色即是空、空即是色

木越洋というチェリストの演奏で、バッハの無伴奏チェロ組曲を聴いたことがある。その時、私は心底驚いた。その熱情に充ちた演奏は、これまで私が一度も聴いたことが無いものだった。



その時の演奏は録音されていないから、その時木越洋が発した音は刹那刹那に消えていった。まさに無常である。空である。色即是空。あらゆる色や形や音は空である。だがしかし、それを聞いた私の感動は残った。空即是色。音は空でありながら、感動は確かに実在する。これが般若心経だ。



色即是空だけなら原始仏教でさんざん説かれたことと同じだ。全て事象は無常だという事だ。般若心経の神髄は、そこから「空即是色」と還っていくところにある。木越洋の出した1音1音は確かに無常であって消え去っていったが(色即是空)、それが人々の心に広げた感動の波紋は残り続ける。空即是色である。空の思想が原始仏教と決定的に異なるのはここだ。

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