先生の仰せの通り〜ep.21〜
ただ先生に会いたくて必死に階段を上った。途中ヒールを脱ぎ裸足になった。最上階に着いた頃には足がつりそうで膝がガクガクして…立ち止まったら2度と次の一歩が出ない気がした。
「はぁはぁはぁ…。」
<え?>
部屋のドアが開いていた。直ぐに部屋に入り自分の目を疑った。
清掃員が掃除機かけてる。
「あ…あの!!」
「はい?」
「ここに泊まってた人は……?」
「今朝早くにチェックアウトされてますよ。」
<う…うそ…でしょ?あ!私の荷物…。>
「あの!荷物が残ってませんでしたか?」
「さぁ~。ここにはありませんでしたよ。フロントで確認されてはどうですか?」
「はい…。ありがとう…ございました。」
今、自分に起きている状況を頭の中で必死に整理した。
<先生は?…チェックアウト…。私を置いて…。当たり前か…。何の連絡も無しに一晩帰って来なかったんだもんね…。嫌われた…。嫌われたんだ…。>
フロントへ行くための階段を下りながら…次から次へと涙が堕ちてきた。
<嫌われた…。>
先生に一言謝りたくて携帯を出して電源を入れ、電話した…。
何度も何度も…。
でも先生の電話に電源が入る事はなかった…。
「先生…ごめんなさい。」
おかけになった~しか聞こえてこない電話に向かって…呟いた…。
<取り返しのつかないことをしてしまった。>
もう何も見えなくなって、フロントにも寄らず、タクシーを拾った。
一人になりたくなくて実家に向かった…。
何をする気力も湧かず…気づけば…あの日から3日が経っていた…。
コンコン
「チョコ?お母さんだけど…。」
「いいよ。」
「今、話せる?」
「うん…。」
「なんかあった?」
「うん…。」
涙が込み上げてきた。なにかあったってもんじゃない…。
「どうした?チョコがこんなに落ち込むなんて、おーちゃんが引っ越した時以来じゃない?」
お母さんは、相変わらず笑顔で話す…。
「おかあさん…。」
「ん?」
「おーちゃんってどんな子だった?」
「どうしたの?急に。」
「知りたいの…。」
「うーん…凄くチョコのことを大事にしてくれてるのがわかる感じだったよ。」
「アルバム…見たい。」
「ちょっと待ってて…。」
お母さんはアルバムを持って戻ってきた。
「はい、これ。」
「ありがと…。」
ページをめくると…小さい私がおーちゃんと手を繋いで笑顔で写ってる写真が何枚も何枚も…涙がほろほろと溢れ落ちた…。
<どうして気づかなかったんだろ…。笑った時のエクボ…同じトコにあるじゃん。>
二人で冷えピタをオデコに付けてる写真もあった。私は、お母さんに先生との出会いと…3日前に起きたことと…今は電話にも出てくれないことを話した。
「その先生が、おーちゃんだと?」
「うん…そんな気がする。」
「確かめたの?」
「ううん…。」
「電話に出てくれないなら会いに行けば良いじゃないの。」
「………。」
「また、そうやって…。おーちゃんを引きずりながら生きてくの?」
「………だって…。」
「一晩帰らなかったあんたに何があったか?知らないけど…先生がおーちゃんなら、あんたのこと嫌いになって部屋を出たんじゃないと思うよ…。」
「何で…そんなこと言えるの?」
「小さい頃の2人しか知らないから、何とも言えないけどさ…。あんた達は、お互いが嫌がることや傷つくことは絶対にしなかったの。引っ越す時に、あんたが隠れてる間に居なくなったのもあんたが悲しむからだと思ったからだし。結果的に大変なことになったけど…。」
「その話…先生にもした…。」
「お母さんが思うに…。」
「うん…。」
「お母さんなら…そんな辛い思いをさせてしまった自分を責めるし、自分がおーちゃんだと言えなくなる。」
「なんで?」
「だって、そんなトラウマまで作ったのに恨んでると思うじゃん?」
「恨んでなんかないよ…。」
「そんなの確認された?」
「ううん…。」
「だよね。応えを聞くのが怖くて聞けないんじゃないのかな?」
「私…どうしたらイイ?」
「どうしたいの?」
「先生に会いたい…。」
「なら…会いに行けば?」
「でも…。」
「簡単なことでしょ?」
「会ってくれないかも…。」
「そしたら、電話しておいで。迎えに行ってあげるから。今日はチョコの好きなハンバーグだよ。モリモリ食べて元気に会いに行っておいで!」
「うん…。」
「先にリビング行ってるからね。」
「わかった…。」
お母さんが部屋から出て行って自分と向き合った。そして…。
「お母さん!私…先生のところに帰る。」
「わかった!ハンバーグをタッパーに詰めるから待ってて…お父さん!」
「ん?どうした?」
「今すぐ車の準備して!」
「なんで?」
「いいから!今頑張らないと一生チョコに恨まれるよ!」
「そうか!わかった!車の準備してくる!」
「チョコ!これ先生と一緒に食べなさい。」
「お母さん…お父さん…ありがとう。」
お母さんにお礼を言って、お父さんの運転する車に乗って先生のところへ向かった。
先生の家の前で車を降りて、直ぐにインターホンを押したが、何も音が聞こえない。庭に回って部屋の様子をうかがうも電気も点いていないし、カーテンも閉まっている。
「留守かな…?」
鍵を開けて玄関の扉を開けた。
「ううっっくさ!」
色んな匂いが混ざってる。リビングに入ると…暗闇…。
<何も見えない。>
壁のスイッチを押すが電気が点かない。足に当たる瓶や柔らかい布を避けながらブレーカーをONにした…。
『何これ…?」
電気が点いてびっくりした。部屋中に転がるお酒の瓶、服も脱ぎ捨ててあった。
<先生はどこ?>
ソファで寝ている先生を発見。近づいて見ると、いつからこの状態なのか?が一目瞭然。パーティの時着ていたスーツのままで髪も整髪料が付いたまま髭は伸び放題…。
「先生?」
「んん~ちー?」
「ただいま。シャワー浴びましょう?洗ってあげますよ…。」
「うん…。」
《俺の目の前にいるのは…ちー?…夢?>
重い体をソファから起こした。部屋を片付けているちーが見える。
《帰って来てくれたのか?…夢なのか?…夢なら覚めないで欲しい…。》
「先生、立てますか?」
「うん…。」
「先に入っててください。私も行きますから…。」
「うん…。」
バスルームに入る前に洗面台に映る自分を見た。
《きたね~顔だな…。》
とりあえず歯を磨こう。歯を磨いていると、ちーが入って来た。
「先生、脱がしますよ?」
「うん。」
口をゆすいでいる間に、ちーはYシャツのボタンを外す。Yシャツを脱がしてズボンのベルトに手をかけてきた。ちーになされるがまま全部脱がされた。
「お前も脱ぐ?」
「はい…。」
「脱がそうか?」
「大丈夫です。自分で脱ぎます。先生は先に入っててください。」
とりあえず先に入りシャワーを浴びていると…ちーが入ってきた。
《やっぱり夢なのか?夢じゃないのか?》
もうどちらでも良かった。ちーを感じたかった。俺は引き寄せ唇を重ねようとした。
「待って。」
「なに?」
「あ、あの…身体冷えるから洗います。」
先生の身体に触れた手を握られた。
「お前が俺の身体に触れたら、俺もお前の身体に触れて良いんだよな?」
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