と老婆が子供もつれて向かい側から歩いてくる。
子供は笑っていた。「早く食べようよ」と言っていた。

しかしやはりおかしい。

ちょうど切通しのようなところを歩いていたのだが、ボクを先回りして向かい側から来るような道はない。
あったとしても竹藪がびっしりと生えていて、数分で先回りなどはできない。

そこに気づいて、猛ダッシュで走って、小さな商店街の入り口についた。
それで向かいからは誰も歩いてこなかった。

数日後、新聞の記事に、「妙法寺川で女性が入水自殺した」という記事があった。
記事によると、その女性が見つかるまで数日掛かったそうだ。
しかもその女性、服装は黒づくめの服装だったそうだ。
溺れるほどの深さがない川で溺死していたそうだ。
女性が入水したであろうところは、ボクが良く歩く橋だと、後で知った。
家族からの捜索依頼が出ていたようだが、深さが浅い川なのでそれほど捜査に時間がかかるところではないはずだ。

何が起きたのかは推測の域をでない。
後日、女性が見つかった橋の近くの、いわゆる町中華で配達メインの人と話をしていて、ボクと同じようなことを何度も経験しているそうである。
あの辺りでは、そのような不思議なことは日常に溶け込むように当り前のことだそうだ。

あっ、そうそう。
この地の特色として、妙法寺川と善福寺川が東西方向に流れていて、どうしてもどこかの橋を渡らねば川の南側にあるボクの家には帰れない。
その道は曲がり角を間違えると、妙法寺の墓地と杉並区の火葬場の間の道に出てしまう。ここでまた不思議なことが起こるのだが、それはまた後日。

時期的には晩秋の出来事なのだが、季節感がそうさせるのか、お盆が近づくとあの時の体験を思い出す。
いったい何だったのだろう。

ではまた。

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