読書記録 「次世代の実証経済学」(大塚・黒崎・澤田・園部,2023)

選んだ理由
高度なデータ活用(エビデンス活用)を実践していくための現状調査として、実証経済学の現状を知りたいと思ったから。また、よく聴講しているCECのセミナーにて、伊芸先生(慶應)がおススメしており興味を持ったから。

新たな学び

  • 実証分析の第一世代(パネルデータ分析)→第二世代(因果推論)→第三世代(信頼性革命)

  • ミクロ経済学の視点では、固定効果モデルや操作変数法では自己選抜モデル除去にはならない

  • ナッジ理論による効果の一部はそのナッジに関する論文出版による効果

  • 「RCTは様々な便益を世の中に届けてきたが、公平にその便益を届けているわけではなく、必ずしも介入を行った対象者に対し便益を届けていない」(Nature,2022)

  • RCTは多額の費用がかかるため、発展途上国でRCTが多く行われていることは、先進国と発展途上国の格差があることで成立してしまっている

  • Policy Based Evidenceとは政策をよりよくするためのエビデンスのことを指す。ここからは個人的意見だが、そのためには各種政策に評価手法を組み込んでエビデンスを生成し、自組織及び世の中一般のエビデンスを統合したメタエビデンスを生成することにより、まぐれ当たり(たまたま母集団の中から介入が高くなるサンプルが選ばれてしまうこと)や再現性問題をある程度クリアすることが可能になると思われる。

  • 労働経済学ではDIDが多様されており、介入タイミングが複数ある場合二方向固定効果が有効

  • 労働経済学(PAにも通じる)では、現場の声を聞くことで全体像理解の一助となる。が現場の声を聞くことが可能なのは一部であり、そのサンプリングが適切でなければ全体像理解のバイアスになってしまうこともあり得る。

  • 介入によってとある問題を解決した際、介入の効果測定を行うことも重要
    (例:研修によって人事社員が日常的にデータ起点で考えられるようにするには、研修によってデータの知識がきちんと高まったかも観測しないといけない)

  • 心理的貧困の罠:現状の貧困による諸問題(メンタルヘルス・健康・)で意思決定の質が低下することで、適切な行動を取れず貧困から脱出できない、とする考え方

  • 厳密に考えれば考えるほど、内的妥当性の検証のための追試は難しい。なぜなら全く同じ条件というのは作成できないから。

学びの再確認

  • EBPMの難しさ:エビデンスを作れる分野には現状限りがある/エビデンスの解釈には一定の専門性が必要/エビデンスには常に外的妥当性がつきまとう

  • 政策担当者は自分が意図したのと矛盾するエビデンスを忌み嫌い、それらを軽視する傾向にある

  • 正確な測定のエビデンスには長い時間と大量のデータが必要となる。これらの解析は進めつつ、ある程度大胆な仮定をおきその旨を説明した上で、その上で分析をして示唆を出すことも有効である

今後

  • 個人的には名著。内山、大竹、小林(2023)とセットで読むことで、データ活用の応用であるエビデンス活用の業務側知識はかなり網羅できるように感じた

  • ただしこの本の読解には一定の知識が必要のため、専門家向けの本だと感じた

  • 本文→コメント→リプライ、という形式で書かれており、本側でテーマに関する深堀が行われている方式は素直に面白いと感じた

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