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怪#11-2(こども)


同じ子供だったから
その時は単純に悲しい・・
それだけだった
こうして時を重ねて
人の親になって
「子」を失うことの
重みを、初めて思い知ったよ


俺の嫁さんの実家は
割と金持ちでね
商売もうまくいってる

同級生だから気心も知れて
お互いの両親も顔見知り

まぁ、幼馴染の腐れ縁みたく
一緒になるもんだと
決まってたようなもんだな

義母は日本舞踊の名取り
お弟子さんたちを
たくさん抱えて
こういっちゃなんだが
男舞を得意としてるから
和装なのに外股で歩くんだよ

でっぷりと貫禄があって
でかい口に塗りたくった
真っ赤な口紅は
食われそうで
幼い時から
苦手な人だった

義父の商売は葬儀屋
あ、いけね
また
昔の言い方しちまった

「葬祭場」経営
こっちだ(笑)

義母と対照的に
痩せて禿げ上がった頭の
少ない毛を丹頂チックで
べったり後ろに撫でつけて
独特のにおいを
プンプンさせてる

どちらも金が集まる商売さ


嫁はひとつ下に弟が
3つ上に兄貴が居た

三人兄弟の真ん中だったが
男の兄弟は
20歳を超えられずに
早逝している

高校を卒業後
20キロほど離れた
専門学校に
進学した兄さんは
寮生活をし
週末になると
KMというバイクに
半キャップのメットで
嬉しそうに帰ってきていた

妹の恵子(俺の嫁)を
凄く可愛がってたんだ

帰り道のバイパスは
路面の状態がいいから
ついついみんな
スピードを出しがちで
危ないんだよ

その日も兄さんは走行中
道路に面した
パチンコ屋の前を
通り過ぎる際に
不幸なことが起こった


そのパチンコ屋の
従業員(女)は
度重なる遅刻で厳重注意を
受けたばかりなのに
その日も、遅れており
下手すれば首が
飛ぶかもと焦っていた

元来、男と酒に
だらしない性格で

家の中も小汚い

子どもたちにも
不憫な思いばかり
させていたくせに

自分が怒られることには
敏感で
その日は30分も
遅れていたから
パチンコ店の
従業員用駐車場に
右折する為に
中央線寄りで
対向車が切れるのを
ジリジリと待っていた

ブレーキを踏みながら
アクセルも踏む

ブレーキを離したら
急発進する為にね


あと一台だ
これが言ったら曲がれる

よしっ、いまだ
ハンドルを右に切り
アクセルを踏み込んだ


しかし
対向車はトラックだった

荷台の陰で
死角になっていたが
トラックの左側後方を
兄さんが家路を
急いでいたのさ


急ぐ気持ちが兄さんにも
スピードを出させていた


不幸な偶然なのか?


女が急ハンドルを切り
対向車線を車体で直角に
遮った瞬間
兄さんが飛び込む形になった


でも兄さんは
反射神経というか
運動神経が良かったんだ

車に
まともにぶつかる衝撃を
和らげようとした

ブレーキレバーを
目一杯、握り締め
バイクのハンドルを
左に切ったが
タイヤが横滑りして
スピードが殺せない

マトモに突っ込む瞬間

両足で蹴るように
車体に脚をついたんだ

変な話だけどよ
なまじ、んなことせず
ただ、バイクごと
ぶつかってたら
怪我はしても
命はあったかもしんない

踏ん張った勢いで
宙を舞う事に
ならずに済んだかも
しれないじゃないか


事故後の検証で
分かったのだが
遮った車体の左側
助手席と後部席のドアに
兄さんのスニーカーの跡が
ドアがへこむぐらい
片一歩ずつ
深く残されていた

スニーカーの底の模様が
焼き付けたように
キレイに残ってたんだと

そこまでして
頑張ったのに
衝撃はすさまじくて
兄さんの体は宙を舞い
飛ばされている

更に、悪いことは
重なるもので
半キャップの顎ひもを
してなかったんだ

今ほど規制が
厳しくない
時代だったからなぁ


飛ばされた瞬間に
メットはあらぬ
方向にはじかれ
役を成していなかった



二度あることは三度あり


パチンコ店から歩道
そして自動車道に出るのだが
その歩道と自動車道の境目に
コンクリートで作った
台形の重しに
パチンコ屋の
広告旗が刺してある

飛んだ兄貴は
そのコンクリの重しの
角張った角に

自分の全体重を乗せて
頭のてっぺんから
落ちたんだ・・よ


目撃者がたくさんいて
その証言で
一部始終が分かった

そのうえ・・・

重しに衝突する寸前
逆さまになった
兄貴がびっくりした
顔だった
と、・・・・。


ぶつかり、飛んで


落ちるとき
兄貴の顔が
逆さまの状態で
スローモーションの
ようだったと

見た人は

目に焼き付いて
一生忘れられない

泣いていたらしい


ひどいことに
その女・・犯人

何で
だらしないことまで
俺らが知っていたと思う?


俺と恵子の



同級生の
母ちゃんだから



被害者と加害者が

同じクラスにいたんだ・・・



この地域の習わしで
学生のうちに1年間は
新聞配達を
経験するようになっていた

昔々は自転車だったが
最近はバイクがあるから
みんな高校生になって
バイクの免許を取ってから
するようになった

恵子の弟も、そうだったよ
配達の帰り道
信号機のない交差点
夜が白んできて
前照灯が無くても見える

それが仇になり

少なくとも暗ければ
前照灯の明かりが
双方の目印となり
一時停止したであろう

明るくなったばかりに
まして
そんな早朝の時間帯に
いつもは車一台通らない

その日は酒を飲み
酔っぱらって
道端で仮眠を取った
会社員が急いでいた
という訳さ


出会いがしらの衝突


これも不幸な偶然なのか?

嫁には
言えなかったけど
町中で噂になっていたんだ

墓石屋の息子二人
葬儀屋の息子二人


どっちも
「死」の影を踏みながら
商売してる

無くては困る職業
ではあるが

因果は弱いものにはねる

受け継げないように
子孫を断つ

だから、男の子ばかり
連れていかれるんだよ・・・


腹が立った

誰かが担わなければ
ならない仕事じゃないか

自分たちは高みの見物で
他人事のように言いながら
時として、親を責める

根拠のない言葉で傷つけ
阻止るなんて卑怯だ

俺は恵子と結婚してから
供養の大切さを説いた

毎月、決まった日に
必ずご供養を
させてもらっている

そのおかげか
それ以来不幸はない


俺たちの間には
息子が生まれているんだ

毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます