母に教わった父のこと

【母に教わった父のこと】
父はコミュニケーションが苦手で、どちらかというと意地悪にしか見えない態度をしていた。たとえば子供が小さい時、親が手を引いて歩くのは安全確保の為にも自然なことだと思うが、父は気に入らず甘やかすな!と怒ったという。

こんな具合だから、私の記憶の中でも父が理解不能なことは沢山あった。寒いと靴下を履けば「水で鍛えろ!」と言われ、風雨で雨戸が壊れれば「誰がやったんだ!」とどやされる。一つ一つは些細な出来事だが、日常こんなことばかりだったので頭を悩ませたことは間違いない。

ところが、母親が父子の関わりをなんとかしなければ家族がおかしなことになると、直感的に感じて「爪だけは切ってください」とお願いしたことがあるそうだ。思い返すと、父に爪を切ってもらった記憶がある!私にとっては深爪になりそうな恐怖体験だったが。そして耳垢も取ってもらったことがある。父は耳鼻科医だったこともあり、大きな耳垢を上手に取った。これも痛みがあったので恐怖体験ではあったが。

私の記憶のないところで、母に聞いて驚いたことがある。
父がまだ乳児の私を風呂に入れたことがあるというのだ。それだけだって驚きなのだが、なんと「ひと〜つ、ふた〜つ」と湯船に私をつけて数えたというのだ。母が、子供にこんなことをしていたらすぐさま叱りつけたであろう父が、声に出して数えたのだ。
この声を聞いた母も仰天したという。父にも優しい心があったのだ。そう思うと込み上げるものがある。

なぜ日常的にそれを表現できなかったのか。亡き父に問いたい。しかし今は父の愛情を意識して受け取る時間としたいと思う。

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