コロナで咳が長引く時の漢方治療

コロナに関して、咳止めの漢方をいくつか。ただしこの中には現在生産が間に合わず手に入らないものも含まれる。なおこの解説は「咳止め」としての作用にのみ触れるもので、それぞれの処方の全体を解説したものではない。


1. 麻杏甘石湯(あるいは五虎湯)。麻杏甘石湯の成分は麻黄、杏仁、甘草、石膏。麻黄と杏仁に強い鎮咳作用が有り、石膏は抗炎症剤、甘草はそれらの胃腸に対する副作用を和らげるとともにそれ自体も抗炎症作用を持ち石膏を助ける。五虎湯はこれに鎮咳作用を持つ桑柏皮が加わる。急性期の激しい咳に用いる。一週間を超えて用いない。長期の運用では麻黄、石膏が副作用を起こす。

2. 麻黄附子細辛湯。構成生薬は文字通り麻黄、附子、細辛。日頃から身体が冷え、風邪を引きがちなものの初期の咳に用いる。このような患者は上の麻杏甘石湯はかえって体力(気)を損じるから、麻黄附子細辛湯でなければならない。麻黄と細辛が発表作用と言って邪(病原体)を外に追い出す力を持ち、附子は温補腎陽と言ってもともとの虚弱体質を支える。

3. 麦門冬湯。一週間を過ぎ、乾いた咳がコンコンと続く時に用いる。麦門冬湯の構成生薬の内、鎮咳作用があるのは麦門冬と半夏だけで、残りの粳米、大棗、人参、甘草は皆補気健脾薬、つまり胃腸薬である。咳というのは呼吸器である肺の症状だが、中医学では気の流れが阻害されていると考える。気はエネルギー、あるいはエネルギーを媒介して行われる情報伝達のことであるが、これは肺による呼吸と消化器による飲食の摂取によって体内に取り込まれる。すなわち気の流れには肺だけで無く脾胃(消化吸収機能)が深く関係する。コロナのような炎症性疾患によって脾胃が損傷されると、肺の呼吸にも影響が及び、咳が出る。従って肺と脾胃両方を治療する麦門冬湯を選択する。麦門冬湯は現在医療用としては入手不可能だが、一般薬局に置いてある。一般薬局で販売されている麦門冬湯ではツムラのものよりクラシエの方が生薬量が多いのでそちらを勧める。

4. 真武湯、八味地黄丸。これらは直接鎮咳作用を持つわけでは無い。咳が長引き、肺の作用が衰えると、腎の作用が侵害される。腎不納気と言い、浅い呼吸、息を吸い込めない、喘鳴などが現れる。腎が衰えると下半身が冷え、足腰に力が入らないのも特徴である。腎不納気になった咳は、冷えると出てきて温めると軽減するのも特徴だ。従ってこのような時は、麦門冬湯に真武湯や八味地黄丸を加えるとよい。非常に長期間咳が長引いて気が損傷している時の治療である。真武湯も八味地黄丸も附子を含み、これが腎気を補う。また八味地黄丸には熟地黄、散薬、山茱萸などの補腎薬(腎を補い生薬)が加えられており、補腎処方の代表である。これらを咳に用いる時は、麦門冬湯の補助として用いる。単独で用いても鎮咳作用は無い。

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