見出し画像

診療情報管理士が教える人工内耳手術にかかる費用

人工内耳手術ってお金がかかるイメージありませんか?
ここでは実際にかかった費用を公開し、その費用の内訳を丁寧に説明していきます。
何となくお金の問題で引っかかっている方の不安を払拭できればと思います!

1)人工内耳手術は「高額」のイメージ

人工内耳手術と聞くと、保険が適用ではない最先端の治療、のようなイメージがあり、その費用はとんでもなく高額なのではないか?と考えている方も多いように思います。

 人工内耳にいくらかかるのか不安に感じる人もいるかと思いますので、診療情報管理士でもある私が初めて人工内耳手術をした時の医療費を公開します!(左耳です。)

 遠方からの入院だったので、手術前の検査であるMRI等を入院中に実施することになっています。
よって、事前検査も含めて、トータルの入院期間は16日間と、ちょっと長めです。

左耳人工内耳手術の診療費領収書

上記の右下「患者負担額」欄を確認していただきたいのですが、自己負担分として支払った医療費総額は127,495円でした!

 本来の医療費は、「総医療費」欄にあるように、3,647,548円という恐ろしい金額です。

多くの場合、自己負担は3割なので、100万円を超えてしまう計算になりますが、127,495円の支払いで済んだことには理由があります。

それが「高額療養費制度」というものです。

重い病気などで病院等に長期入院したり、治療が長引く場合には、医療費の自己負担額が高額となることから、家計の負担を軽減できるように、一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される制度です。

早い話が、一定以上の医療費は支払う必要がなくなるということです。

人工内耳手術は、自己負担分として約13万円の医療費がかかります。
これは、人工内耳手術が保険適用であるから、この金額で済んでいることになります。

よって人工内耳手術は、保険適用外の先端医療とは違いますので、人工内耳手術にとんでもない費用がかかるということは大きな勘違いです。

2)人工内耳手術の費用はこうなっている

私は診療情報管理士の資格を保有しているので、せっかくなのでもう少し細かく人工内耳手術の費用の中身を解説します。

病院等で受ける医療行為は、診療報酬点数といって全て点数化されており、1点=10円として計算され、多くの人がそのうち3割を自己負担として支払いをしています。(所得や障がい者手帳の保持、75歳以上の高齢者の負担割合は様々です。)

病院や歯医者に行った際にもらう、領収書を確認していただければ、点数が明示されており、1点=10円となっていることが確認できると思います。(1,000点なら10,000円で、その3割が自己負担なので窓口では3,000円を支払うことになる。)

ちなみに診療報酬点数は2年毎に改正されます。医療費の適正化や実態等を考慮して増減することになります。

よって、これからの情報は直近の診療報酬点数をベースにしていますので、2015年に私が左耳を手術した時とは少しばかり点数が違うこともありますのでご了承ください。(大きくは変わりません。)

では、現時点での「人工内耳手術」の点数はどうなっているでしょうか。

人工内耳埋込術 40,810点 となっています。
つまり408,100円です。
これは、あくまで手術のみの費用です。
「人工内耳の手術に必要な医師の技術料」が408,100円であるという風に解釈するのが正しいでしょうか。

 これに加えて、手術には当然麻酔が必要になりますので、全身麻酔に必要な費用も発生します。

閉鎖循環式全身麻酔のその他 6,000点
麻酔管理料Ⅰ 1,050点

麻酔薬の費用(使う麻酔薬による)も発生するので、合計で12,000点くらいとなり、手術における麻酔で約120,000円かかると理解していただければと思います。

 人工内耳手術では、インプラント等の人工内耳の機械本体も必要になります。

実はこれも保険適用になっています。

医師が実際に行う診療行為以外にも材料や機器そのものに診療報酬点数が定められているもの(特定保険医療材料といいます。)も多くあり、人工内耳もその一つです。

人工内耳は機器そのものも保険適用であり、補聴器にはない特徴です。

人工内耳の機器
  • 人工内耳用インプラント 1,650,000円

  • 人工内耳用音声信号処理装置(標準型) 940,000円

  • マイクロホン 39,000円

  • 送信コイル 10,700円

  • 送信ケーブル 2,740円

  • マグネット 7,870円

  • 接続ケーブル 4,480円

ちょっと多いですが、上記のように決まっています。

これらが保険診療の範囲となっていますので、上記の金額の3割が自己負担ということになります。
機器代は領収書においては「手術料」に含まれています。

左耳人工内耳手術の診療費領収書の中身

次に、そもそもの入院にかかる費用です。

これまでは人工内耳手術にフォーカスをあてていますが、当然入院をしなければならない訳で、入院についても医療費が発生することになります。

 領収書の「包括診療」が入院にかかった費用です。

入院時に看護師さんが色々対応してくれたり、医師の診察があったり、必要な検査をしたりという様に、入院に伴い発生する費用がここに出てきます。

ちなみに「包括診療」ですが、包括診療の制度は専門的過ぎるので、分かりやすく説明すると、入院1日に必要な諸々の手間等をパッケージ化して、1日いくらと医療費を決めている制度となります。

このパッケージ料金は病院の機能や規模によって変わっており、基本的には大病院であれば高い傾向にあります。

人工内耳手術を実施する様な大きな病院だと、1日あたり約30,000円くらいにはなります。

 この他、食事や病衣貸与、文書料(診断書とか)の費用もかかりますが、他に比べればそれほど大きな費用ではないです。

こうして、これらの費用を合計すると、人工内耳手術による入院まとめて350万円くらいになってきます。

3)高額だけれど負担が軽減される!

人工内耳手術の一連の費用が高額であることは事実です。

その3割負担と言われても、まだまだ支払うことができる金額には到底なりません。
仮に350万円だとすると、3割負担で105万円!!になってしまいます。

 そこで、こうした負担を軽減する制度は設けられており、代表的なものが、「高額療養費制度」です。

高額療養費制度は、医療費の自己負担分が高額になった時に、一定の金額(自己負担分)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。

医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、「限度額適用認定証」を医療機関に提出しておくのが一般的です。(払い戻し等の面倒な事務が発生しませんので、医療機関から必ず勧められます。)

 肝心の限度額ですが、年齢や所得によって変わるので一概には言えませんが、全国健康保険協会(協会けんぽ)によれば下記のような計算となります。

全国健康保険協会ホームページより

所得に応じて区分されており、区分ウ、区分エの方が多いのではないでしょうか。

区分エであれば、57,600円のみの支払いで済みます。区分ウであっても仮に医療費総額が350万円だとしても限度額は112,430円となり、相当に負担が軽減されます。

重要な注意点が2点あります。

  1.  医療費のみなので、病衣貸与等の保険適用外の費用は限度額の対象外。

  2. 医療費は月ごと(1日から月末)に計算されるので、月をまたぐ入院は医療費の請求も月ごとになる。

1番目は分かりやすいと思います。病衣貸与が典型的ですが、個室使用料も医療費の対象外ですね。

2番目が重要で、医療費は毎月月末締で計算するので、月をまたいで入院した場合は同月で入院→退院となった場合と比較して限度額の医療費負担が違うことになる場合があります。

 例えば、4月25日に入院して、4月28日に手術、5月5日に退院となった場合、4月30日までで一旦医療費を計算し、請求します。(この部分は手術があるので高額となり、高額療養費制度の対象となります。)

続いて、5月1日から5日の分については4月分とは分けて計算するので、この5日間の入院費用だけだと高額療養費制度の対象とならず、通常の3割負担になることがあり得るということです。

この仕組みについて、親切な病院は教えてくれるかもしれませんが、気になるようでしたら相談してみると良いと思います。

 このほか、一定の所得以下であり、障がい者手帳を持っていれば、更生医療という制度を利用できる場合もあります。こちらは、病院で説明してくれることがほとんどだと思います。(私は所得制限で利用できませんでした。)

まとめ

  • 人工内耳手術の医療費は確かに高額!

  • 手術費用は高額ではあるけれど、「高額療養費制度」で自己負担は抑えられる。(約13万円くらいかな)

  • 人工内耳は機器も保険適用なので安心!(手術時の医療費に含まれている)

  • 高額療養費制度を活用するために「限度額適用認定証」を忘れずに。

  • 人工内耳は保険診療なので、費用について過剰に心配する必要はない

人工内耳手術だからといって特別にかかるものは無いと思います。
そう考えると、人工内耳手術という大手術の割に、自己負担は何ら他の入院(手術)と変わらないということになると思います。

意外と人工内耳手術が高額(自費:保険適用ではない)と勘違いされている方もいます。

 金銭的なことで人工内耳手術を悩まれていた方にとって少しでも参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?