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夢現(ゆめうつつ)#7


目の手術のため
入院している
「ななお」がいない夏

「ななお」がいない夏休み

ぽっかり空いた空間に
初めて父親との
薄い思い出ができた

4年に一度の
オリンピックがある年で
開催国はわからないが
時差がほとんどなく
日中に父親とテレビを見た

陸上競技で黒人選手の一人が
とても速く走り
手も足も長くて
ゴールするとき
胸でテープを切る際は
ワクワクしたのを覚えている

薄い思い出と書いたでしょう
これだけよ
ふふふ
一緒に見た。
という記憶ね

ある日、父親はいなくなり
代わりに母と「ななお」が
帰ってきた

家族全員が揃うことはなく
入れ違いという
バツの悪さを隠すよう

入場と退場
役者がきれいに入れ替わる

主役の私だけが常時
舞台で演じ続けて
いるようである

久しぶりに会う「ななお」は
ひと夏入院していたせいか
妙に白くて
一層、弱々しく見えるのに
メガネのせいで
少し大人びて見える

正確には「老けて見える」

言葉通り
牛乳瓶の底のような
分厚いレンズの眼鏡をかけた
「ななお」は少し
野暮ったく見えて嫌だ

お利巧のように見えるが
何処か可笑しい

いつもより「目」が
大きく見えるせいだろうか

一か月余りの入院生活で
何かが変わった

甘えてばかりで
「お願い」が口癖だったのに

極端に口数が減り
自分だけの空間を好むようになっていた

しばらく離れていたのと
私が中学生になり
部活を初めたことも手伝って
急速に「ななお」とは
距離ができていった

ほとんど話すこともなく
同じ家にいても
それぞれが、思い思いの
ことをして
過ごしているばかりで

喫茶店で隣の席にいるのに
まったく話をしない
他人のよう

この距離感は
大人になった今でも
私に影響している

人間関係に執着がなく

来るものは選ぶが

去る者は一切関知せず

どれだけ仲良くしていても
プライベート空間の中で
「私」の部分は私だけのもの

冷たいとか割り切り方が
極端すぎると言われる

一度嫌になると
滅多に許さない

そこに居ないものとして
相対する

最近も5年無視し続けた
奴が自分からしたでに
出てきて
詫びらしきことを
言った。

周りの執り成しもあり
会話はするようにしたが
それだけである


私が「情」をもって
望むのはこの世にわずか
しかいない

ある種サイコパスな
一面なのかもしれない

あぁ、また逸脱していますね
戻しましょう


中学では
それなりに友人も増え
先輩後輩など
上下関係も身に着けたが
可もなく不可もない日常で
一つを除いて
何の変哲もない
中学生活だった

いまでも、苦手なこと

女の子同士の粘着質な関係

性的なことではなく

どうしても理解できないのが
休み時間に必ず誰かと
おトイレに行く習慣

自分の生理現象でもないのに
何故かしら誰かに付き合って
100%行く

鏡を見て
おしゃれに気を使うとか
身なりを
どうこうというのなら
まだ、納得がいく。

しかし違うのだ
催した誰かに付き合って
行き
待っている間、鏡を見たり
雑談したり・・?

不思議だ。

それは教室ですることで
トイレですることではない

学校のトイレは
お世辞にも清潔感はない

それなりに臭いし
じめじめがあり
陰気な感じがある

必要でなかったら
行く気にはなれないのに

毎時間、集団で
手をつないで
いく場所なのか?

その上
一緒にいるときは
それなりに交流できるが
誰か一人が
席を外した瞬間
外れた人の悪口が始まる

「私たち親友よねぇー」と
言いつつ
「ここだけの話」が
ひらひらと尾ひれを付けて
共有されるのだ

ひどい時は
本人が目の前にいても
当事者に見えない角度

机の下で
「手で合図」

「足でサイン」するなど

顔は神妙に聞いていながら
「ほら、また始まった」
と言わんばかりに
合図をして
内心笑いものにしている

「胸糞が悪くなる」
言葉は悪いですが
大嫌いな
女の子あるある

こんな日常の繰り返しに
無口になる私
そのうち皆が気付き始め

この慣習に
同調しない私は
異端者扱いとなった

いつの間にか
ポツンと一人で
居ることが多くなる

これまで気を使って
好まざるにかかわらず
ボス的な人のところに
行っていたが
外されてみると
なんとも
言いようのない解放感

自由に自分の
好きなことができるし
悪口も聞かなくて済む

皆が話す悪口話
下手に
同意でもしようものなら
いつの間にか
「言い出しっぺ」の
犯人烙印を
押されかねない

その緊迫感から
抜けられて
とてもリラックスできた

休み時間のたびに
中立を保つべく
細心の注意を
払っていた自分に
その時
初めて気づいたのだ


毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます