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ケーキナイフでも深く刺さる。 --- 映画「カランコエの花」AmazonPrimeVideo版 レビュー

配信サイトの「あなたにオススメ」みたいなカテゴリーで見たいと思うことは普段あんまり無いわけですが、今が旬の今田美桜さんの主演作ということがひっかかり、見てみることにしました。

公式サイトからあらすじを引用します。

「うちのクラスにもいるんじゃないか?」
とある高校2年生のクラス。ある日唐突に『LGBTについて』の授業が行われた 。
しかし他のクラスではその授業は行われておらず、 生徒たちに疑念が生じる。
「うちのクラスにLGBTの人がいるんじゃないか?」生徒らの日常に波紋が広がっていき…
思春期ならではの心の葛藤が 起こした行動とは…?

映画『カランコエの花』公式サイト より引用

LGBTの啓発を目的に作成された映画なのかどうかは知りませんが、教習所とか学校の授業で見せる教育的な映画独特の押しつけがましい雰囲気は全くありません。たった39分の作品ですが、とある田舎の学生たちの間に起きる小さな出来事とそれが学生たちにあたえていく影響を描いた作品として、きちんと手間がかけられていて大変に見ごたえがあります。

もちろん、イベントや講演会等で上映されることを考慮してこの上映時間なのだと思いますが、この作品の場合その短さが非常に効いてるなと思います。物語は本当に上のあらすじの通りで、最後にちょっと悲しい出来事が起きてしまうわけですが、その悲劇を避けるためにはどうするべきなのかという解答は作品では一切示されません。ちょっとした事件が起きて、それで終わりです…

…いえ、終わりではあるんですが、最後にエンドロールが流れる中で続けられる芝居が素晴らしいかつ、なかなかキツいです。このエンドロール中の芝居の受け止め方は人それぞれだと思いますが、私の心にはかなりの痛みとなって残り、かなり後を引くものとなりました。きらきらした目をした若者たちの生活の断片をほんの少し切り取る小さなケーキナイフのような作品でありながら、本物の刃物の切れ味を持った作品だと言えるでしょう。

この作品はテーマがテーマなので現在でもあちこちのイベントや講演会などで上映されているようですが、個人的にはこの作品の後に講演とかパネルディスカッションとかの余計な話は聞きなくないと思います。映画って見て、感じて、考えるものだと思うし、その時間は作品の余韻の中にこそあるものだと思うので、つまらない他人の言葉で上書きされたくない、私はどうしてもそう思ってしまいます。なので、配信で視聴することができてとても良かったと思いました。

これからご覧になる方には、ちょっと考える時間を確保した上で鑑賞することをお勧めします。簡単な作品じゃないです、この作品は。


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