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糖尿病治療薬を使ったダイエットについて思うこと

薬剤師として、ちょっと気になったことがありまして、書いてみます。
長くて小難しい話ですが、最後まで読んで頂けたら幸いです。


Yahoo!ニュースで、こんな記事がありました。

糖尿病治療薬によるダイエット謳う医療機関などに警鐘 - 日本医師会、経口薬の承認前に
https://news.yahoo.co.jp/articles/158a939ef67e9ec61c523565bc817cfe23f53bfa


この記事の中の薬は、おそらく注射薬なのではないかと思われます。
たぶん、ビクトーザとか、週一タイプならトルリシティとか、その辺かと思われます。

この系統の薬、GLP-1作動薬というタイプの薬なのですが、
ものすごーーく大雑把に説明すると、体の中で効率的にインスリンを働かせて、効果的に血糖値を下げられるようにする薬、って感じです。
(語弊があるかもしれませんが、詳しく説明するとバカみたいに長くなるので、ざっくりこんな感じにしてます。すみません。)


飲み薬だと、DPP-4阻害薬と呼ばれるタイプの薬と同じような薬なのですが、
これらが出た当初から、製薬会社のPRの中で、痩せる、ということは実際に言われていました。
と言っても、臨床試験ではたしか、1年で1〜2kg減くらいだ、という話でした。

最初に説明を聞いた時点で、欧米ではダイエットの薬として使われてる、というような話も聞きました。


ただ、日本ではあくまでも糖尿病治療薬として認可されたお薬です。
有名なクリニックもこのGLP-1ダイエット勧めてるようですが、
個人的にはかなりリスキーじゃないかな、と思います。

そもそも、血糖値って、生きる上で(生命維持という意味で)トップクラスに重要なのではないかと思います。
だって、過度の低血糖で人は簡単に死にますから。

普通の人なら、血糖値はある程度のところで保たれています。
低血糖は命に関わるので、体が様々な方法で血糖値をあげようとします。


ですが、薬を使うとどうでしょうか。
体が血糖値をあげようとしても、薬で無理やり血糖値を下げられているので、
上げようにも上げられません。


ただ、これはあくまで昔の糖尿病の薬の話。
GLP-1作動薬は特殊な薬で、血糖値が下がりすぎないように、
ある程度血糖値を下げるとそれ以上は(理論的には)下がらないようにしてくれるんですよね。

ここまで聞くと、リスクなさそうですよね。
でも、100%低血糖が起きないわけではないです。
低頻度ですが、低血糖の副作用も実際に報告されています。
また、GLP-1作動薬の中でも、薬によっては死亡例もあります。


低血糖に限らず、副作用が起きた場合、当然その治療をしなければなりません。
低血糖でなくても、命に関わる副作用が起きる可能性だってあります。


そういった場合、誰が補償してくれるのか

薬をきちんと認可された用法・用量に従って使用していて、
重大な副作用が起きた場合には、責任の所在が明確でない時、
ひとまず『医薬品副作用被害救済制度』という制度で補償されます。

仮に障がいを負ったり、亡くなった場合には、遺族年金などで補償してもらえます。
その後、責任などが明確になった場合は、その責任を負った会社などに補償してもらえることになっています(そのはずです)。

この制度、詳しくはこちらをご参照下さい。

医薬品副作用救済制度について
https://www.pmda.go.jp/files/000231525.pdf


ここで、話を戻しますが、
GLP-1作動薬をダイエット目的で使う場合、
2020年6月現在の日本では、『適応外使用』という範疇になります。

そうなると、先述の『医薬品副作用救済制度』の対象外となり、
副作用の治療は基本的には自己責任です。

まぁ、入院費とか、治療そのものは自己負担3割とかでできるでしょう。

が、万が一その後仕事ができなくなったら?
生活費はどうしますか?
生きているならまだしも、亡くなってしまったら?
残された家族のことはどうしますか?


今の時代、インターネットも普及して、大体どんな薬でも、入手は比較的簡単だと思います。
でも、どんな薬にも副作用はあります。

私だけは大丈夫、はかなり危険です。
今回の記事で挙げたGLP-1作動薬のダイエットに関しては、
金さえ用意できれば、薬の使い方は簡単ですし、効果も比較的きちんと上がると思います。
安全性も高いでしょう。
ですが、あくまで薬です。
命に関わる血糖値の薬です。


きちんと信頼できる医師の説明を受け、

リスクも十分に理解した上で、

その上で使用するかどうか、

判断して頂きたいと思います。


余談ですが、もしかすると、将来的には肥満の治療も適応として認められるかもしれないな、と個人的には思っています。
そんなの噂も立ってないので、希望的観測を多分に含む想像です。
食の欧米化で肥満も増えてますから、あながち無くはないと思ってますけどね。

ですが、こういった形で指導があったりすると、
場合によっては適応の認可が遠ざかる可能性もあります。
そうなったら勿体無いな、と思います。
いい薬なんですよ、GLP-1作動薬とかDPP-4阻害薬とか。
だからこそ、薬としては大事にして欲しいと思います。

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