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映画・映像・デザイン

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映画やその他の映像についての記事をまとめました。
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#おそらく話

大林宜彦『花筐/HANAGATAMI』【おそらく聞いたことがない話】

以前、大林宜彦監督と食事をご一緒させて頂いたことがある。『転校生』や『時をかける少女』『SADA〜戯作・阿部定の生涯』『この空の花 長岡花火物語』などの日本映画史に残る名作や前衛作品を拵えたマエストロに、学生だった私は、「映画を作るとき、いちばん大事にするのはどのようなことですか?」という稚拙な質問を投げかけた。監督はにっこりと微笑んで、言った。 「心臓の音を聞くんだよ」 ゆっくりと両手をご自身の胸にあてがい、「自分の心臓の音が、自分の作品のリズムを決める。その音を頼

スター・ウォーズ・神話のゆくえ【おそらく聞いたことがない話】@ボーンフェス2018

『スター・ウォーズ』シリーズの生みの親であるジョージ・ルーカスが、この壮大な物語を構想するさいに、古代の神話を下敷きにしていることは有名である。その脚本作成にあたって、ルーカスは神話学者、ジョーゼフ・キャンベルによる神話の研究に強い影響を受けたと語っている。 キャンベルは、神話における英雄譚について「セパレーション」(英雄が元いたところから旅立つ)→「イニシエーション」(通過儀礼を受ける)→「リターン」(帰還する)という基本構造のもと、そこに現れる助言者や敵対する人物について

宝石の国【おそらく聞いたことがない話】

不思議な物語だ。 人間が絶滅したのちの世界で、ダイヤモンドやアメシストといった宝石が、少年か少女のような容姿をもって、言葉を話し、「学校」というところで生活を送っている。 流行の「擬人化もの」の一種とも言えるが、ミステリアスな描写が多い。 この、人のように動いて喋る宝石には、敵がいる。月より襲来する「月人(つきじん)」と呼ばれる者たちだ。彼らは宝石を誘拐し、月へ連れ帰ったのち、装飾品や武器に作り替えてしまう。さらに、それとは別に何らかの目的があって宝石をさらっているようである

メアリと魔女の花【おそらく聞いたことがない話】

米林宏昌監督の『メアリと魔女の花』の公開が始まった。 この映画、スタジオジブリにてプロデューサーをしていた西村義明が独立して設立したスタジオポノックというスタジオが制作を行っている。スタッフの多くがジブリ出身なので、絵柄はそのまんまジブリだ。 加えて主人公はホウキに乗った魔法使いの少女とくれば、宮﨑駿監督の往年の名作、『魔女の宅急便』を思い起こさずにはいられない。こういうばあい、『メアリと魔女の花』が『魔女の宅急便』の二番煎じに終わってやしまいかと不安になるのだが、そこは安心

ペタル ダンス【おそらく聞いたことがない話】

いまはもう取り上げられることもあまりない、でもときどき思い出して人に薦めたくなる映画がある。 『ペタル ダンス』、監督の石川寛の本職はCMのディレクター。2013年に上映されたのだが、当時としても大きな話題になった映画ではない。 はっきりいって地味な話だ。『ペタル ダンス』は、会えなくなっていた人に会いに行くという、とても簡明なロードムービーである。 頭上にたちこめた雪雲のなかで、冬の太陽光が乱反射し、銀色の光彩を放っている。『ペタル ダンス』のなかで、登場人物たちの頭上に

足立正生【おそらく聞いたことがない話】

フィリップ・グランドリュー監督の『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう/足立正生』は映画監督にして元日本赤軍の闘士、足立正生についてのドキュメンタリー映画だ。 足立は1961年の監督映画『椀』で学生映画祭大賞。若手映画作家として頭角を現すが、同時に左翼思想への傾倒を深め、1974年、日本赤軍に合流、パレスチナ革命に身を投じた。数々のゲリラ活動に携わり、国際指名手配犯として1997年にレバノンにて逮捕拘留。その後帰国し、自身35年ぶりとなる映画を発表。『幽閉者 テロリスト