虫が来る

明日がとても嫌だと思う日でも眠れてしまう日は眠れてしまうし、何もないなあと思って、このまま起きててもなんかやだなと思う日でも眠れない日は眠れない。愛が欲しい愛が欲しいと心は喚くのだけれど、その形は様々で、その中から自分の求める『愛』を見つけられるだろうか。結局何の決心もつかないまま始まった夏は、寝てる間に過ぎ去ってしまって、誰かの体温を、温もりを、感じたいのだけどそんな時間はどこにもなくて。世界を丸ごと包むような午後の木漏れ日も、夜の月も、全部鬱陶しく感じてしまう日だってある。嗚呼、虫が来る。頭の中に湧く耳障りな声。嗚呼、虫が来る。周りの人間に湧く悪意の寄生。嗚呼、無視される。また、嫌われた。嗚呼、無視される。この叫びは、誰の耳にも届かない。奇跡が起きて、誰かの心をもらう確率だってないわけじゃないけど、誰にも聞かれない、答えが来ないのはもはやありがちな事なのだ。緩慢と収縮を繰り返す地球の円環が時折私達の頭を締め付けて、痛い痛いと泣きわめかせて。時折私達を弾き飛ばして、奈落の底に突き落として、痛いでしょ痛いでしょと笑ってる。黒い布の覆いかぶさった世界に零れたコーヒーに気付く人もいない。君が飲み残したジュースも、君が買ってきたアソートの飴も、もうすっかり腐って、君からもらえる愛はもう無いんだなあ。プロでもなんでもない私が組み込む水管からはいつも欲望が漏れ出していたね。迷惑かけてごめんね。なんて、君の吐いた息すら蒸発した部屋に、いくら謝っても仕方がない。誤ったことは、心の中で反省しようね。とりとめのない文章は、空いた虫かごの中のように、好き勝手飛び去っていく。嗚呼、晩夏に揺蕩う虫の羽音は、心に芽生えた病みの葉を食べてはくれない。

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