読書記録「日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用」(大湾,2017)
本の概要・選んだ理由
PA協会にも参画する人事経済学の権威である大湾先生の著書。過去の様々なHR関連の実証研究の事例やテクニックの概要が紹介されている。ピープルアナリティクスのテクニックや思考法強化のために読みたかった。
新たな学び
統計的差別が差別を生むことも。例えば、「出産等により女性の方が男性よりも離職率が高い、だから女性への投資を渋る」という一見合理的な施策そのものが女性の就業意欲を削ぎ女性の離職率増加を促進している。
パネルデータを使って時系列で大きく変化するもの(超勤時間等)の因果効果を推定するには2期間のデータの差を活用する。例えば超勤時間がエンゲージメントに与える影響を推定するときは、調査時と少し前のデータを用意し、(調査時-前)でデータを取ることで、時によって変化が少ない変数(ポジション、個人の性格等)を上手くコントロールして本当に見たい時系列データ(ここでは超勤時間)の影響を推定することができる。(時間によってあまり変化しない変数は、2つの時で差を取るとほぼ0になるはず)
EG1 = intercept1 + B1*overwork1 + B2*Gender + B3*Position + B4*Pay1+...
EG2 = intercept2 + B1*overwork2 + B2*Gender + B3*Position + B4*Pay2+...
(EG2-EG1) = intercept + B1’(overwork2-overwork1) + B4’(Pay2-Pay1)+...
→変わらないGenderやPositonの影響を除外した新しい回帰式で推定可能に
ただし結果の読み解き方に関しては少し難しいかも(きちんと固定効果モデルのテクニックに関して詳しく解説している本を参照して勉強すること)マミートラック:出産や育児によって、仕事はできるが昇進等に遠ざかってしまう女性のキャリアパスのことを指す
賃金格差を考えるときには、大湾が日本企業全体の賃金を推定するのに使用した以下のミンサー型賃金関数が役に立つ。なお、これに当てはまりがよすぎるのは年齢と勤続年数だけで賃金を説明できてしまう(つまりは年功序列が強すぎる)ので悲観するべき事実である。
log賃金=(切片)+性別ダミー+学歴ダミー+年齢+年齢^2+年齢^3+年齢^4+勤続年数+勤続年数^2+雇用形態ダミー(正社員、派遣等):大湾
賃金の予測を行う際は、wage=(指数関数exp)右辺の計算をする必要があるので注意(賃金の対数を取っているので)
役職登用率のベストシナリオとして、男女の昇進率が全く一緒(つまりは性別による差別がない)を活用できる。
女性は男性と比較して、リスクを恐れネガティブFBを避ける傾向にある。そしてチャレンジングな仕事を好まないことが知られている。この特性はMBOによって人事考課を決める環境においては、女性に対し大きく不利となる。
離職ダミー=就職内定率+性別+勤続年数+評価+職種ダミー
上記で就職内定率の回帰係数が有意に負であるとき、自社に採用力がないと分かる。(買い手市場になるほど入社後の離職率があがる、となると採用しやすい環境なのに離職率があがる→自社にマッチした人材が取れていない、という証明)離職率を自社でコントロールできていないのは、優れた人材マネジメントができていない証拠。ただし離職率が低いことが必ずしも正しいとは限らない
離職ダミー=(賃金-市場賃金)+性別ダミー+勤続年数+評価+職種+その他CV・・
上記で(賃金-市場賃金)の回帰係数が有意に負の場合、それは適切な賃金を支払っていない可能性が高い。(固定効果モデルとは、複数期間のパネルデータを活用して個人の性格など変わらない変数の効果を取り除くモデル。まずはそれぞれの期間で回帰を行い、その回帰式の平均を取る。(各期間の回帰式-回帰式の平均)を行い、その後再度回帰を行う。具体的には、以下のような新しい回帰の推定を行う。(av = average)
(IV-avIV) = intercept + B1(DV1 - avDV1) + B2(DV2 - avDV2) + B3(DV3 - avDV3)+...
学びの再確認
日本のHR研究はケーススタディが多く、既存の制度の仕組みを解説するばかりで、定量的な分析や制度設計の考え方に関する研究等はあまり行われていなかった。
ネクストアクション
PA能力向上のため、特にテクニック習得のため計量経済学の入門書に手を出す
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