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名前のない何か

 普段、自分がやっていることに名前をつけるとしたら、なんと呼べばいいのかとしみじみ考えてしまった。
 創作と呼ぶほど高尚ではないが、趣味と片付けられたら少々腹が立つ。とはいえ「モノづくり」と呼べるほど精緻ではないし、高度な技術などカケラもない。それでも「誰にでもできる」と言ってしまえるほど簡単でもない。集合の円に例えるなら、重なる部分どころか円の外側にある何かですらない、どこにも属さない点みたいな趣きがあるのである。

 そんな荒野の石ころみたいな名前のない何かは、実はそこら中にあるのかもしれない。
 横断歩道の白い部分とか、マスクメロンの網目とか、ティーバッグの糸の先にある小さなひらひらとか、「〇〇ちゃんママ」とか。総体としての名前はあっても、ある一部分は従属物のような扱いで雑に匿名化されている。
 名もなきモノは遥か彼方の恒星の周りを誰にも知られずにグルグル回っている惑星みたいな哀しさに満ちているのだ。

 シェークスピアはジュリエットに「薔薇と呼ぶあの花は、どんな名前で呼んでも同じように甘い香りがする」と言わせたけれど、残念ながら僕の日々にある名もなきモノはニスとか木屑の臭いはしても、薔薇のようには香らない。
相変わらず世の中は不公平だ。

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