エル・クラン
エル・クラン(2015年:アルゼンチン)
監督:パブロ・トラペロ
出演:ギレルモ・フランチェラ
:ペテル・ランサーニ
:リリー・ポポヴィッチ
:ガストン・コチアラーレ
:ヒセリェ・モッタ
:ステファニア・コエッスル
フォークランド紛争に敗北して政権が変わり、社会が混乱する80年代のアルゼンチンで実際に起きた事件を題材にした作品。家族とは、正義とはと考えさせられると同時に、職と同時にモラルを失った父親に怒りを覚えた。
軍の情報機関に所属していたエリートの父は、軍事政権が転換されたと同時にその職を失う。七人の家族を抱える彼は、家族を養うという目的で軍で培った技術や情報を駆使して、富裕層の誘拐を生業とするようになる。その長男はラグビーの国代表チームの有望選手であり、父からの信頼も厚く誘拐の片棒を担いでいる。長男が所属するチームの裕福なチームメイトを誘拐して身代金をせしめ、その金を元手に長男はスポーツ用品店を開店させるが、チームメイトは射殺されていたことから長男の心は揺れ始め、恋人ができたことで、誘拐業から抜けたいと思うようになる。高額な身代金に味をしめた父は、長男とかつての軍仲間とで次々と誘拐に手を染める。その父を見ながら家族は次第に追い詰められていくことになる。
一家の父の悪行の開き直りが胸クソ悪い。口では家族愛を説きながら、やってることは卑劣な犯罪。悪びれもせず、かつての軍仲間を率先して指揮する。最高に卑怯な手口を発案し、誘拐された者には健気な手紙を書かせて、身代金要求に心理的圧迫を加える。そして最後には脅されて仕方なかったから殺したなどとほざきつつも、結局は足がつくことを警戒して殺害。長男が反抗の意思を見せると、父を破滅させたいのか!と逆に詰め寄って怒る始末。ここまでクズな人物を観たのも久しぶりだ。
その被害者とも言える長男があまりにも可哀そう。ラグビーの国代表チームで期待される逸材なのに、父から信頼を受けたことにより悲惨な人生を歩むことになる。最初の誘拐は自分のチームメイトでその手引きを要求されていた。チーム内では人望もあり、彼を疑う者は誰もいなかったが、友を誘拐した彼は気が気でもなかっただろう。それでも父の信頼を裏切ろうとせず協力していた表情が悲痛。父の犯罪を感じ取った三男はラグビーの遠征にかこつけて家出するが、長男に家族から離れるように勧めたのが最後のチャンスだった。空港の検問で別れる際に開いた二人の距離が印象に残る。
そして長男が誘拐に加担することを拒否し、家族から離れていた次男が帰ってきてから、すべてが狂い始めていく。父の誘拐業は軍の支援があったようだが、その支援も受けられなくなり、誘拐が失敗したことにより彼らの身の回りが不穏になっていく。父一人がまだやれるという意欲を見せていたのがもう末期的な状況を感じさせた。
この中で気になったのが、時々差し込まれるBGM。急に明るい曲調のポップな歌謡が流れ、陰湿で卑劣な誘拐という犯罪を滑稽に見せようとしているように思えた。自分と感覚が違うのかもしれないが、ここでこんな明るいBGM流されても、皮肉にもシリアスにも感じることができず、父のキャラクター性と相まって不快に感じる。そういう気分になることを考えて使っているのならすごいことだが。
あまりストーリーに関わっていないが、誘拐された者に食事を提供していた母も何気に悪なのでは?、と感じさせられた。父が軍仲間と密談している場に入ってきたり、長男に「お父さんは家族のためにしている」と諭したりと結構関わっている。そこも裁かれるべきでないだろうか。何も知らなかった二人の娘と長男の恋人も可哀そう。
彼らの犯罪が明るみになった時、その後の顛末も示されるが、一番悲痛なのはここでも長男。自らを断罪しようと望んだ彼がとった行動にはびっくりしたが、そのシーンをワンカットで撮影していたことに、どうやって撮影したんだろうと驚いた。そして父の処遇にも驚いた。この人物、最後の最後まで胸クソ悪い。
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