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読書記録

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個人的な読後連想の記録
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2022年1月の記事一覧

読書記録2022 『どこから行っても遠い町』 川上弘美

 川上弘美さんの熱心な読者ではない。これまでにも『センセイの鞄』1冊を読んだきりだ。  それでも図書館の書架でこの本に目が止まったのは、やはりタイトルの吸引力が強かったせいだろう。  もともと「連作長編」という構造が僕は好きで、興味が強い。  同じ主人公、同じ場所、登場する人たちが交代で主人公を務めていく展開、それらが時に薄く、時に濃く、互いに関係していくことで物語や、物語をドライブしていく装置を強化する。  互いが支え合うのでも、二重連星のように間に重心がおかれるのでもな

読書記録2022 『という、はなし』 吉田篤弘(文)/フジモトマサル (イラスト)

 吉田篤弘の本はいわゆる読書体験と少しだけ違う。  僕は蒐集癖がほとんどないのだけれど、吉田篤弘の作る本のいくつかは持っていたくなる。  彼が「クラフト・エヴィング商會」として本の装丁やデザインを手がけているせいもあるのだろうが、持っていたいという願望には「読むもの」としてだけではなく、表紙のデザインから体裁、装丁まで、全体を一つの作品として所有したい気持ちになるのだ。  本作は大人のための絵本といった趣で、小さな話とイラストレーターのフジモトマサルの挿絵がセットになってい

読書記録2022 『真田太平記1』 池波正太郎

 池波正太郎さんの旧居は、今の住まいからほど遠くないところにあった。  今のところに引っ越してきた当初はまだ当時のお住まいが残っていたが、今はすでに別の建物が建っている。  お住まいの近くの地蔵堂の柵には池波さんの名前が彫られていて、池波さんが寄進者の一人だったことを示している。  学生の頃から池波さんの時代小説を愛読していたが、鬼平犯科帳と真田太平記は老後の楽しみにとっておこうと、ずっと読まないでいた。  鬼平犯科帳は今でも読むのをこらえているが(全巻、手元に揃ってはいる