オリエント急行殺人事件

オリエント急行殺人事件(2017年:アメリカ)
監督:ケネス・ブラナー
配給:20世紀フォックス
出演:ケネス・ブラナー
  :ミシェル・ファイファー
  :ジョニー・デップ
  :デイジー・リドリー
  :トム・ベイトマン
 
誰もが知るミステリーの名作をケネス・ブラナーが現代に再映像化した意欲作。それぞれの登場人物のキャラクターが入り交ざり、観ている者に真実と正義の狭間を問いかける。
高名なアガサ・クリスティが生み出した超有名な探偵の一人、エルキュール・ポワロを、監督のケネス・ブラナーが演じる。この身だしなみと美食にうるさいベルギー人探偵は、アクが強すぎるので演じる役者を選ぶのだが、ケネス・ブラナーはスタイリッシュに演じていた。特にオープニングの二つの卵をサイズが揃わないと満足しないという演出は過去の作品への敬意を感じ、思わずニヤリとしてしまう。それまでの役者がたくわえていた独特な口ひげは、これまで観た作品中一番強調されているが、コミカルすぎず、それでいてケネス・ブラナーの精悍さを失っていない。美食と正義を愛し、真実を追う姿勢で捜査にあたり、理知と論理を重んじて一つ一つの証拠と証言をつなぎ合わせる姿は唸るものがあった。しかし、この作品は正義と真実がせめぎ合う内容なので、最後に自分の推理を披露する苦悩と決意の表情はさすがと感じる。久しぶりにポワロが帰ってきたと嬉しくなった。ただ残念なのは原作やこれまでの作品中のエルキュール・ポワロの容姿はちょっと腹の出た丸い卵型の顔の小男というイメージなので精悍さのあるケネス・ブラナーはちょっと見た目が異なる。特に自分は例の公営放送のドラマが大好きだったので、長年演じていたあの方(特に吹き替えの声優が)のイメージがしっくりくる。
殺害されるアメリカの古美術商役のジョニー・デップはふてぶてしいい態度だが、命の危険にさらされて怯える相反する表現を見せてくれる。こういうのを見るとやはりジョニー・デップは名優と再確認。その古美術商の殺人に関わる事件の当事者たちもさらに個性的。それぞれが事件に関する証言をするが、論理と集まる証拠からウソや偽証をひも解いていく。皆それぞれ真実味あるウソで言う通りに受け取れないのだが、ポワロはそのウソの裏側にある真実さえもつなぎ合わせるため、灰色の脳細胞の活躍にワクワクする。
一つの殺人は実は過去の重大な事件につながっており、その因果関係がこの列車内で繰り広げられる。さすがにオリエント急行ということで列車旅の高揚感とか豪華な内装も楽しめるのだが、意外とそこにはクローズアップされず、今の殺人と過去の重大事件を巡る人間関係に重点が置かれ、ミステリー映画の本文を忘れていないことにも好感が持てる。多分だが、監督兼主役のケネス・ブラナーはクリスティ作品に強い思い入れがあるのではないかと思う。
何度も映像化された作品なので、結末は誰でも知っていると思われるので映画の内容を詳しく述べないが、最後のシーンでポワロへの捜査の依頼が舞い込むところが次回作への展開を期待した…と思ってたら、こないだ公開してたのね。ちゃんと劇場公開作もチェックしないと本当に時代に取り残されるな。次はナイルだ。
割と思い入れのあるキャラクターで今後も続きで楽しめそうなのが嬉しい。クリスティ作品はたくさんあるので、ポワロだけでなく他のキャラも出てきてくれると古典ミステリーの復興になって盛り上がるのではないかと思う。
 
余談。自分の中で名探偵と言えばポワロと、ベーカー街の変人と、優しくタフなハードボイルドと、日本の変装が得意な探偵の四人を上げる。前者二人は近ごろ復活したので、後者二人も復活してほしいと思っている。

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