弱さを認めるということ
セルフハンディキャップの果てに。
極端に物覚えが悪い後輩M君
こんな後輩がいる。
息子の学費を稼ぐために日本にやってきたM君。
彼は、元来温厚な性格で、共感力が高い一方で、ラッシュをかけられるとテンパりやすい、
わりとのんびりした人間だ。
本当は母国インドネシアでのんびり暮らして生きたかったが、日本人の妻の嘆願もあり、
息子を日本の大学に進学させるべく、お金を稼ぎにやってきた。
本人はあまり乗り気ではなくて、しかしまぁもうビザも発行して日本に来てしまったのだから、
あとはやるしかないというような状況である。
ところがこのM君、一年半が経とうとしている現在でも新人ばりに仕事ができない。
僕は彼の教育担当ではなかったため、そんなに気にしていなかったのだが、最近彼と一緒になることもあり、よく彼を観察するようにした。
その上で、大きな問題が二つあることに気がつく。
一つは、日本語が全然わからないということ
もう一つは、物覚えが極端に悪いということだ。
日本語については、
「M君、一日に何単語覚えてるとかあるの?」
と僕が尋ねると、とても爽やかな笑顔で
「2!」と答えた。
また、物覚えに関しても、
例えば一つの作業のやり方を、まずやってみせて、次に僕がガイドしながらやらせてみせて、
そしてじゃあ、同じ作業を今度は1人でやってごらん、というとアワアワしてしまう、といった具合だ。
M君と向き合う
弊社は少数精鋭なので、休憩時間やご飯のたびに、
どうしたらM君が仕事ができるようになるか、ということはさんざんみんなで話し合ってきた。
みんなの意見をまとめると、要するに彼の中で何か大事にしていることと、
僕らの業界としての文化や、会社としての文化が噛み合ってないんじゃないか、ということや、
やる気はさておき、息子のために日本に来て頑張らなければいけない状況にあって、
それでもなお覚悟が決まってない、ということなんじゃないか、とか、
最初の半年間怒られっぱなしだったので、怒られることを恐れるマインドが染み付いてしまったのではないか、
とかそんなことが挙げられていた。
概ねそのようなことはあるだろうし、
同時に、自分は仕事ができない人間なんだ、とか、
一日に二単語覚えるのが限界なんだ、
という割と強めのセルフハンディキャップがなされているように僕には見えた。
今までの僕だったら、どのようにしてそのキャップを取るかということを考えていたのだが、今回はそうではなくて、
セルフハンディキャップをしてしまうことを認め、その上でどうやったら解決できるか、ということを考えたい。
能力に対する思い込みを外す
納期が作品を作る、と言ったのは誰だったか、
人間のやる気というのは思いの外良い加減で、
豚もおだてりゃ気に登る、はあながち間違いではない。
ただしそれは、「僕は一日二単語しか覚えられないんです!」
というM君に、
「いいから単語帳一ページ覚えてごらんよ」
と強硬姿勢をとるということではなくて、
今感じている能力については一旦脇に置いておいて、
別の軸から攻略してみようよ、ということなのだ。
出来るようにならなけれいけないことから逆算する
今回でいえば、例えば日常会話に2000語必要だとして、
それを一年でマスターするなら一日7〜10単語を毎日インプットする必要がある。
だから、それが出来るように毎日努力したり、仮に出来ないとしても、
出来るにはどうしたら良いか考えて工夫するということがとても大事で、
できないからやらない、やる気が起きないからやらないという姿勢はどこにも到達できない。
この時、やる気や自分の能力を無視できるかが大きな鍵になっていて、
「僕にはできないし、たいへんだし、、、」
という気持ちよりも
「うるせぇ、やるんだ」
という気持ちが先行できるか、ということが非常に大事なように思う。
やってきたという実績だけがキャップを外せる
卵が先か鶏が先かという話みたいだが、この手の、自分の能力に対する固定概念というのは、
実績によってしか更新されない。
一月で5キロ以上減量したことのない人と、それ以上大幅に痩せたことのある人ではダイエットへのモチベーションや自分の自信に対する感覚がまるで違うが、
それは気持ちだけでどうにかなる問題じゃないんだ。
だから、どんな方法でもいいが、セルフハンディキャップを脇に追いやり、ただやる、やった、できたにたどり着けることを願うばかりである。
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