私のパパを殺してくれ

銀杏BOYZと過ごした青春を、ボソボソと語ります。

部活勧誘の喧騒の中、高校の廊下で16歳の私は銀杏BOYZに出会った。ドブ色の長髪で、制服を着崩しすぎて私服との区別もつかない格好をした男が、アコギで怒鳴りながら練り歩いていていた。歌詞もろくに聞き取れないその歌に、当時クラシックとほんの少しのJPOPしか聞いたことがなかった私は感動した。追いかけて、曲名を聞くと銀杏BOYZの『BABY BABY』だった。
そこからは転げ落ちるように銀杏BOYZにのめり込んでいった。

その男のLINEアイコンだった『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』をひとりで聞いた。
部室で音楽仲間に『もしも君が泣くならば』のコードを教えてもらって練習した。
文化祭の片隅、埃っぽい教室で『駆け抜けて性春』を演奏した。
母親のヒステリックな叫び声が聞こえてくる中、『援助交際』のMVを観た。

初めてのキスが痴漢でも、父親の顔を思い出せなくても、私には銀杏BOYZの音楽があるから生きていけた。側から見ると、ヤバい宗教を信仰している人間と私は大差なかった思う。

心からそう思っているはずなのに、爆音で銀杏BOYZを聴いても苦しさは消えなくなった。今自分が置かれている環境よりも、銀杏BOYZで完全に幸せになりきれないことの方が辛かった。

地獄である家に帰る電車の中のこと。イヤホンから「君のパパを殺したい 僕が君を守るから」というフレーズが心に飛び込んできた。うるさい場所でも自分の名前には反応できるアレと同じ感じ。鼓膜や神経を通り越して、音が言葉が心にきた。帰宅までの20分間ずっとその曲を聞いた。

君を勝手に天使にしちゃう男の子。どんな人かも分からない新しいパパを「ヒトラーみたいな奴」と決めつけてしまう男の子。銀杏BOYZを聞いて初めて、なんて馬鹿で迷惑なんだと思った。
それでも、「僕が大人になってきっと君を探すから 僕らふたりだけで ふたりだけで結婚式をあげよう」という言葉に私は間違いなく救われた。
そして、勝手に救われて勝手に傷ついていた私とこの男の子の身勝手さは、なんら変わりのないことだと気付いた。

私の音楽は私を守るけど、私をひとりぼっちにもするよね?


高校生活が終わって、2年近く経ちました。私はまだ銀杏BOYZというバンドが好きで、変わらず「あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す」が1番で、ようやく歌詞も含めて「青春時代」を好きになりました。

結びの言葉を考えてみましたが、どうにも浮かびません。代わりに浮かぶのは、アンコールの終わりに峯田がドラムセットに飛び込み、日本語では表せない音が鳴り響く中、捌けていく姿です。

ハロー 今君に素晴らしい世界が見えますか

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