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一目で恋に落ちて人生の進路を決めるには十分すぎるほどの感動

「わたしはガラスと結婚して、富山に嫁ぐの!」

こう言い張ったのはわたしが高校3年生のとき。富山にあるガラスの専門学校を受験すると決めた頃。

せっかく美大附属の高校なのに!?
外部受験は大学への推薦権を破棄することになるのよ!?

と、先生たちは心配してくれたけど、頑として譲らず。心配されるたびに冒頭の台詞を繰り返して、本当に美大への内部推薦権を破棄し、富山ガラス造形研究所を受験した。


そもそも高校時代のわたしは絵画専攻だった。
暇があればクロッキー帳に絵を描き、放課後は授業が終わるなり絵画室に走ってベストポジションを確保し、警備員さんに追い出されるまで課題の油彩画を描き続けるような。絵が大好きな生徒。

そんなわたしが、ガラスと結婚するだなんて言い出してがらりと進路を変えたのは、運命の出会いがあったから。


当時は土曜の授業がゆとりな事情でなくなった頃で、わたしの学校では代わりに土曜は選択授業が始まって。先生たちがそれぞれ提案するいろんな授業の中から好きなものを受講できた。

たくさんの中からわたしが選択したのが、
ガラス工芸の授業だった。

やったことないからやってみたい!と、ふんにゃり選んだこの授業が、まさか人生を変えるなんて思いもせずに。

帯留集合


ガラスと聞いてまず思い浮かぶのが窓ガラスなくらい芸術のガラスを知らなかったわたしは、初めての授業で見たビデオにものすごく、それはもうものすごく衝撃を受けた。

あまりにも鮮やかで、あまりにも力強くて。
非現実的なまでに美しい世界だった。

このとき先生が見せてくれたのはDale Chihulyというガラス作家のひとつのプロジェクトを、制作から完成までまとめたもので。
大人数のチームが作品を作り上げていく工程も、出来上がった圧倒的な存在感と美しさに目が眩むような作品も。一目で恋に落ちて人生の進路を決めるには十分すぎるほどの感動だった。


Dale Chihuly でまずは検索して欲しい。
ものっすごく素敵だからまずは見てほしい。
お願い!見てみて…!
彼はアメリカの人間国宝だと聞いたとき、納得…と深く頷くことしかできなかった。だってその作品が、もうあまりにも美しい。好き。


一目惚れで進路をガラスへ全力で変えたこの日から、わたしはひたすらにガラスと生きてきた。

まず「なんかびびびっときたから絶対ここに行きたい!」と富山ガラス造形研究所を受験し、1学年16人の狭い枠に無事滑りこんだ(デッサンの実技のとき、モチーフのカッターで指をばっくり切って画用紙を血塗れにしてしまって。本気で落ちたと思った)

そこで、魔法か?ってほどすごい技術の持ち主たちに囲まれて挫折したり、富山の慣れない雪道を甘くみてコンビニへ向かう途中に歩道で埋まったり。

いろいろあったけど、それでもやっぱり。
あのキラキラ輝く綺麗な世界が大好きで。

世界のガラスにもっと会いたくて、オーストラリアにも留学した。
留学先でも、帰国してからも、体験教室の先生やアシスタントをしていた時も、ガラス作家として独立した今も、ずっと変わらず。もう本当にどうしようもなく。この儚く美しいガラスの世界が愛おしい。


そんな大好きなガラスと生きているわたしには、どうにも辛いことがある。

それは、ガラスと結婚する!なんて言い張ったからか、はたまたガラスへの愛が重すぎるのか、一向に白無垢を着る機会に恵まれないこと。

ガラスはお酒を物理的に受け止めてくれるけど、一緒に語りながら飲み明かしてはくれない。辛い。辛い…


まぁそれでも今日も。
自分で吹いたガラスで飲むビールはたまらなくおいしい。
この瞬間がとてもしあわせ。

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