うでをきる

病院嫌いの母が、ついに受診することにした。
ひきこもりと化した私との、二人だけの生活が精神的に耐えられなくなったからだと言う。
様々な病気や障害を抱えて心身共に浮き沈みがありながらも、それを放置している私のことは「理解している」と言っていた。
加えて私が引きこもっているのはそれだけじゃなく、「私(=母)への反抗期でしょ?」とも。
その一言を発した時、疲れ切った表情と抑揚の無かった声が一瞬、それまでとは似つかわしくない程に鋭くなった。
私はそこに母からの【憎しみ】を感じた。

反抗期であるのは間違いなく事実だと思っている。
自分の抱えるあれこれに手を打つも効果が感じられず、専門家でさえ信用できなくなり、疲労し切っていた中でかけてきた励ましの言葉が「元気のない〇〇(=私)は見たくない」「私(=母)を心配させないで」だった人だ。
病気の時こそ家族のサポートとは言うものの、その言葉を聞いた時、私はとてもではないけれど母を信じることができず手伝ってもらいたいとも思えなかった。
私の病気や障害のことになると過去には「自意識過剰なだけ」とか「病気や障害も個性なのだから、何も困ることでは無いじゃないか」などと言われたこともあった。
苦しみを「苦しい」と表現することが私には許されていないような気分だった。
二人暮しを始めてから毎度こんな調子で傷付くばかりだったので、私は心を閉ざすことを決めていた。


その態度が母の精神衛生に良くないことも認識していた。
母が私にとっての「毒」であったのと同じくらい、私もまた母にとっての「毒」なのであるのもまた事実だ。
一向に回復の兆しが見えず、日中ほぼ鍵のかかった自室に過ごしており、食事も一日一食程度しか摂らず、同じ屋根の下で過ごしているのにどんな生活をしているのかわからない。
声をかけても、メールを飛ばしても、殆ど返事がない。
日常生活に文句を言われることは無いが、辛い日常を少しでも快適に過ごせるよう支えていることに対し感謝をされることもない。
それどころか、自分は大真面目に持ち前の明るさで娘のことを自分なりに励ましていただけなのに「あなたのことは信じられない」と言われてしまった。
恩を仇で返し続けられているような気分のはずだ。
しかも、この生活がいつまで続くのか全く見通しがつかない。
お互いにつらさを抱えていることはわかっているが、自分はいつまでこの仕打ちに耐えなければならないのだろう、と思っていることだろう。

相手の気持ちを考えていないような心無い対応たちへの怒りと、「ほら、やっぱり口では『娘の幸せを願ってる』と言っていながら、自分のことしか考えていない言動ばかりじゃないか」という落胆と、散々親不孝を重ねて本当に申し訳ないという悲しみや自責がせめぎ合い、感情に耐えられずひっそりと自傷行為をしてしまった。

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