近代的投げ網漁

 サブスクというものをご存じだろうか。

 今や流行語大賞を経て浸透した言葉なのに今更確認するなんて恥ずかしい事ですよ、

 と嘲笑されるかもしれないが、念の為知らない方へ説明しておくとサブスクとはサブスクリプションサービスの略で、予備校でも格闘技の技でもなくコンテンツの定額使い放題を指している。

 これがとても便利で、月額1000円位で映画やドラマが見放題という物もある。
 私も映像コンテンツ物のサブスクを利用していて、サブスクの余りの便利さに週3で通っていたレンタルビデオ店通いをすっぱり辞めた程だ。まさに忙しい現代人に合わせた新時代の物売りの形と言えよう。

 しかし、このサブスクを人に勧めるとなるとどうしても私は躊躇してしまう。それはサブスクに「キナ臭い手法」が付いて回るからだ。その一点が、私に手放しでサブスクを褒められなくしている。

 いきなり当たり前の話をして申し訳ないが、サブスクは利用者が少なければ当然利益は取れない。もし利用者が世界でたった1人だとしよう。
「さぁ、あなたの為に世界中の映画やテレビ番組を、何やらややこしい権利関係を全て処理して用意してきましたよ」
と、サービスを提供し、その見返りが980円しか貰えない。これではサブスク会社の社員が飢えてしまう。そうならない様、サブスク会社は利用者の絶対数を利益が出せるまで増やし続けなければならない。

 では、サブスク会社はどんな手法で利用者を新規開拓するか。この手法がキナ臭く、なおかつ恐ろしいものなのである。その手法とは、テレビCMやネット記事等を媒体に無料体験を宣伝するというものだ。

 サブスクの無料体験ほど恐ろしいものはない。
 まず、恐ろしいのがこのサービス、ふと見るとサブスク会社が赤字覚悟でやっている善意に見えるからだ。この「善意風サービス」がとんでもなくやっかいである。
 実際は、ただ単に無料という訳ではなく、その対象期間が過ぎた後は利用者の確認のないまま、自動的に有料会員へ切り替わるという代物だからだ。

 これはもちろん告知なしで行っている訳ではない。テレビCMなら小さくではあるが画面の下に表示してあるし、利用規約にも必ず書かれている。

 しかし、対象期間が1ヶ月とかだと忙しい現代人は期間終了日を忘れてしまいがちである。この無料期間終了日というエックスデーをすっかり忘れ、気が付けば支払いをしてしまう事になるのだ。

 もちろん、実際にサービスを利用した上でサブスクのサービスに心から感銘を受け、これからも使い続けよう、と考える利用者も居るはずだ。スーパーの実演販売を見た主婦の様に、あらあら、これはなんて良いものだ、素敵なものを知れて良かった、お隣さんにも広めてあげなきゃ、と利用者が増えていく可能性も高い。

 だが、私が末恐ろしいと身の毛がよだっているのは利用者がなし崩しに有料会員になってしまう事ではない。サブスク会社の魂胆についてなのである。

 サブスク会社が、この人間の一連のパターンに着目し、とんでもない魂胆を心に持っている事態に、全身が粟立つ程私は恐れているのである。

 サブスク会社は無料サービスを利用した利用者の内、有料切り替えを忘れてそのまま支払いをし続けてくれるのが、きっと全体の何割かは居るだろう、この「だろう」という魂胆の元、この宣伝手法を続けている。「無料サービスをやった後は大体会員がこれ位増えるだろう」、まるで投げ網漁みたいな発想である。「ここら辺は魚群が通るけん。餌をば適当にばら撒いて、魚がいる箇所目掛けて、ぽぉんと網さ投げれば、ざっと数百匹は引っかかってくれるっちゃ」という、漁みたいな算段で延々と期間限定行為を行っているのである。

 もはや、人間の動作を動物の行動パターンとかと同じ様に取り扱っているのである。効率的な搾取を繰り広げているのだ。なんと舐められたものか。
「こうやって人の目につく所で看板振って、おぉーい、と一声掛ければ、おおよそ時間が経つにつれ、人だかりが、なんだなんだ、タダで何かくれるのか、と寄ってくるから、そうした調子で人を集めるんだ」
というまるで心理学のハメ技を喰らっているかの流れで民衆から搾取を行っているのである。

 こんなとんでもない言い掛かりを書き込んでいては、心穏やかなる方から
「搾取なんてとんでもない。サブスク会社様は赤字当然で善行をなさっているのですよ」
と諭されるかもしれない。
「GAKTOみたいな陰謀論はおやめなさい」
とも諭されるかもしれない。だが、私には自信を持って搾取であると言い切れる根拠がある。それは有料化の自動切換えという仕組みだ。

 もし、万が一、仮にも、サブスク会社が完全な善意で行っているとしよう。
 それならば自動切換えという仕組みがサービスに組み込まれているのは有り得ないのである。

 サブスク会社が完全なる善意の塊だとしよう。それならばこの様なやり取りがサブスク会社会議で行われるはずだ。
「無料で楽しんだ後に退会するつもりだった利用者様が、間違えて支払いをされてはとんでもない。無料期間後は退会、それが規約上難しいのならば、その利用者様に対してのみ会員サービスの停止勧告をするべきだ、見落としのない様に繰り返しメールを送信し、なんなら電話を掛けるのも良いだろう。考えたくもないが、もし、万が一、継続する意思もない利用者様から、まるでこそ泥かの様な金銭を掠め取る行為が起きてしまったならば、命を代えて償わなければならない、ええいその時は我ら社員一同は腹を割く覚悟でなければならない、皆の者我に付いて来てくれるか、もちろんです社長様、社員一同覚悟は同じです、皆の者ありがとう、うおおお我に続け」
と万全の会議が為されるべきなのだ。

 それなのに現実は余りにも非情である。
 奴らはマシンの如く何の感情もなく利用料金を毎月定額回収する。どうせ無料期間の事なんか忘れるから結果的に売り上げは上がるし、更には加入した事すら忘れて延々と金を絞らせて貰えるだろう、とそういう舐め腐った態度を取り続け、今日も今日とて
「えぇッ、アマゾンプライムが今なら一ヶ月見放題だってッ」
とか驚くカップルの演技する役者のCMをYouTubeで流し続け、見え透いた善意を振りかざし宣伝をするのだ。

 人は忘れる生き物だ。だが、どうしてもこれだけは忘れないで欲しい。あなたが加入した期間限定無料の終了日を。そして解約するページへのアクセス方法を。

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