新型コロナワクチン解説。嘘は数行でつけるが真実はそれでは説明できない。

新型コロナワクチン接種について ver5.

名取熊野堂病院副院長・岩崎鋼

高齢者対象の新型コロナワクチン接種が進んでいます。全く新しいワクチンなので、世間には誤解や悪意あるデマが飛び交っています。そこで現時点で分かっていることを説明します。

1. 今回のワクチンは3種類
今回日本が使用する新型コロナワクチンは以下の3種類です。
• Pfizer(ファイザー)ワクチン
• Moderna(モデルナ)ワクチン
• AstraZeneca(アストラゼネカ)ワクチン

2. ワクチンの効果

• わかっている効果

まず分かっている効果からご説明します。PfizerワクチンとModernaワクチンは、新型コロナ発症の予防効果が95%、AstraZenecaワクチンは60から90%あると報告されています。この「予防効果」というのは、「ワクチンを打った人の内95%は発症しない」という意味ではありません。「ワクチンを打った人は打たない人に比べて95%発症の可能性が下がる」という意味です(AstraZenecaワクチンの場合はそれぞれ60から90%と読み替えてください)。Pfizerワクチンの予防効果95%と言う数字については当初医学界の一部からも疑問視する声がありましたが、イスラエルとイギリスというほぼ一般市民に充分にワクチン接種が進んだ国で新型コロナが劇的に減少したリアルワールドのデータを見ると、ほぼ信頼できそうです。


一方AstraZenecaワクチンの予防効果が60から90%とバラツキがあるのは、臨床試験で少量打った群と通常の量を打った群の両方の効果を覧たからです。このワクチンは二回接種するのですが、一回目少量接種、二回目通常量を接種した群で90%、両方とも通常量を打った群では60%でした。両方とも通常量を打った方が効果が低いってなんだか釈然としませんが、データはそうなっています。

更にワクチンが世界的に普及しつつある現時点(2021.6.12)では、ファイザーワクチンは93%、モデルナワクチンは82%、「感染そのもの」を予防することも分かっています(アメリカCDCによる)。

・分かっていないこと

次に分かっていない効果をご説明します。今回のワクチンは3種類とも大急ぎで開発されたため、次のいくつかのことが分かっていません。

当初の臨床治験段階では、発症予防効果は調べられましたが、感染予防効果は調べられていませんでした。しかし上に述べたように、世界中にワクチンが普及してくると、実際感染そのものも予防することが明らかになりました。ですから「感染予防効果」は「分かっていないこと」から外れました。

効果の持続期間が分かっていません。これも大急ぎで治験が行われたため、ワクチンの効果がどれだけ持続するのか分からないのです。率直に言って、そのことはワクチンが実用化されてかなり経ってみないと分からないだろうと考えられます。

他人への二次感染を予防するかどうかも治験段階では分かっていませんでした。しかしこの点も、イスラエルとイギリスの現状を見る限り、他人への二次感染予防効果を想定するのが妥当と考えられます。

新型コロナウィルスは、既に「変異」を起こしています。インフルエンザウィルスもそうですが、ウィルスはしょっちゅう「変異」、つまり変身するのです。既にイギリス型(アルファ株)、南アフリカ型、インド変異株(デルタ株)などが知られており、全て日本でも確認されています。このうちイギリス型変異株へのワクチンの効果はほぼ問題ないレベルと言うことが確認されていますが、Pfizerワクチンは南アフリカ変異株には効果が弱いと報告されています。またアストラゼネカワクチンも南アフリカ方変異株には効果が期待できません。ファイザーワクチンはデルタ株には64%しか効かないそうです(ファイザー発表)。アストラゼネカは更に低いと考えられます。モデルナワクチンのデルタ株への効果はわずか8名の検体で観察が行われましたが、他の株の約半分と言うことですから、ほぼ50%位とみて良いでしょう。どのみち今のワクチンが効かない変異株は出てきます。ワクチン開発と変異株はいたちごっこです。

ファイザー及びアストラゼネカワクチンの12歳から16歳までの人及び妊婦への効果、安全性に関する市販後研究は継続中であり、どちらも中間報告では安全のようだと報告されていますが、あくまで中間報告です。12歳から17歳までのモデルナワクチンの効果は96%であると最近報告がありました。


妊婦または妊娠している可能性のある人について、厚生労働省は「充分なデータは無い」としながら「妊婦を優先するかどうかは安全性や有効性のデータを見ながら検討されます」としています。つまり「検討中」な訳です。なおModernaワクチンについてはB, C型肝炎ウィルス感染者、HIV感染者も研究対象から除外されており、これらの人に対する効果、安全性は分かりません。

分かっているかいないか分からないこと。

治験段階では、ワクチンは新型コロナの重症化を予防する効果もあるとされました。臨床治験の結果では、PfizerワクチンとModernaワクチンは88.9%、AstraZenecaワクチンはなんと100%重症化を予防しました。ところが最近大勢の人がワクチンを受けてみると、「ワクチンを受けたのに感染・発症してしまった人」の間でワクチンが重症化を減らすかどうか、よく分からなくなってきています。・・・って意味分かります?つまりどのワクチンも100%新型コロナ感染を予防出来るわけでは無いので、少ないながらも「ワクチンを打ったけど感染してしまう」ことはあるわけです。その時に、ワクチンを打った人と打たない人で重症化リスクが違うのかどうか、はっきりしなくなったと言うことです。これはまだ専門家の間でも揉めてる最中です。この辺はもう私には分かりません。


3,ワクチンが効く仕組み
 効果の次は安全性と有害事象(副反応)をご説明したいのですが、今回のワクチンは従来とは異なる仕組みを持っていまして、そこが分からないと安全性の説明が出来ませんので仕組みから先にご説明します。


 どのワクチンも、最終的にウィルスをやっつける「抗体」というものを体内に作り出すことでは従来のインフルエンザワクチンなどと同じです。ただ抗体を作り出す仕組みが、従来のワクチンとは大きく違うのです。


 新型コロナウィルスの表面には、スパイクタンパクと呼ばれるとげとげが付いています。人の免疫細胞がこのとげとげを見つけると、「お、スパイクタンパクだ!新型コロナウィルスがいるな」と認識して、ウィルスをやっつける「抗体」を作るのです。そこでとげとげ、つまりスパイクタンパクを作って注射すれば抗体が出来るんじゃないかという話になります。しかしタンパク質そのものを人工合成するのは非常に手間暇やコストが掛かるのです。それなら人の細胞にウィルスのスパイクタンパクを作らせよう、と言う戦略が考えられました。それには遺伝子を使うのです。


ここで高校の生物のおさらいです。全て生き物には、DNAとかRNAと言う遺伝子があるのでしたね。遺伝子というのは、タンパク質を作るためのプログラムのことです。人の場合は、DNAが元々のプログラムとして細胞の中にしまわれていて、タンパクを作る時はその一部をコピーしてRNAと言うものを作り、それを元にタンパク質が作られます。しかし新型コロナウィルスはDNAをもたず、RNAしかありません。そして新型コロナウィルスのRNAは全て分かっています。タンパク質を人工合成するのは難しいのですが、RNAを作るのは簡単です。そこで、新型コロナウィルスRNAのうち、先ほどのとげとげ、つまりスパイクタンパクを作るプログラム部分だけを人工合成して、これを人の体内に入れれば、人の細胞がそのRNAを元にしてスパイクタンパクを作ってくれるというわけです。


体内に入るのはスパイクタンパクを作る部分だけですから、そこからウィルスが出来てしまうことはありません。また注射したRNAは数日で分解されて消えてしまいます。そのRNAが人間のDNAに変な影響を起こすこともありません。何故ならDNAからRNAは作られますが、RNAからDNAは作られないような仕組みがあるからです(例外はAIDSウィルス、つまりHIVです。あれは逆転写酵素というものを作ってRNAからDNAを作って増えてしまいますが、新型コロナウィルスは逆転写酵素を作れないので、そういうことは起こりません)。


RNAは体内で分解されやすいので、PfizerワクチンとModernaワクチンはそれが人の細胞に届くようにポリエチレングリコール(PEG)のカプセルに入れて運びます。これらはmRNAワクチンと呼ばれます。AstraZenecaワクチンは作ったRNAの遺伝子情報をいったん猿の風邪のウィルス(チンパンジーアデノウィルス)のDNAの中に入れ、その猿のDNAを注射します。そうするとそのDNAからスパイクタンパクのRNAが作られ、それに基づいてスパイクタンパクが出来るという仕組みです。チンパンジーアデノウィルスはチンパンジーに風邪を起こすのですが、人には病原性を持たないので安全だというわけです。これはベクターワクチンと言います。でも正直、他の動物のウィルスのDNAを体内に入れるのはなんとなくいやですね。今のところ、日本はアストラゼネカワクチンは認可だけしましたが、実際には使わない予定です。


4. 安全性、有害事象
ワクチンが効く仕組みでご説明したとおり、注射されるRNAは人の遺伝子に影響を与えることはありません。数日で分解されて消えてしまいます。ですから、遺伝子に障害が起こって癌になったり、将来子孫に何か変なことが起こるかも、などという心配はありません。そこを理解して戴いた上で、このワクチンには以下のような有害事象(副反応)が知られています。

(1) 痛み
このワクチンは筋注です。Pfizerワクチンは21日空けて、ModernaワクチンとAstraZenecaワクチンは28日空けて、2回筋注します。いずれのワクチンも、インフルエンザワクチンなどと比べるとかなり痛いです。Pfizerワクチンでは6割から8割の人が、Modernaワクチンでは8割の人が局部の疼痛を訴えています。

  

(2)局部の腫れ
PfizerワクチンもModernaワクチンも6%から10%の人が局部の腫れを訴えました。これは人によって全く違っていて、全然腫れなかったという人もいれば打った腕が腫れ上がって運転できなくなったという人もいます。


(3) 倦怠感、頭痛
PfizerワクチンもModernaワクチンも3割程度の人が倦怠感と頭痛を訴えています。私も一回目接種した翌日は怠くて仕事になりませんでした。


(4)発熱
PfizerワクチンもModernaワクチンも1割程度の人が発熱を認めました。なかには38℃以上の発熱を起こす人もいます。その他悪寒、筋肉痛、関節痛なども3割くらい観察されました。ざっくり言うと、3割程度の人が感冒様症状を起こすようです。これらは数日で自然に消えますが、希望者は解熱鎮痛剤や麻黄湯などの漢方薬を併用すると良いでしょう。なおAstraZenecaワクチンに関しては、ワクチンを接種した5807人の内重篤な有害事象が少ない量を打った人で79人、多い量で84人としか報告されておらず、上記のような一時的な有害事象については記載がありません。


重篤な有害事象


(1)治験レベルでのデータ
Pfizerワクチンでは実際のワクチンを打った18198人中、「重症な」有害事象が126人(0.6%)、そのうち「重篤な」有害事象が13人(0.1%)、そのうち「致命的」だったのは21人(0.1%)ありました。ただしこれらの内ワクチン接種との関連性が疑われたのは4人(0.0%)だけで、その他はワクチンとの関連性は不明とされました。なお動脈硬化で1名、心停止で1名が亡くなっています(ワクチンとの関連性は不明)。


Modernaワクチンでは実際のワクチンを打った人14073人の中で、重症な有害事象は234人(1.5%)、その中でも「重篤な」有害事象は93人(0.6%)、死亡が3名(心肺停止と自殺)いました。いずれもワクチンとの関連は「不明」です。

またAstraZenecaワクチンでは実際のワクチンを打った5807人中「重篤な」有害事象が163人にみられ、1名が亡くなったとあるだけで、それ以上の詳しい内訳は報告されていません。


(2)リアルワールドデータ


厚生労働省によると2021年5月24日から30日の間にモデルナのワクチンの接種を受けたのは9万241人で、このうち49歳から96歳の男女合わせて17人について、副反応が疑われる重い症状が確認されたと医療機関から報告があったということです。およそ5300回の接種につき1件の割合で、接種したその日のうちに発疹やどうき、めまいなどの症状が見られました。アナフィラキシーの報告はなかったということです。

また厚生労働省によればファイザーのワクチンについて、2021年5月30日までに行われたおよそ1306万回の接種のうち国際的な評価指標でアナフィラキシーに該当する症状が報告されたのは169件で、およそ7万7300回に1件の割合でした。
更にファイザーワクチンでは、100万人に一人の割合で心筋炎、心膜炎の報告があります。

一方アストラゼネカワクチンは血栓症を考慮する必要があり、ドイツ、フランスなどでは副反応のリスクと新型コロナそのもののリスクを秤に掛けて、65歳以上に使用を限定しています。65歳以上は新型コロナが重症化するリスクが高いので、ごくわずかな血栓症のリスクと比べてもワクチンを使用する利益が上回るが、65歳未満ではアストラゼネカワクチンによる血栓症リスクを無視できないという判断です。日本では前述の通り、当面アストラゼネカワクチンを使用する予定はありません。ただしウィルスが変異するにつれて重症化の平均年齢が低くなる(若くなる)ことが明らかになってきており、今後この判断は変わる可能性があります。

厚生労働省はいずれののワクチンについても、現時点で接種体制に影響を与える重大な懸念は認められないとして引き続き接種を進めていくことにしています。ただ全てのワクチンが筋肉注射ですので、注射が下手な場合の神経障害の報告があります。三角筋は筋肉注射には最適で、ほとんど危険は無いのですが、上肢に行く神経がその裏側にたくさん通っていますので、打ち方が下手だとそれらの神経を傷つける場合があります。


なお、ワクチンによって起こった有害事象については、国の制度として予防接種後健康被害救済制度があります。これはワクチンによる健康被害が発生した場合に、かかった医療費の自己負担分を国が負担したり、万一亡くなった場合は葬祭料および一時金を給付するものです。詳しくは予防接種後健康被害救済制度でネット検索してみてください。

まとめ
 ワクチン情報は日々変わっていきます。できるだけ更新しますが、私自身はワクチンの専門家でも感染症医でも無いので限界はあります。なおこのワクチンを受けることは予防接種法に基づく「努力義務」です。受けなくても罰則はありませんが、努力義務なので受けて儲けなくてもお好きにどうぞという意味ではありません。受けるのが基本だけどどうしても嫌な人、体質的に受けられない人はしかたないから罰則は科さないよ、と言うことです。この文章が参考になれば幸いです。ただし繰り返しますが「妊婦は治験対象になっておらず」、厚生労働省も「検討中」としか言っていないので、現時点で妊娠している人、またはその可能性がある人には推奨しません。また過去に(原因を問わず)アナフィラキシーショックを起こしたことがある人にも推奨しません。

なおその他のワクチンですが、中国のシノバック、シノファーマはいずれも不活化ワクチンですが、効果は50%程度とされており、欧米のワクチンに比べるとかなり低いです。ただIOCが五輪選手に優先的に接種すると言っているワクチンは主にこれです。現在中国もmRNAワクチンの開発を進めており、第3相を始めるという情報は入ってきていますがまだその結果は当分先になるでしょう。


ロシアはスプートニクというワクチンを開発しており、これは有効率が90%以上と十分な効果を示したようですが(Lancetの論文による)、我が国が採用するという話は出ていません。


最後になりますが、正直なところ「じゃあこのワクチンは十数年後、数十年後にも一切有害事象は起こさないのか?」と訊かれたら、誰も答えられないです。それはそれだけの年月が経ってみないと分かりません。ただ新型コロナは今まさに目の前にある脅威で、十数年後、数十年後のリスクを心配している余裕が無い、と言うことです。


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