指輪構文物語

先日、YouTubeで怖い話の動画を視ていた時にオチでこんな件があった。
ある男が刃物を持った彼女に追い詰められながら言うセリフから。

男「由美子…なぜこんな事をするんだ…教えてくれ!」

由美子「あなたが悪いのよ…あんな女と浮気したから…」

男「浮気…?いったい…何の事なんだ…」

由美子「とぼけないでッッ‼‼ あなたが知らない女と腕を組ん
    で買い物してるのを見たのよ‼」

男「あ…あれは会社の後輩で…浮気なんかじゃないんだ」

由美子「嘘よッ‼‼」

女は刃物を振り下ろす。
咄嗟の所で男はリングケースを出し、女の顔の前に出す。

由美子「…ッ!?  こ、これは…?」

男「会社の後輩にサイズ選びを手伝って貰ったんだ。君との
  婚約指輪を。後輩がふざけて抱きついてきたけど、もち
  ろん僕は君一筋だ。
  誤解させてこんな事をさせてすまない。結婚しよう」

由美子「そんな、私こんな酷い事をして…あなたの気持ちも
    知らないで…」

男「君がどんな事をしようとも、それは僕への愛があっての
  事だ。愛している、由美子」

由美子「ありがとう誠さん…私も愛してます」

誠「幸せにするよ」

~fin~


というオチだった。めでたしめでたし。

いや、そうはならんやろ。

女と腕を組んで歩いているのを見たから果敢に刺殺を仕掛けてくる彼女と果たして結婚をしたくなるだろうか。
したとしても女サイドに殺人未遂をしてしまった後悔の気持ちが残るだろう。
男も絶対後々の遺恨となる。

こんな歪な2人の結婚生活なんて上手くいかない。

なのに何故こんなにも綺麗な終わり方のフリをして
堂々とオチに出来るのだろうか不思議でならない。

だが今回はそんな殺人未遂オチの内容にあれこれ触れる訳ではない。
今回の主題は別だ。


皆様はこのオチをどこか見覚えが無いだろうか?

私はある。しかしどこで見たかまでは覚えていない。
けれどもこの件には物凄い既視感がある。

そう。この「君の指輪を探していたんだオチ」は多くの話で使われている一種の定型的件(くだり)である。女性が男性を追い詰めて、ピンチの所で逆転ハッピーエンド。
なんか綺麗にオチがつく。やったね。

どんな流れであってもこれによって話が上手くまとまるのだ。なんて便利な代物なのか。ホラー作家はもっとこの手法を使えばいいのに。

他にもこの指輪のオチは使われている筈である。気になった私は調査をしてみる事にした。すると、とあるヤンデレASMRお芝居動画で使用されているのを発見する事が出来た。
このお芝居でもオチで男は女へ指輪を渡した。
女に刺された後なのに。

この指輪の件には物凄いパワーがある事が判明した。男が死に掛けていても綺麗な結末に持っていく事が出来たのである。
刺されても愛してると男は言っておりました。傍から見たらものすごい求婚シーンでした。

更に調べたところこの「浮気かも?」からの「会社の女性と結婚指輪(orプレゼント)探してました」という逆転ハッピーエンドは現実世界にもある事が分かった。
今回の調査で掲示板やTwitterでも散見した。

中には多少、若しくは全てネタである可能性も考えられる。
しかし、いずれにしてもこの件が過去から確実に存在していた事は紛れもない事実である。
そして、この件をオチに据えた作品が今もなお作られているのである。

そして、男が刺されても強引にゴールを決めきれるという
とんでもない中央突破が出来るこの指輪の件には、もはや伝統芸能に近しい華やかさと説得力があると言えるだろう。

私はこの指輪の件を、裏付けがされた一種の構文と同等であるとさえ考えている。



では、この指輪構文がどれほど万能であるか実際に文を書いて確かめてみる。



男「この基地に仕掛けられた時限爆弾を発見した。しかし、
  解除の仕方が全く分からない初めて見るタイプだ…。
  どうすれば止まるんだ」

男の持つ無線が鳴る。

男「(ピュインッ)こちらアルファチーム」

司令官「聞こえるかアルファチーム。その爆弾の解除方法が
    判明した。その爆弾は(ザザッ)
    コードの(ザザッ ザーーー…)」

アルファチーム隊員(以下α)「司令官!?音が途切れて聞こえ
             ません司令官!」

「(ザーーー…ピュインッ)…聞こえるかアルファチームの隊員君」

α「!? 誰だお前は‼」

?「私はその爆弾を仕掛けた…君達がボマーと呼ぶ者だ。
  この無線はジャックさせて貰った」

α「貴様…なぜこんな事をする! 東京中で大量爆破事件を起
 こすだけでは飽き足らず、我々の基地にまで爆弾を仕掛け
 るなんて‼」

ボマー「ふふふ…これは復讐だよ。分からないか?αチーム特
    殊爆弾解除班リーダー…須藤誠くん」

αチーム特殊爆弾解除班リーダー須藤誠(以下誠)「…!?貴
                       様…。な…
                       なぜ私の
                       名前を知
                       っている
                       んだッ‼
                       それに復
                       讐…?い
                       ったいど
                       ういう意
                       味だ‼‼」

ボマー「ふふふ…私の声を聞いても分からないとはな…残念だ
    よ」

誠「声!?…この声…ハッ‼ そ、そんな…まさか…! 由美子
  か!?」

由美子「正解。東京中に爆弾を仕掛けたのは私よ。でもそれ
    はあなたが働く基地の警備を薄くする為の布石。私
    が本当に爆破したかったのは…誠と…誠をたぶらかす
    女よッ‼」

誠「たぶらかす女…!? なんの話だ!僕は君以外に想う女性
  は居ない‼」
  
由美子「とぼけないでッッ‼‼ あなたが知らない女と腕を組ん
    で買い物してるのを見たのよ‼」

誠「あ…あれはアルファチームの後輩で…浮気なんかじゃない
  んだ」

由美子「嘘よッ‼‼」

女は爆弾の起爆スイッチに手を掛ける。
咄嗟の所で男はリングケースを出し、高く掲げる。

由美子「…ッ!?  そ、それは…?」

誠「由美子…どこからか俺を見ているんだろう?この指輪を
  見てくれ。アルファチームの後輩にサイズ選びを手伝っ
  て貰ったんだ。君との婚約指輪を。
  後輩がふざけて抱きついてきたけど、
  もちろん僕は君一筋だ。
  誤解させてこんな事をさせてすまない。結婚しよう」

由美子「そんな、私こんな酷い事をして…あなたの気持ちも
    知らないで…」

誠「君がどんな事をしようとも、それは僕への愛があっての
  事だ。愛している、由美子」

由美子「ありがとう誠さん…私も愛してます」

誠「幸せにするよ」

~fin~


やはり万能の構文である。

いや、そうはならへんか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?