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鰯崎友×born

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鰯崎友の個人note+WEBマガジン bornでの記事、作品をまとめました。
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#小説

今日はたらふく煮え湯を飲まされたな。

今日はたらふく煮え湯を飲まされたな。しかし、。鱈だというではないか。横っ腹にたらふく、だ。今日はたらふく鱈だというではないか。煮え湯。今日だ。よりによって。たらふく。しかし、論点が定まってきたような気がするな。煮え湯というのは、今日だ。明日のことで、昨日だ。魚だ。鱈だ。山登りにはいい季節だと思うが。しかし、。たらふく煮え湯を飲んだ、というか飲まされたな。横浜か。横浜というではないか。論点が定まってきたな、どうか。ような気がするな。昨日はたらふく冷水を浴びせられたな。浴び方がひ

『わたしの名は赤』イスラム細密画の世界にさまよう

16世紀のオスマン帝国の首都、イスタンブルを舞台とした物語で、そのことにハードルの高さを感じる人もいるかも知れないが、作者、オルハン・パムクの文章はそんなに難解ではない。オスマン帝国はこの当時、世界で最も洗練された文化をもち、欧州の諸国をリードしていた。 また、ヨーロッパ諸国としのぎを削ったイスラム教国家、というイメージがあるが、フランスとは長きに渡って同盟を結んでいて、ヨーロッパの政治に深く関わっていた国である。アジア、ヨーロッパを股にかける世界帝国だったのだ。 主人公

過去からの使者

おい、お前の心に直接語りかけとるんやけど。 俺はキャベツ太郎や。俺のこと、忘れてないか。こどものころに食べてたんじゃないか。ソース味の、甘辛い、スナック菓子だぞ。食べると歯に青のりがついたままになるんだ。友達に指摘されて恥かいたこと、あるやろ、あんときはすまんかったな。あやまる。 最近俺のこと、食べてないやろ。大人になったから。大人はキャベツ太郎食べへんから。でも、ちょっと待て。酒は飲むようになったか。飲むのか。お前もいっちょまえに酒飲むようになったとはな。丸坊主でゲーム

質量

中古車でろくに整備もしていないから、サスペンションがくたくたにへたっている。おまけに路面も悪いから、走り心地は最低だ。 高架をくぐって右折すると、その先ですこし渋滞している。 近づくとガラスの破片が散乱していて、警官が交通整理をしていた。 どうやら事故が起こったのだ。まだあまり時間は経っていない。 がたがたと、時折大げさに揺れるシートに座っていると、頭が痛くなってくる。助手席で、妻はすうすうと寝息をたてている。窮屈そうに寝返りをうっている。 頭痛を紛らわそう

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

昔、お仕事をご一緒させてもらったイタリア人に、親愛の念を込めて、「ぼく、イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』大好きなんです」って伝えたら、「君は変わり者だね!カルヴィーノなんてぜんぜん面白くない」って言われた。 まあ、そうだよな。イタリア人だからといって皆がカルヴィーノを好きとは限らないよな… と、はたと思い直した。たしかになんとなく、もやっとしていて、明瞭でない。誰かれかまわず虜にしてしまうような作品じゃない。 でも、そのぼやっとした感じが、好きなんだ。フォローさせ

I look back toward the hill.

あなたとふたりで、雪の降る丘をのぼる。綿のような雪片はひとつひとつがダンスを踊るように、反り返ったり、うつむいたりしながら、たえずそのゆく先を変えつつ、しかしだんだんと地表に向かって落ちてくる。 夏にこの場所を訪れたときには、耳が痛くなるくらいの蝉の声(あなたはそれを蜩だと教えてくれた)に包まれたのだけれど、その声はすっかり雪の舞いへと姿を変えた。 わたしとあなたは、なにかを話しながら歩いている。でも、何ひとつ頭のなかに入ってこない。 木立のあいだを縫って走る風が頬を切り

もりのなか【超短編小説】

はじめは、なんにもなかった。風も水も太陽の光も、なんにもなかったが、あるとき、小さなひずみがうまれ、それがだんだん大きくなっていった。そのひずみから、あるとき、醤油がこぼれおちた。醤油はなんにもない空間にじわじわと広がり、やがて大きなシミをつくった。はじめにできた大きなシミは、4つの足の生き物の形をしていて、自分のからだから醤油をぽたぽた落としながら、そこらじゅうを跳んで、走り回った。生き物の体からこぼれた醤油は、魚の形となり、虫の形となり、ヒトの形となった。ヒトは、はじめの

ナティア

むかしむかし、バルハシ湖のほとりに小さな国がありました。 豊かな水源に守られているおかげで、人々は活気ある暮らしを送っていました。その国の王様にはながらく子供がありませんでした。しかし、老年を迎えてやっと、側室との間に男の子が生まれ、民衆は世継ぎの誕生にほっと胸を撫で下ろしたのでした。 生まれた王子は王様に溺愛され、何ひとつ不自由のない暮らしを送って、やがてなかなか端正な顔立ちの青年になりました。王子は聡明で馬に乗るのも得意、王様自慢の息子なのですが、ひとつだけ、家来た

ゾウ汁【超短編小説】

かつてゾウ汁はこの辺りの名物料理だったが、最近では、一般家庭でゾウ汁をつくることは稀になったという。今はキリン汁がポピュラーなのだと、当地の原坂さん(63)は言う。いや、言うというのは正しい表現ではない。情報が脳に直接流れ込んでくるのだ。 「・・・ゾウインフルエンザが流行ってから、やっぱし、ねえ・・・抵抗あるけぇのお・・・。そりゃ、キリンとゾウってたらゾウのほうがうめえにきまっとる・・・」 ゾウ汁に使う鍋は、さすがゾウをまるまる煮込むだけあって、圧倒される。ちょっとしたプ

【いわし園芸】きのこと大きな鳥

いや、まいったね暑くてね。でもかき氷たべて頑張ってますよ。noteブログシティのかたすみにある、いわし園芸です。ごぶさたですね。 今日はちょっと趣向をかえて、きのこでも見てもらおうと思って。ながめていると、なんだか不思議で、飽きないもんですよ、きのこ。そういえば、今日きた女の子もなんだか不思議な話をしてくれたなあ。まあ、それはあとにとっといて、まずはこちら。 夕方は逢魔が時って、いいますよね。いままでいたものがいなくなったり、いなくなったものが現れたり、そういうことがおこ

【いわし園芸】木立を抜けて

noteブログシティのかたすみにある、note商店街にて園芸ショップを営んでいます。季節の草花を取り揃えているので、ぜひ見ていってくださいね。 あと、私、大のおしゃべり好きでして、お店に立ち寄っていただいた際には、少しおつき合い頂ければとても嬉しいです。松葉杖をついた男の子が通りがかったんで、声をかけたんです。そうしたら、ね。おっと、あぶない、まずはこちらから。 その男の子、病院に行った帰りなんですって。春先に怪我をして、だんだん良くなってきたから、定期検診の帰りにぶ

樹妖記あるいはサクセスの秘密【おそらく聞いたことがない話】

法相宗の僧、円儀が遣唐使として倭国から唐へと向かったのは、斎明五年のことである。しかし、その当時の航行とはまさに風任せのものであり、運に見放された円儀はついに唐へと渡ること叶わなかった。船は当初の航路から大幅に南へと流され、現在でいう、ヴェトナムへと漂着したのであった。 円儀は自身の不幸を呪ったものの、仕方がないので、この地に自分がたどり着いたのは、御仏の導きである、と考えることにした。自分には、この地にて為すべき使命が存在しているのだ、と考えることにした。元来楽天的で前

ドストエフスキー、信仰とエゴイズムの変遷

【いわし園芸】薔薇と砂漠の踏切

noteブログシティのかたすみにある、note商店街。このたび園芸ショップを開店しました。季節の草花を取り揃えております。 あと、私、大のおしゃべり好きでして、お店に立ち寄っていただいた際には、少しお話におつき合い頂ければとても嬉しいです。今日は双子のお客さんがきましたよ。なんでもずっと旅をしているんですって。まだほんの子どもに見えたけど。   双子のお客さんは、砂漠に立ち寄ったときのことを話してくれました。なんでも、砂漠のど真ん中に踏切があるらしいんです。いったいど