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怪#9-2(本物)

<2>

休日の昼下がり
中学生からの友人
真由美とランチデート

この界隈でも有名な
超美人の真由美といると
引き立て役にしかならない

欧米人のような
美しい顔立ちなのに
小柄で細い手足

まぁ、救いはペタ胸だね

そのおかげで女子から
嫌われずに済んだ

おまけに性格が
男子なの

私が気に入ってるのは
そのサバサバした
考え方と真っ直ぐな性格

大口開けて
ガハガハ笑って
少しも気どりが無いから
仲良しなんだ

ランチの後
ウインドーショッピング
してると
向こうから偶然、秋原が
やってきた

私たちを見ると
顔色が変わった

私は、ピンときました

何かある・・

スルーはできないね

聞いてみると
どうやら真由美の方らしい

仕方ない


手近な喫茶店に入りました

真由美に秋原のこと
簡単に紹介して
霊感があることも言いました

軽々に言うことでは
ないけれど
今回は止む無しです

訝し気でしたが
私からの紹介
(私が超現実主義者と知って  る)

なので
いい加減なことではないと
理解してくれました

秋原いわく

真由美さんの
ご先祖様が寒いみたい


凍えそうだと
自分もぶるぶる震えながら
紫色の唇になっている

そう話した途端
真由美が立ち上がった


「何で・・・!」


しばらく、立ったまま
秋原を睨んでる

ストンと座ると


「実は・・・」と話し出した

ここ数日、同じ夢を見る
何年も前に
亡くなったおじいちゃんが
夢で「寒い」と
必ず
言うのだそうだ

季節は夏なのに・・・

それを
初めて会った秋原が
口にしたものだから
仰天したのだ

しかし、秋原は
谷山と違って
背景が解らない


みんな、こぞって
疑問のまま解散



別れ際
真由美が
「墓参りしてくる」と
言っていたので


「うん
   それがいいよ」と
答えておいた


その夜、真由美から
電話が来ました


お墓に行ってみると
先日の台風で
納骨堂の石がずれており
お骨が収めてあるところに
雨水が溜まっていた


危なく骨壺全体が
浸かるほどの
水量だったそうな

もし、あと一回でも
雨が降っていたら
完全な水没は
免れなかっただろう 

今日行ってみて
良かった

すぐ業者さんに依頼して
対処してもらったので
大事には至らなかった
と、感謝の連絡だった


私と久しぶりに遊んで
その延長上に
秋原との出会い


偶然だったろうか?




秋原の顧客に不幸があった
いつもの定期訪問の際
庭先で奥様がぼやいた
「もぉーずっと
  ごろごろしてるのよ」

ご主人は
自営業を営んでおられたが
体がだるいといって
家で、ずっとゴロゴロ
しているらしい

「入院でもすれば
    保険がでるのにね」


なんて、奥様の冗談に
笑いあったりしましたが
秋原は、黙ったまま
私の横に突っ立っていました

いとまの際に

「念のために
  病院に行かれたほうが」

と、一言だけ
口をきいた秋原



あなたのクライアントなのに
私が
コミュニケーションとって
どうするのよ、と
帰社の車中で諭すと


先輩・・・・

旦那さんは
仮病じゃないっすよ

私、立っているのが
やっとでした

相当、重い病気に
かかってます


生きている人の
苦しみも受けてしまうの?

と、驚いて尋ねると

寿命が尽きかけているから

もう、間もなくですよ

と、答えました


すぐに連絡するのは
説明のしようがないので
一日あけて
電話すると、誰も出ません


携帯も同様です
不安はつのりましたが
返信を待つしかない


しかし、数日たっても
音沙汰なし・・・


機械が不得手な奥様は
着信に気が付かないことも
ままある人でしたので
こっそり訪ねてみました

数日おきに伺うも
私が置手紙した
メッセージメモがそのまま
ポストに入ってる

しばらく帰宅していないのは
よくわかりました
慌てていたせいか
新聞が止まっていなくて
山のように溜まっています


これ以上、どうする?


消極的ではありますが
1週間ごとに
メモを置いてきた
当たり障りのない
文面を心掛けて

秋原との連名で・・・


そして、ひたすら待つ


季節が変わろうとしたころ
秋原に連絡が
やっと入りました

過日、私たちが
訪問した翌日に
病院に行ってみたら
「癌」の宣告を
受けたそうです


専門の病院に転院して
検査と加療するも
既に末期の状態

意識を保てないほどの
モルヒネを投与しないと
激痛で
のたうち回る事態に

あっという間に
悪化したのだそうです

奥様はご主人にかかりっきり
他県在住のお子様方は
既にそれぞれ
ご家庭がおありでしたが
配偶者、子どもは
置いて帰郷なさり
自営業の対応をしていました

自宅に戻ることなく
そのまま旅立った、ご主人様

商売をなさっておられたので
大きな葬儀を営まれると
思い込んでいましたが
奥様の意向で
家族葬にて見送られました

たくさんの方々に
対応したくない

いちいち
何回も何回も
説明したくない

不義理と言われようが
それほど
疲れ切っていたし
亡夫という現実に
打ちのめされていました


少し落ち着かれてから
私たちをお呼びになり
ここまでの経緯を
説明されましたが

秋原のおかげで
おおよそ察しており

話す言葉も事前に
細心の注意を払って
準備していました



あの日、冗談だった
罪のない自身の言葉を
悔いておられるでしょうし
責めているかもしれない

「入院でもしてくれたら
  保険が出るのに」



と、
笑って受け流したことが
今となっては
奥様の
「縁起でもない」という
後悔に為ってはいないかと
危惧しておりました


やはり、それを
悔いていらっしゃり


だからこそ、私たちに
連絡しなかったと

洒落のつもりが
現実となり
言葉の重みに
苛まれておられました


そんな話の傍らで
秋原が
家の中を、ゆっくり
見回しています




ご主人様は痛みから解放され
旅立たれました

これは寿命で在り
運命なのです

誰にも抗えないこと
そして
誰のせいでもないのです

いっときの沈黙の後
涙がこぼれました


自然に黙祷、合掌・・・





毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます