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パレスチナ料理を食べてきました(後編):いただきます!
この記事は、以下のふたつの記事のつづきです。
「パレスチナ料理を食べてきました(前編):申しこみから入店まで」
「パレスチナ料理を食べてきました(中編):高橋美香さんのスライドトーク」
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●パレスチナのごはん
スライドトークが終わり、いよいよディナーの時間です。つらい話の後でしたが「ごはんは美味しいので、気分も上がると思います!」と、美香さんが元気な声で空気を変えてくれました。
長いソファにぎゅっと身を寄せあうようにして座る参加者一同、スープにサラダに取り分け皿にとつぎつぎ運ばれてくるものを、バケツリレー形式でテーブルに並べてゆきます。見慣れない料理を前に「これはなんでしょう?」「うーん、なんでしょうね」などと言いあっていると、オーガナイザーのKazueさんにつれられて、店主のスドゥキさんが現れました。自己紹介のあとでメニューの説明をしてくれたのですが、その口から「マクなんちゃら」という聞き慣れない料理の名前が出たとたん、美香さんのいらっしゃるテーブルがどっと沸きました。パレスチナに詳しげな方々の集まるお席だったのですが、みなさんめちゃめちゃテンションが上がっています。なんだかよくわからないけれど「マクなんちゃら」はすごいらしい。これは期待できそうです。
ところで店主のスドゥキさんですが、口をひらけば冗談ばかりのめっぽう愉快な方でした。真面目くさった顔でお会計の金額を一桁多く言ったり、オーダーに対して「それは四時間かかりますねえ」と返したりと、やりとりのたびになにかしらのおふざけを挟まないと気が済まないご様子。こちらが「え?」と戸惑った次の瞬間、顔をくしゃっとさせて笑うのですが、その笑顔がまたとびきりチャーミングなのです。
このお茶目なスドゥキさんが私たちにふるまってくださった特別なコースを、ここでどーんとご紹介いたします。全体的に背景が混沌としていますが、フレームの外のぎゅうぎゅう賑やかな空気を想像していただけますと幸いです。どの料理にもハーブやスパイスがふんだんに使われていて、おいしいのは言わずもがな、鼻に抜ける香りや舌をわくわくさせてくれる刺激が楽しかったです…!
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・スープとサラダ。どちらもおいしかったです。サラダにはザクロと揚げたパン(名前があったのですが失念しました)がトッピングされていました。
・ペーストの盛りあわせ。ホンムス(ひよこ豆のペースト)、トルキシサラダ(トマトベースのペースト)、ムタッバラ(茄子のペースト)、茄子とねりごまのペースト。使われているスパイスの種類でがらりと印象が変わるので、構成要素が似ていても味わいはさまざまでした。ぜんぶおいしかったです。
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・いろんなオリーブ(写真は塩漬け。写っていませんが、刻んだオリーブを砕いた胡桃とあえたものなどもありました)
・ビーツのピクルス(だったはず)
・パプリカとピーマンのペースト
これもみんなおいしかった。
パプリカとピーマンの組みあわせって意外と新鮮な気がします。パプリカの甘みと酸味がとおりすぎたあとにピーマンの苦味がうっすら残るのですが、それがビールとよく合いそうでした。(残念ながらこのときはまだ飲んでいませんでした)
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シュシュバラック。「ヨーグルトソースの水餃子」だと言われたけれど、私の感覚ではラビオリに似ていました。これまたおいしかった!
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ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)。形がハートみたいでかわいかったです。もちろんおいしかった!
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ローストチキンとバスマティライス。おいしくないわけがない。アーモンドの甘さと食感がアクセントになっていました。
ふー。食べた食べた。そろそろおなかいっぱいだわ。でもこのチキンとライスはきれいに平らげたいよね、といった感じの締めのムードがテーブルに漂いはじめたときでした。
「マクルーバが来るってよ!」
誰かが叫びました。
「来るよ来るよ!」「動画の用意して!」
美香さんのテーブルの方々のバイブスが一気にぶち上がります。わけのわかっていない私たちもわけのわからないまま盛り上がります。「ところで、なんですか? そのマクなんとかって」と誰かが訊ねると、「鶏肉と米!」という答えが返ってきました。え、待って、鶏肉と米? 今ローストチキンとバスマティライスをせっせと食べているところですが? このうえでさらに鶏肉と米?
戸惑う我々の前に現れたのは、直径20センチ、深さ30センチはあろうという、どでかい両手鍋です。シリア出身のシェフ、ムハンマドさんが、重たそうに運んできたその鍋にひとまわり大きなお皿をかさね、えいやとひっくり返します。中身が落ちやすくなるようがんっがんっがんっがんっとこぶしで鍋底を叩くことしばし、そろりそろりと鍋が持ち上げられ、少しずつ中身が見えてきます。息を呑んで見守る一同の反応をうかがいながら鍋を持ち上げていた店員さんが、途中で「やっぱりやめーた」と鍋をもって厨房に戻ろうとするのを「待ってー!」と止める、というくだりを挟み、ついになかから現れたのが……こちらです!
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何に見えますか?
写真がいまいちでわかりにくいですが、茹でた肉と揚げた野菜を鍋の底に敷きつめて、そのうえにご飯をのっけた炊いたもの、すなわちマクルーバです。「マクルーバ」とはアラビア語で「逆さま、ひっくり返す」の意。最後に鍋をひっくり返して盛りつけることから、こう名づけられたとのこと。これをみんなで切りわける、というか切り崩して、シェアしました。
これ以上の鶏肉と米はもう無理かもしれん……と腰が引けていた私は、盛りつけの演出に惹かれつつ、ド派手な見た目にやはり内心気圧されていました。が、食べはじめてみると、意外や意外、お箸が進む。酸味のある爽やかな味も、ちょっとおじやっぽい食感も、ローストチキンとバスマティライスのときとはまるで違うので、まだまだもりもり食べられます。とはいえやはりお腹はすでにぱんぱんだったので、野菜多めだったのがありがたかったです。くたくたのナスとしみしみのジャガイモも、スドゥキさんが盛りつけの仕上げに散らしてくださった細かく刻んだしゃきしゃきの生野菜たちも、みんなおいしかった。
これはあとから伺ったことなのですが、スドゥキさんは予算を超える特別メニューを当日サプライズで提供してくださったそうです。そのお気持ちのあたたかさが、楽しい演出やおいしい味と一緒に心に残っています。
食事の終盤、一同の箸が重たくなってきたあたりから「もったいない食堂」のエプロンをつけたKazueさんが笑顔ながらも本気のトーンで「全部食べてくださいね」「お残しはだめですよ」と繰り返すのが、なかなかにプレッシャーでした。でもフードロスをなくすためにも、残さないのは大切なこと。いやこの量はさすがにきびしいです……と思いつつ、信頼できる方だなあとも感じました。私たちは終電の関係で叶わなかったのですが、残ったマクルーベは持ち帰ることができました。次にランチトリップのイベントに参加する際は、タッパーを持参します!
美香さんがはじめに言ってくださったとおり、みんなでごはんを囲むひとときはただただおいしく愉快なものとなりました。ですが、あ〜楽しかったなあ……とふりかえるときに必ず一緒に思いだされるのが、美香さんが何度か笑いながら口にされた「パレスチナに行けばこんなごはんが食べられると思ったら、大間違いだよー!」という言葉です。Kazueさんも「スドゥキさん、今日のために大盤振る舞いしてくれたんですよ」とおっしゃっていました。
私たちがいただいたのは特別なおもてなし、晴れの日のごはんだったのでしょう。このごはんをパレスチナの人たちが、ガザの人たちも西岸の人たちも、お腹いっぱい食べられる日が、一日も早く来てほしい。
そんなことを考えながらパレスチナの食文化について調べていたら、こちらの記事をみつけました。(書かれたのが2年前なので現状からするとずれている点もありますが、全体としては今に通じる話です)
パレスチナの食が危ない イスラエルの占領政策で文化が消えていく:朝日新聞GLOBE+
これを読んで思い出したのが、入植者がパレスチナ人の村を潰して奪った土地に本来の植生を無視した植林を行ったという話です。Palestine Sunbirdという鳥の名前をOrange Birdに変えるよう働きかけた話も。
シオニストたちはかねてよりあの手この手で「パレスチナ」を消そうとしてきた。それが今、虐殺・民族浄化というこれ以上ないあからさまな形で行われている。
でも、どうして?
世界中がリアルタイムでこれを見ているのに、もう2ヶ月以上ものあいだ目の当たりにしつづけているのに、どうして止められない? 毎日毎日人がどんどん殺されて、その中には大勢の子どもがいて、絶対におかしいって、間違ってるって、止めさせなければならないって、こんなに、こんなにも単純な、誰にだってわかることのはずなのに。
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悲しいです。悔しいです。
諦念や冷笑に逃げたり絶望を言い訳に思考停止したりしてもなんの解決にもならないから、できることをやってゆくしかないわけですが。
すみません。話がそれました。
●ごちそうさまのあとで
ディナーのあと、美香さんの持参された本のなかから2冊を選んで購入しました。
1冊目は、『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』(かもがわ出版)。スライドトークに登場したビリンのアブーラハマ家とジェニンのアワード家、それぞれの家のお母さんである「ママ」と「マハ」が文通のようなやりとりをするという形式で、それぞれの家族の暮らしが描かれています。
もう1冊は、合同会社パレスチナ・オリーブ代表、皆川万葉さんとの共著『パレスチナのちいさないとなみ―働いている、生きている』(かもがわ出版)。パレスチナの人たちがどんなふうに暮らしていて、そのなかで何に喜びを感じ何を生きがいとしているのかにふれられる良書です。現在起きていることを理解するために必要な知識が、読みやすいQ&A方式で書かれているパートもあります。
美香さんは、取材と撮影のために近々パレスチナに発たれるそうです。資金を集めるためのプリントセールを行われており(12月10で終了しています)ランチトリップ当日も好きな写真を選んで購入することができました。
私は、鉄条網の分離壁と青空を背景に男の子が両手を広げる写真に心をつかまれました。でも、この子は今どうしているのだろうかと考えはじめたら悲しくなってしまい、購入にはふみきれませんでした。
数日経ち、やはりあの写真を迎えたいと思って美香さんのサイトを訪問したところで、販売期間がすでに終了していることを知りました。残念ではありますが、美香さんはたびたびこのプリントセールを行われているとのこと。きっとまた機会は訪れるのではないかと思います。そのときまで、いや、そのさきも、美香さんの活動を追いつづけます。
●直に会うということ
当日のことを振り返りながら、ここまで書いてきました。
こんな自分がパレスチナ料理を食べに行ってよいのだろうかと躊躇したりもしましたが、参加してよかったです。なにがよかったって、美香さんのお話を聞けたこと。準備にどれだけ時間がかかったのだろう? と思うような手の込んだ、おいしい料理をたっぷりいただけたこと。それから……
……と挙げていったとき、懐かしいような気持ちとともに思いだすのが、店主のスドゥキさんの、くしゃっと笑った顔です。
スドゥキさんは基本的に厨房にいらっしゃったので、個人的におしゃべりをしたりはしていません。でも、ドリンクの注文や会計のときにかわしたやりとりのひとつひとつが、ふしぎと心に残っているんです。ほんとにしょーもない(ごめんなさい)冗談ばかり言う方なのですけれど、でも、そのしょーもなさが心地よくて、ほっとしました。
そういえば、美香さんのお話に登場したハムザさんも、よく冗談を言う方だったそうです。
会えてよかった。しみじみとそう思います。その気持ちとおなじぶんだけ、会ってほしい、とも思います。
知ってほしいです。パレスチナの人が(というかそういった属性を越えて、スドゥキさんやハムザさんという一人一人のひとが)冗談を言って笑ったり笑わせたりするところを、直に会って、見て、知ってほしい。パレスチナのことをまったく知らない人にも、フィルターのかかった情報を通じて知っているつもりになっている人にも。私もまだまだ知りません。これから知ってゆきたいです。
ランチトリップ・パレスチナ西岸便、参加して本当によかったです。
●おしまいに
緊急で今回のイベントを企画し、当日はアテンド役からホールスタッフまでくるくると大活躍されていたKazueさん、この二ヶ月以上のあいだずっとつらい思いをされているにもかかわらず元気をかき集めてお話をしてくださった美香さん、予算を度外視してお祭りみたいな御馳走をふるまってくださったビサンのみなさま、本当にありがとうございました。
ランチトリップでは、シリアやミャンマーといった「遠い」地域に焦点をあてた企画から、ウクライナから避難してきている人たちやクルドの人たちといった私たちの隣人の声に耳を傾けるための企画まで、「異文化理解と各国への固定観念を変えるランチ」を通したさまざまな取り組みをされているそうです。他の企画にも興味津々、また参加したいと思っています。情報をシェアしてくださった清香さん、よき出会いをありがとうございました。
ここまで読んでくださった皆様も、長らくおつきあいくださりありがとうございました。
もしこれを読んでくれている友人のなかにパレスチナ料理を食べてみたい人がいたら、一緒にビサンに行きましょう。食後のアラビアコーヒーをいただけなかったのが心残りで、近々再訪したいと思っているんです。カルダモンが効いていておいしいんですって……!
最後にひとつ、情報を共有させてください。
日本にいながらできることがカテゴリー別に網羅されたリストです。丁寧にわかりやすくまとめてくださっているので、自分にできることがないかと探している方、ぜひ覗いてみてください。(リストを作られたmgmさん、作成および日々の更新、本当にありがとうございます……!)
ランチトリップのおかげで西岸の人たちのことをこれまでより具体的に思い描くことができるようになってから、SNSやニュースで西岸からの報せにふれることが、いっそうつらくなりました。最悪が更新されるのを止めたいです。ほんとうに。一刻も早く。
引き続き、自分にはひとりぶんの力があると信じてやってゆきます。
●2024年3月15日追記:
*当初は「マックルーベ」と書いていた料理名を、のちに「マクルーべ」に、その後さらに「マクルーバ」に修正しました。様々な表記があるようですが、検索でヒットする件数は「マクルーバ」が最も多いです。ネイティブスピーカーの方の発音を聞いた感じでも、これが一番原語に近い表記なのかな、と感じています。
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