台風家族

台風家族(2018年:日本)
監督:市井昌秀
配給:キノフィルムズ
出演:草彅剛
  :新井浩文
  :MEGUMI
  :中村倫也
  :甲田まひる

両親が起こした銀行強盗事件を機にバラバラとなっていた兄弟たちが、10年後その両親の葬式のため実家に帰省し、遺産分配の争いと事件の顛末を語る、ホームブラックコメディ。豪華なキャストではあるが四兄弟ともクセのある個性が際立つ。
主役の草彅剛はここ数年アクの強い役柄に挑んでいると思う。冴えない青年だが裏では…という二面性のある役を演じることが多かったが、この作品では金にがめつい長男の役をヒステリックかつ情けなく演じている。神経質そうな眼つきをいからせ、わめきちらして暴れる姿は迫真的で、観ている方を痛々しい気持ちにさせてくれる。反面そそっかしくて弱っちい、こういう奴いるなと普遍的な存在性を感じた。彼は俳優なりたかったが、父に反対され家を飛び出した。結局俳優としては芽が出ず、確執が残るまま両親が銀行強盗を起こして失踪した経緯がある。彼だけが妻と娘を連れてきており、家庭を持っていることがストーリーに影響を及ぼしている。
その弟、次男を新井浩文が演じているが、この次男が文句をつけるときの表情がいかにも主張の強い次男という雰囲気がでて、遺産の分配は揉めると感じさせた。瞳が小さいので眼を見開くと白目が際立つため、不満を持っているのがよく分かる。多分これが俳優、新井浩文の最後の作品になってしまうんだなと思うと本当に残念だ。
ほぼ全編葬儀屋だった自宅兼店舗のセットから動かないので派手さはないが、父、母、四人兄弟が暮らしていた生活の名残を感じられる。しかし葬式を開いても遺体はなく、二人とも銀行強盗後行方不明。誰も10年前の強盗事件の顛末は知らない。兄弟の間に不和が漫然と漂い、一荒れ、二荒れしそうな雰囲気が臭わされるが、ここにバツイチ長女のホスト風彼氏が押しかけてきて、ドタバタの様相を呈する。またこの彼氏がやることが下ネタ的にゲスい。それでも話し合いの途中に挟んでくる思いやセリフはこのドラマ中でただ一人純粋な人間を表していた。
ストーリーが進むにつれ、今の日本を象徴する問題も散見される。認知症問題や介護問題。特殊詐欺も事件の契機となっているので、世相を反映していると言えるかもしれない。
終わることのない遺産配分のやりとりが続くため盛り上がりに欠けてしまい、観てると中垂れする。途中要所で長男娘がストーリーを動かすのも作り手の作為を感じた。長男がなぜ金にがめついのかを長男妻が語り、それをみんなが盗み聞きして納得するというのも、「お前らそれでいいのか?」とツッコんでしまう。タイトルの「台風」はほぼ関係がない。ラスト近く失踪した両親の問題が現れるが、ご都合主義が強すぎる。「10年経ってるんだぞ」と、本当にツッコんだ。演じている俳優の個性がよく出ているだけに残念だ。遺産配分での兄弟間の争いをYouTubeで生配信するのは趣味が悪すぎるを通り越して倫理違反と思う。
バツイチ長女役のMEGUMIはこの作品でブルーリボン助演女優賞を受賞したらしい。なるほど存在感ある演技だった。兄弟の中では一番冷静だが少しあばずれ感があり、将来に不安を持っていることも感じさせてくれる。さすがグラビア出身、今は体形がやや熟れて、直接的ではないが生々しい濡れ場も挑戦していた。これがなかったらホームコメディとして全年齢視聴することができたのに。うん、残念だ、非常に残念だ。決して下心があるのではない。決して。
導入から中盤にかけては役者の演技力で引っ張って観ることができたが、中盤後半にかけては面白みが減少してしまう。特にご都合主義的にストーリーが進んでしまうので時計と残り時間を気にしてしまった。残り時間を気にさせたら映画はダメと思っている。せっかく尾野真千子や相島一之も出演しているので、キャストをもう少し絞って、それぞれの立場での主張を戦わせてもよかったのではないかと思う。エンディングテーマをフラワーカンパニーズが歌ってるのは印象的だった。
ということで、もう一度MEGUMIのシーンを観ておこう。

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