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読書記録

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個人的な読後連想の記録
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2021年12月の記事一覧

読書記録 〜 2021下期 直木賞候補作発表に関連しつつ

 直木賞を信憑性のある良質なブックレビューだと思えば、年に2回の選考と受賞は読書中毒患者にとっては便利なものだ(芥川の話はあえてしませんけど)。  上半期の受賞作2作、佐藤究さんの『テスカトリポカ』と澤田瞳子さんの『星落ちて、なお』、どちらも面白かった(『テスカトリポカ』は最後、ちょっと拍子抜けの感はあったけど)。ほぼ毎回「読んでハズレなし」という安心感があるのは実にありがたいのである。  今年下半期の候補作5作はこんな作品が並んだ。 ・『同志少女よ、敵を撃て』 逢坂冬馬 

自分の「好き」は抑制的じゃないと鬱陶しい —— 読書記録 『牛天神—損料屋喜八郎始末控え』 山本一力

 観るでもなくTVをつけたままにして小説を読んでいたら、唐突にマーサ&バンデラスの「ダンシング・イン・ザ・ストリート」が流れ始めた。NHKの「名曲アルバム」だった。  クラシックだけじゃなく、モータウンまで取り上げるようになったのかとNHKの変わりようにも驚いたけれど、それよりも先に音楽が入ってくる。モータウンの最盛期の大ヒット曲だったオリジナル版ではなく、デヴィッド・ボウイとミック・ジャガーがカヴァーしたバージョンの方が頭に浮かんでしまうのは仕方がない。好きというのはそうい

小説に葛藤や成長は本当に必要か —— 読書記録 『イエロー・サブマリン〜東京バンドワゴン』 小路幸也

 下町の老舗古書店「東京バンドワゴン」を営む大家族の織りなす人気人情物語シリーズの15作目。  毎年4月に新作が刊行されていて、1作目から読んでいる身にはすっかり季節の目印の役目も担うようになっているのだが、この2年は買ったまま「積ん読」状態で、ようやく2年のブランクを埋めるべく本を開いたというわけだ(つまりまだ16作目が残っている)。  「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」といったホームコメディを見て育った世代には、当時のテレビドラマを懐かしく思い出しながら読み進めら

読書記録 『カディスの赤い星(上下)』 逢坂 剛

 いくら面白い小説でも賞味期限はあると思っている。  SF小説みたいにどれだけ時間が経ってもやってこない未来とか(スターウォーズ的に)、現実との地続き感ゼロの妄想異世界小説は別なのかもしれないが、こと舞台を現代においた小説の賞味期限は早い。  作家をいつも悩ませるのは日進月歩のテクノロジーと、リアルタイムで起きている社会情勢の変化が小説世界に及ぼす影響だと聞いたことがある。  ネットの発達で「それがどんな意味なのか、その場ではわからない」という状況は書けなくなってしまった。