読書記録「日本の会社のための人事の経済学」(鶴,2023)

選んだ理由
タイトルに惹かれた。元々鶴先生は存じ上げていたが著書は読んでいなかったため、手を出してみた。

新たな学び

  • 業務内容が空白のまま雇用契約を結ぶメンバーシップ型雇用は、契約としては非常に特殊である

  • ジョブ型雇用においては、全てが具体的に決まっている狭義ジョブ型雇用と、勤務地・職種・労働時間のいずれか一つ以上が決まっている広義ジョブ型雇用と分類できる

  • 労働時間を限定した雇用では定着率やJSの向上が確認され、職務を限定した雇用では専門人材の獲得や生産性と利益が見られた

  • 日本型の雇用システムでは、最初は生産性以下の賃金が支払われその関係性が段々と年齢があがるごとに逆転していく

  • 成果給というのはむしろ古典的な賃金決定システムである。成果給にするとインセンティブは確かに向上するがリスクもあがる。労働への資本投下は基本分散できない上に、外的要因によって成果が得られないなど労働者に取ってはリスクが高い。

  • 成果主義が向いているのは以下の状況である

    • 単一業務

    • 成果を客観的かつ容易に測定可能

    • 成果の外的要因が少ない

    • 労働者のリスク回避度が少ない(リスクテイカーである)

  • クラウディング・アウト効果:内的動機づけに対し外的動機づけを行うとモチベーションが逆に低下してしまう

  • 成果主義的制度には、能力開発の機会提供→評価・処遇制度改善の順番が重要

  • 新卒採用による企業内の同質性強化のための対面主義による場の共有の重要視

  • 企業及び労働者が信頼感を持って雇用契約を長期間継続して持続させるのが経済学的に効率がいい。これを実現していたのが日本型雇用システムの生産性と賃金の乖離である。若い人には安く支払うが将来の高給で吊らせて長期間雇用させ、中年には生産性以上の金額を支払って企業に留まってもらう、支払える原資がなくなったタイミング、それが定年となるのだ。

学びの再確認

  • ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用で、どちらにもメリットデメリットが存在し一概に良し悪しは付けられない。しかし、組織のコンテクストや周囲の環境によってその場その場で一方の雇用システムの方が優れた結果をもたらす、という状況にはなり得る。

  • メンバーシップ型雇用における評価=様々な部署で活躍できる潜在能力

    • 非認知的スキル(やりぬく力、協調性等)

    • 認知スキル(自頭のよさ)

    • やる気=長時間労働→長時間労働の慢性化、長時間労働プレミアム

  • ジョブ型は解雇自由という訳では決してない

感想

  • ジョブ型雇用に関する記載は非常に正確で、かなりの良書であった。特に雇用システムと賃金決定のメカニズム、日本型企業の特徴分析に関しては読む価値あり。

  • 広義ジョブ型雇用における、総合職と一般職といった分類は性別分業制を前提とした制度である。これはDEIが進まないばかりかペイギャップやガラスの天井問題など様々な格差問題の温床となる可能性がある点で継続するべきでないと感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?