和食料理人として考える「あいち碧南のにんじん」の魅力と料理の楽しみ方
愛知県碧南市で「日本料理一灯(いっとう)」を経営しております。和食の伝統を大切に、地元の食材を尊重し料理を作っております。和食のことや地元食材のことを書いていきたいと思ってます。
ここ碧南市は愛知県を代表する人参の産地です。「へきなん美人」というブランド品種があります。昔は、人参といえば子供の嫌いな野菜の代表格。人参臭いと言われる独特の香りがその原因でした。その後だんだんと品種改良され作り上げられた現在の「へきなん美人」は甘くてクセが少ないため、そのままサラダで食べても、ジュースにしても美味しく。いまでは、碧南の子供たちには人参は好きな野菜の部類に入るほどになっております。
それからもう一つ忘れてならない品種が「碧南鮮紅五寸」(へきなんせんこうごすん)です。愛知の伝統野菜の一つに選ばれており、60年以上作り続けられています。碧南の土地(砂地)に合い碧南人参の生産量を増やし一世を風靡した品種です。その味わいはいわゆる人参臭い、本来の人参の味わいです。でも加熱するとクセも和らぎしっかり甘みが出ます。もともと昔はサラダなど生食することが少なく、煮て食べることが主流でした。たまり醤油と砂糖で濃い味に煮る郷土料理にはぴったりの人参です。
碧南の郷土料理として真っ先に挙げられるのが「にんじんご飯」です。上の写真は碧南鮮紅五寸人参を千切りにして油揚げや干し椎茸と共に、たまり醤油と砂糖の味付けで甘辛く煮て、白ごはんに混ぜた昔ながらのにんじんご飯ですです。隣の高浜市には同じような味付けの郷土料理「とりめし」があります。具材として人参も入れる家も多いですが、こちらは養鶏が盛んだったのでかしわ(鶏肉)が主役となります。近くにたまり醤油を作っている醸造元も多かったことも要因であると思います。
小さいころ、「今日のご飯はにんじんご飯だよ」と言われると、食卓にはにんじんご飯とみそ汁だけ。おかずは無しでした。。。ご飯に煮た野菜がたくさん入っているという理由らしく。今となっては懐かしくもありますが(苦笑)。
以前、仲良しの豆腐屋の社長とその話をしたら、やはりそうだったみたいで。かなり盛り上がり、三河の貧しい食卓の思い出話から「南三河食文化研究会」へとつながっていきます。そのあたりはまたあらためて。
今度の写真は、へきなん美人を使って新しいにんじんご飯を作ってみました。へきなん美人を丸ごと焼いて甘さを引き出し。お米と共に入れて炊いてます。味付けは碧南の白醤油を使って。白醤油はたまり醤油がほとんど大豆を原料として造られているのとは反対にほとんど小麦を原料にして作られてます。そのため色が薄く、食材の色を活かします。炊いたご飯にへきなん美人と紫や黄色の人参のきんぴらを混ぜ込んでます。甘い人参とシャキシャキした人参。彩も鮮やかで軽い感じの仕上がりになってます。これならばおかずもしっかり食べられます。(笑)
昔はご飯を食べるためのおかずなので、ご飯が進む濃い味に。今ではパンと合わせたり、単独でおかずだけを食べたりもしますので、比較的軽い味わい。食生活も変化してきました。
そしてにんじんも、現代の嗜好にあった甘くてクセのない品種が人気です。どの野菜にもその傾向はあると思います。「甘い」「食べやすい」。それによって野菜嫌いの方が減った来たのはよいことだと思います。ただその反面、個性が無くなってきているのも事実です。人参臭いという人参らしさ。それも含めた味わい。
今、いろんな品種が出回っています。色や形や香りも。「にんじん」と普通名詞でひとくくりに考えず、「碧南鮮紅」など固有名詞でその個性に合わせて、調理法や味付けなどを工夫してみてはいかがでしょう。料理に合わせて人参を選んでみる。そうすることで、ちょっと楽しく美味しい料理が出来そうです。
あいち在来種保存会の高木さんや、野菜ソムリエ上級プロの永井さんとも協力して、野菜の旬の話題や楽しくなる話を発信しています。
それから、食についてともに学びあう学校「フードスコーレ」でも講師をします。自分も食に関する仕事です。これから後に続く若者にとって、「食」に夢を持てる社会になって欲しいと思います。
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