駅で50分待つ

走れば間に合う、と思ったときにはもう遅かった。ビルを出て、駅までの長い道のりを目にして思い出さずにいられなかった。「そういえばこれ、前間に合わなかったな…」

その時点で足取りを緩めたのがまたいけなかった。ここで走っていれば。走ってさえいれば間に合っていた。駅に着いた1分後に電車が出た。小走りでもしてれば飛び乗れたかもしれない電車が、遠くのホームで小さな音を立てて左にスライドしていった。

50分待つことになった。周りにはコンビニとカラオケがある。時間を潰すのにいつも使うカフェは無い。コンビニでお菓子とジュースを買う。時間は減らない。

駅に戻る。便意が来た。トイレに向かうと小便所が3つとトイレットペーパーホルダーの無い大便所が一つあった。諦めて戻った。残り40分。時間の潰し方がわからない。

さっき買ったお菓子は、便意のせいで食べる気にならない。それにしても50分は長い。待合所の椅子は埋まってて座れない。駅のすみでSNSを見て過ごすにも限界がある。ぼけーっと立っている以外にこの時間をやり過ごす方法がない。外は風が強い。荷物の重さで散歩は諦めた。

ようやく待合所の椅子が空いた。しばらく凝視して、ほかの誰もが座ることの無いことを確認し、そそくさと椅子に座った。便が持ち上がる感覚がある。発車時刻までもう少しになってきた。それでもまだ10分以上ある。椅子に座るだけでこんなに楽なら、積極的にもっと座りたいアピールをしておけばよかった。便が持ち上がる感覚だけはあまり好きではないが。