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幸福理論

幸福理論
作:樋口いつ葉


雨降りの暗い路地をぬけ、ボロアパートのドアを開ける。

東京に来て5年経つ
一人暮らしも慣れたもんだ

仕事は…ぼちぼちやっている

郵便受けを開けてため息をついた
家族からの手紙だ
どうせまた

「元気にしてるか?たまにはかえってこいよ」

とかそういう類だ

軽く目を通す
やはり予想は間違っちゃいなかった

グシャグシャに丸め、ゴミ袋に突っ込んだ

僕は家族が嫌いだ

家族構成は…まぁよくある感じだ
物心ついたときには片親だけの家庭になっていた
母親は恋多き人だったからよく住所は変わって行った
そんなことを数度繰り返しているとき、今の父親と付き合いだした。
小3の時だ
それから付き合い続け、僕が高3の春に結婚した
妹が入学した時に名字を変えたほうがいいだろうということだったが僕のことは無視だ

仕方がない
妹のほうが僕より出来がよく可愛がられていたから

父はいわゆる古風な厳しい人間だった
まっすぐ、自分の正しいと思うことしか許さなかった
僕はいつしかそんな父のことが嫌いだと感じ始めた

そもそも本当の親でもないくせに僕の人生に口出ししてくるのは本当に嫌だった
何かあればすぐ過去のことを穿り返し、俺が正しかったという

母もなんでこんな男と…そう思うと母親のこともなんだか憎らしく思えてしまって

僕はそんな父を、母を避けるように東京へ上京してきた


少なくとも母親に対しては感謝もしているし好意ももちろんある
ただ、あそこに居続けると自分が自分でなくなりそうだった
少しでも残ってるその好意までも、憎しみに変わってしまいそうだった

それが怖かった

それが怖くて、というわけではないがそれも一つ理由になっているのかもしれない。


ベランダにでて、雨降りの真っ暗な路地を眺めながらビール片手にタバコを吸う


妹とは…たまに連絡を取る
イケメン彼氏と仲良くよろしくやってるらしい
唯一のまともな家族だ、妹だけでも幸せになってほしい

…幸せってなにかはわからないんだがな

ふと、そんなことが頭に過ぎったがそんな考えもビールで流し込む

タバコも吸い終わり、部屋に戻ろうとしたその時だった

路地の奥に傘もささずに歩いている人がいる
…女の子?
そっとしておいたほうが身のためなのだが何故かほっとけなかった

ビニ傘を2本手にして外に出る
やっぱりそのずぶ濡れの人はそこに居た
見た目的に女子高生か…?
女子大生か…それくらいだろう

「あの…大丈夫っすか?これよかったら…」

女はこちらを向いて傘を受け取った

「あんまりココ治安良くないんで早くかえったほうがいいっすよ。じゃあ…」

長く関わるとろくなことはない
傘を渡して家に向かって歩き出した


と思ったら、服を後ろから引っ張られた
「あ、あの…迷惑承知でなんですけど、泊めてくれませんか…?」

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