人魚姫好感度クイズ

 こないだ会社の研修で人魚姫のお話を読み、読んだ後に登場人物5人の好感度順位を自身の感想で決めて、その後班に分かれそれぞれ順位についての意見をぶつけ合い、最終的に班としての順位を発表するというレクがありました。
 で、意外と順位がバラバラになり面白かったので、それについて書きます。で、まずは人魚姫の本文を載せます。
 以下本文。

 

~人魚姫~

 透き通った海の底にお城がありました。
 そこには美しい人魚の姉妹が住んでいました。
妹の人魚姫は、海の上の珍しい街の様子を話して聞かせる姉の言葉に、いつも胸を躍らせて聴き入っておりました。


 人魚姫がいよいよ年頃になった時、初めて海の上へ浮かび上がりました。
 そこには船があり、立派な王子が乗っているのが見えました。
 人魚姫が王子の姿に見とれていると、まもなく海は荒れ、高波が船を押しつぶしてしまいました。
 人魚姫は、海に投げ出せれて気を失った王子を助けました。
 そして、王子を砂浜に置くと、岩陰を身を隠しました。


 小高い丘の上から一人の若い娘が、その様子を見ていました。
 若い娘は王子に近づくと懸命に介抱しました。
 気がついた王子は、その娘が自分を助けてくれた思い、微笑みかけました。


 王子のそばから離れた人魚姫は、泣きながら海の底へ帰り、深い悲しみにくれていましたが、とうとう人魚姫は魔女のところに行って、人間にしてくださいと頼みました。
 

 魔女は「お前のきれいな声と引き換えにするなら、すらりとした脚をあげよう。それから、もし王子が他の娘と結婚したら、お前はたちまち泡になって消えてしまうのだよ。それでもいいかい」と言うのでした。
 それを聞いて、人魚姫はうなずきました。


 人魚姫は、魔女にもらった薬を飲んだとたんに気を失ってしまい、ふと気づくと、そこは浜辺で、美しい脚ができており、王子が目の前に立っていとおしそうに人魚姫を見ています。

 しかし、言葉を失った人魚姫は、ただ目を伏せるだけでした。


 やがて二人はすっかり打ち解け、一緒に馬に乗って森の中を駆け巡るまでに親しくなりました。
 人魚姫にとって幸せな毎日が過ぎていきました。


 そんなある日、王子は人魚姫に、自分を救ってくれた娘の話をしました。
「私の命の恩人なのだ。どうしてもその人にもう一度逢いたい。」
 しかし、人魚姫は何も言えません。まもなく王子は、自分を助けてくれた若い娘を探し出すために、隣の国に出かけていきました。


 そして、ふと立ち寄ったある村で、王子はついにあの若い娘を見つけたのです。
 その娘を一目見たとき、王子は叫びました。

「あなただ。私をあの海から救ってくれたのは、あなただ。」
 若い娘は、黙って微笑みました。
 

 二人はまもなく結婚することになりました。
 結婚式の夜、船の上で祝いの宴が開かれました。

 王子と花嫁が天幕に入ってお休みになったころ、船の端で音がします。
 見ると、人魚姫の姉が、波の上に浮かんでナイフを差し上げていました。

「これで、あの薄情な王子を刺すのよ。
そうすれば、あなたはまた元通りお城へ帰れます。
私にとってあなたはかけがえない大切な妹。死んではいけません。」

 人魚姫はナイフを手に天幕へ入りました。
 そして、愛する王子の額にそっと口づけをしました。
 すると王子は、夢の中で、胸に抱いている花嫁の名前を呟いたのです。
 人魚姫の手からナイフが落ち、目に涙が溢れました。

 人魚姫は、そのまま船べりから海に身を投げました。
そして、朝日の中で泡になって、静かに消えていきました。

おしまい。


 以上本文でした。
 どうでしょうか。各登場人物への好感度は何となく抱きましたでしょうか。
 ちなみに私の順位は
1位:王子(何もしてないから消去法で)
2位:魔女(誠実な契約をする人魚殺し美声コレクター)
3位:姉(自分で刺せば良いのに)
4位:人魚姫(短絡的な世間知らず)
5位:若い娘(クソ玉の輿狙い真実語らず泥棒猫野郎)
でした。

 結局、この研修の言いたい事は「人によって意見は違うから、違う意見を集団でまとめるのって難しいよね」という考えでした。本当に人によってバラバラでした。私の時にはいませんでしたが、研修を担当した先生が言うには、大の大人が口論になる時もあるそうです。人魚姫ガチ勢同士の戦いです。

 一方、私は研修の趣旨とは別で、ある感想を持ちました。
 若い娘に対してこんなに悪い印象を持ってしまった事は、ある種、非常に偏っていてうがった思考なのではないかと。人によっては若い娘が1位とかもあるのに、そういう意見に理解を示さず、狭い視野を持っている事は、今後の人生で損に繋がるのではないかと。
 順位を決める研修なので5位を決める流れなのですが、そもそも論で本来、人の生き方に最下位とか烙印を押してはいけないのではないかと。

 まぁ、若い娘の情報が少ないというのもあります。実際、脇役です。ですが、物語の見せ方の悲劇により、若い娘が少なくとも私1人には嫌われてしまったのは事実です。
 なので、物語の見せ方さえ変われば若い娘の好感度は上がる気がします。
 という訳で若い娘サイドストーリーを作りました。ここからは実験のコーナーです。

 

~人魚姫(若い娘サイドストーリーver.)~

 のどかな海辺に小さな村がありました。
その村には若い娘が住んでいました。
 
 若い娘はこの村で一人で暮らし、
ときおり砂浜に散歩をして海を眺めては子供の頃に住んでいた遠い国を思い出していました。
 

 ある日、遠くの沖が荒れ、若い娘は海の様子を見に浜辺へ行きました。
 そこには押しつぶされた船の残骸が流れ着いておりました。
 目を凝らすと近くには下半身が魚の女性がおり、隣には男性が一人倒れていました。

「あそこに居る女性は…まさか人魚?」

 若い娘は頭の中で疑問に思いながら浜辺の近くの小高い丘に登り、隠れながら見守っていました。
 下半身が魚の女性は倒れたままの男性から離れると岩場の奥に行き姿が見えなくなりました。

 若い娘は動かないままの男性が不安になり、急いで駆け寄り懸命に介抱しました。
 男性は気がつき、若い娘が自分を助けてくれたと思い、微笑みかけました。
 微笑んだ顔を見て若い娘はハッと気づきました。男性はこの国の王子だったのです。
 若い娘は驚きのあまり黙ってその場を去りました。


 王子のそばから離れた若い娘は、村に帰りながら必死に考えを巡らせました。
「私は小さな村の1人の人間として平和に暮らしていれば幸せだった。それなのに、王族と関わりを持ってしまった。もしかしたら命の恩人などと言われて城へ招かれてしまうかもしれない。招かれてしまえば断る事は出来ない。断れば不敬罪とされて反対に処刑されてしまうだろう。」


 若い娘はとても悩みました。
 自分のうかつな行動を悔やみながら村に帰ると、しばらく考え、考えが終わるとそのまま村を出ることにしました。
 若い娘は王子が自分を探しに来ると考え、国を出る決心をつけたのです。
 
「新しい土地で王子に見つからない様にひっそりとくらそう。この国ではだめだわ。隣の国まで引っ越そう。
 もし、それでも見つかってしまった時は…その時は覚悟を決めて王子の言うがままになりましょう。」
 
 隣の国に向かう馬車に揺られながら若い娘は決意をしました。


 若い娘は隣の国で暮らし始めました。
 幼い時に書き物をしなかった為文字が書けず、言葉も話せず不自由をしましたが、それでも日々を幸せに暮らしました。


 そんなある日、恐れていた事が起きました。
 王子がこの国まで若い娘を探しにやってきたのです。
 新しい生活に慣れ、砂浜まで散歩をしていた若い娘は王子と出くわしました。
 若い娘を一目見たとき、王子は叫びました。

「あなただ。私をあの海から救ってくれたのは、あなただ。」

 若い娘は、黙って微笑みました。

 二人はまもなく結婚することになりました。
 結婚式の夜、船の上で祝いの宴が開かれました。


 王子と若い娘、いや花嫁が天幕に入ってお休みになったころ、船端に音がします。
 音で目が覚めた花嫁は天幕から出ると船の上で夜風に当たることにしました。
 花嫁は王子と出会った時のことを思い出していました。

「あの時、王子の近くにいたのは本当に人魚だったのだろうか。もしかしたらあの人魚は溺れていた王子を助けていたのかもしれない。
このことを王子に言おうか。

いや、きっと信じて貰えないだろう。
人間からすれば人魚なんて夢の様な存在だ。
もし、信じたとしても…王子は私を探したように延々と人魚を探し続けるだろう。
そうすれば王子は周りから狂人扱いにされてしまう。
人魚なんて本来は人前に出てはいけないのだ。見つかる筈がない。
このまま私が王子と結婚することが一番平和なのかもしれない。

でももし…あの人魚が王子に恋をして王子を助けていたならば…
私はまるで泥棒猫、いやまるで悪魔や死神になってしまうわね。」

 そんなことをぼんやりと考えてる内に朝日が出てきました。


 すると突然、天幕のある部屋から誰かが駆けだしてきました。
 驚いて声の出せない花嫁はその場で急いで振り返りました。
 部屋から出て来たのは一人の女性でした。
 その女性はあの時の人魚でした。
 人魚は人間の姿になり船での結婚式に参加していたのです。


 人魚は花嫁に気づかず通り過ぎると、そのまま船べりから海に身を投げました。
 すると、朝日の中で泡になって、静かに消えていきました。
 そして間もなく、別の女性が船に上がりナイフを持ちながら天幕に走りこんでいきました。

 花嫁は突然の出来事に立ち尽くしていました。
 しばらく立ち尽くすと涙を流しながら全てを悟りました。
 私と同じように魔女に人間にして貰ったのね。そして王子に恋をして。
 

 陸に上がってから声を一度も出したことが無い彼女は音もなく泣き、そして泡になった人魚に祈りを捧げました。

 おしまい。


 ここまでやれば若い娘が1位ですね。代わりに他の登場人物の情報かき消えたけど。

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