ねこぶとん そのさん

 男の子は、ねそべっている猫のおなかをなでてみました。
 いつまでもなでていたくなるほど、てざわりが良くて、ふかふかでした。

「遠慮しないですにょ。世界一の眠りを提供にょ。さ、早くのるですにょ」
 またうながされて、男の子は、猫の体をよじのぼるようにして、その腹の上に、ごろんと寝ころがりました。

 ほわっと体が沈むような気のしたあと、ふわあんと浮かびあがって、まるで空に浮いているようでした。
 大猫の毛は、さらさらで、ほのあたたかくて、しかも、ほんのりといい香りがします。
 春の野花のような、蜜のような、甘いような、眠気をさそうような、とろんとした香りです。

 すると、だまって横に控えていた白い大きな鳥が、翼を広げて、男の子をくるむように、ふわっとおおいかぶさりました。
 ささやかな風を感じましたが、やわらかな翼には、まったく重さがないようでした。
 猫の毛と、鳥の羽の間に、ふわふわほあんと寝ころぶ男の子は、たちまち眠くなってきました。

 鳥が長細いくちばしを天に向け、コロコロコロと、やさしい歌をうたい始めました。
 猫が大きな口を、にっと開きました。
「ワタシも歌えるんですにょ。いい声出すんですにょ。それとも、ゆかいなお話でも聞かせましょうかにょ。こないだ、おもしろいことがあったんですにょ。ワタシが、徳川のお殿様に出会った時のことにょ……」

 語り始める猫の声を、男の子はもう聞いていませんでした。
 しずかな寝息をたてて、眠ってしまっていたからです。

 翌日。
 男の子は、ぱっちり目を開けました。気持ちのいい、寝覚めでした。
 時計を見ると、いつもより、40分も早く起きていました。
 ふだんなら、寝ぼけながら起きて、ぼんやりと朝食を食べていたのですが、今朝は不思議と体が軽くて、頭もすっきりと晴れ渡っていました。

 猫と鳥の姿は消えていました。
 机の上を見ると、一枚の紙が置いてありました。

『りょしゅしょ 30円 ねこぶとんかぶしきがいしゃ
 じゅしょ みかづき山の小川のそば ばんご 03333-33333』

 「じゅしょ」は「住所」かな? この「ばんご」ってなんだろう?
 男の子は、何度も読み返しました。
 30円と書いてありますが、結局、払った100円のお釣りは置いてありません。
 でも、思った以上に心地よい眠りだったので、お釣りのことで悪く思っては、かわいそうな気もしました。
 
 もう一度、あの猫のおなかで寝てみたくて、男の子は、書かれていた場所にハガキをだしましたが、宛名不明で戻ってきました。
 電話もしましたが、つながることはありませんでした。
 
 あの猫は、数字が苦手そうだったので、きっと間違ったんだろうと思っています。

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