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日欧地域間イノベーション協力 日本でのスタディツアーが実施されました

 2022年11月13日から19日にかけて、欧州地域が日本の府県を訪問するスタディツアーが実施され、欧州6地域と欧州委員会(DG REGIOおよび駐日欧州連合代表部)等から計24名が参加しました。
 参加地域はオーヴェルニュ・ローヌ・アルプス地域(フランス)、バスク自治州(スペイン)、カタロニア州(スペイン)、エミリア・ロマーニャ州(イタリア)、リュブリヤーナ都市地域(スロベニア)、ヴァルドワズ地域(フランス)と、日本の愛知県、京都府、大阪府、広島県、大分県です。視察団は2つのグループに分かれ、11月14日から16日にかけて愛知県と広島県、大阪府と大分県をそれぞれ訪問した後、17日から18日にかけて京都府で合流しました。最終日の11月18日には京都府のけいはんな学研都市で日欧交流会議が開催され、来日中の欧州視察団が会場のけいはんなプラザから、日本の府県がオンラインで参加し、ツアーが締めくくられました。

水素社会実現に向けてのイノベーション推進

 EUも日本も脱炭素化を推進しており、なかでも水素はこれからの重要なイノベーションの課題です。燃料電池自動車「MIRAI」を製造するトヨタ自動車がある愛知県は、水素社会イニシアチブを推進しており、県内の水素ステーションの整備促進等を行っています。愛知県の中部国際空港では水素を燃料とするフォークリフトが実際に使われています。また、大阪府の関西国際空港でも同様のプロジェクトが実施されています。大分県では、地熱を利用して水素を製造するグリーン水素製造施設の視察も行いました。これらの実例を見ることで、欧州の参加者は、EUで推進されている「水素回廊(Hydron Corridor)」や「水素バレー(Hydrogen Valley)」といったコンセプトを実現するためのヒントを得ることができました。


オープンイノベーションを推進する各府県の取組み

 オープンイノベーション戦略とは、既に存在し公開されている様々な情報や知識をいかに活用するか、それをいかに起業に結びつけるか、そのようなビジネスチャンスを地域企業にいかに提供するか、そして、そのような意欲を持つ企業や市民をいかにサポートするか、というEUと日本の共通の課題であり、自治体としても、欧州の各地域と日本の府県の双方に共通する課題です。この観点からツアーでは3つの施設を視察しました。
 一つ目は、2024年に愛知県で開業予定の「STATION Ai」。愛知県と名古屋市が資金援助を行い、日本の大手通信会社であるソフトバンク社の主導で運営されています。現在は、前身の「Pre STATION Ai」が開設されており、ソフトバンクの職員らがアイデアの提供や人材ネットワークとの連携など、シーズ発掘から実用化、事業化までの全てのフェーズをサポートしています。
 
 二つ目は、大学、自治体、企業、県内外のコミュニティが連携してイノベーション創出を目指すという、広島大学による取り組みです。大学が主体となって、多様なステークホルダーが参加するスタートアップエコシステムを育成し、地域の活性化につなげようとしている点が特徴です。

 三つ目は、京都府のけいはんな学研都市に設立されたKICK(けいはんなオープンイノベーションセンター)です。けいはんな学研都市には、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)をはじめ、150の官民の研究機関が集積しています。これらの人的・知的資源を連携させることで、スマートライフ、スマートエネルギー&ICT、スマート農業、スマートカルチャー&エデュケーションという4つの分野でのイノベーションを目指しています。センターは21,000m²の広大な床面積を有しており、入居審査で選ばれた企業はこの施設に入居して研究開発環境を享受することができます。これら3つの施設はそれぞれ異なる特徴を備えていて、今後のオープンイノベーションの方向性を考える上で非常に示唆に富んでいます。

イノベーション推進のためのインフラ提供

 イノベーションを推進する上で、地域や都道府県が果たすべき大きな役割の一つは、企業、特に中小企業が低コストで利用できる研究開発のための公的インフラを提供することです。実験施設や設備などの物理的なインフラと、大学や研究機関で生み出されたノウハウを共有するための知識ネットワークの両方が必要です。
 先に紹介したオープンイノベーション施設はこの点で重要なインフラですが、この他にも中小企業が比較的安価に利用できる実験・分析装置やシンクロトロンなどの設備を備えた「知の拠点あいち」の視察も行いました。機器のスペックは必ずしも最高のものではありませんが、一般の中小企業には高額で購入できないものです。
 広島大学が広島県の支援を受けて運営している「デジタルものづくりセンター」も視察しました。センターでは製品の設計や製造に関する大量のデータを蓄積しており、これらのデータを用いたモデリングやシミュレーションによって、設計や製造をよりスマートに行うことを目指しています。

 けいはんな学研都市では、ロボット、アバター、人工知能などの情報通信技術分野において、ATRが世界の多くの機関と連携しており、そこで得られた研究成果はイノベーションの種となり得るものです。欧州の参加者からは、大学や研究機関におけるDeep ScienceやDeep Technologyの成果を、実際にどのように社会化・事業化できるか、欧州と日本の間で意見交換を行うことが重要であるとの意見が出されました。

 視察団は他にも、大阪府が推進する「北大阪健康医療都市(KENTO)」を視察しました。健康・福祉は、特に高齢化社会を迎える地域にとって共通のテーマです。
 その他のテーマに関連して、大分大学と企業が連携して開発を進める、防災・減災のための情報活用プラットフォーム(EDiSON)や大分県におけるアバターの制作・活用を視察しました。
 また、2025年の大阪・関西万博での実用化を目指す「空のモビリティ(空飛ぶ車)」が重要だという意見も出ました。

今後の活動

 IURC日欧地域間イノベーション協力プロジェクトの目的は、地域に根ざしたイノベーション政策と活動に焦点を当て、EU地域と日本の都道府県との協力を促進することです。地域におけるイノベーションは、EU地域にとってはスマート特化戦略の推進、日本の自治体にとっては経済活性化・競争力強化政策の実施に重要な役割を果たします。協力のテーマとなる分野には、脱炭素化、デジタル移行、グリーン経済への産業転換、人口動態の移行など、日本とEUの共通の優先政策事項が含まれます。このプロジェクトは、これらの政策に関連するイノベーションの実現について、互いの経験や知識の共有を促進し、相互に有意義で実現可能な協力のテーマを特定し、EU地域と日本の都道府県の具体的な協力に発展させることを目的としています。

 本プロジェクトでは、2023年5月から6月にかけて、日本の参加府県の欧州訪問を計画しています。この訪問で、欧州地域と日本の参加府県の双方が互いの取り組みについてさらに理解を深め、相互に関心のあるテーマについて、より具体的な協力を進められるようになることを目指します。


この記事は2022年12月1日にIURCのウェブサイトに掲載されたNewsの和訳です。原文はこちらからご覧ください。