突入せよ!あさま山荘事件

突入せよ!あさま山荘事件(2002:日本)
配給:東映、アスミック・エース
監督:原田眞人
出演:役所広司
  :宇崎竜童
  :伊武雅刀
  :藤田まこと

1972年(昭和47年)に起きた連合赤軍あさま山荘事件を、警察側、主に主役の立場から描いた作品。当時の空気感がよく表れている。原作は佐々淳行氏のノンフィクション。当時現場で陣頭指揮を執った人物である。
学生闘争モノにありがちな革命への暴力行為を美化せず、彼らに対した警察を中心に視点を置いている。意外と警察側視点の作品は少なく、なかなか興味深い。大きな治安機構であるがための統率の乱れ、準備や行動の不備、そして内部での牽制等々、混乱ぶりがよく分かる。
主役の佐々淳行を役所広司が演じるが、警察庁長官から、ちょっと行って指揮してこいと命じられて、何も決まらない会議に苦闘し、現場では陣頭に立って指揮をする姿をややコミカルではあるが好演している。苦労しつつも時たま見せる愛嬌のある笑い顔が非常に面白く、何気ない動きの中でも心境の変化を感じさせる。朝食時に本部長を計略で丸め込むシーンも、さすがと思うやり取りで痛快だった。やっぱり日本を代表する俳優の一人だろう。
その上役、警察庁長官後藤田正晴には亡くなって久しい藤田まことが配役。やわらかい関西弁であるが一言一言が切れ味鋭く、しかし内では人の善性を重んじるカミソリ後藤田を演じていた。「現場の判断で銃器の使用を…」と要望したそばから「却下」と答えた時には、役と役者が一致した瞬間を見た。
その他キャスティングも非常に豪華。宇崎竜童、伊武雅刀、遠藤憲一などの有名どころから、甲本雅裕、田中要次、蛍雪次郎などの名バイプレイヤーも出演。天海祐希と篠原涼子など名実ある女優(最近は俳優とまとめるらしいが)は一瞬しか登場しないのも豪華な使い方。もたいまさこの年老いた母は非常にそのままの演技だったし、街田しおんのコミュ障気味の電話交換手もなかなか魅力的。靴についた雪を解かすため熱湯をかけるシーンは思わず笑ってしまった。若干若い俳優たちには平成の香りを感じてしまうのは自分の年のせいと思う。後、原作者や当事者がエキストラとして参加しており、作品に対して作り手の愛情と尊敬も感じた。
当時の空気感が非常によく表現されており、小道具からシーンまで雰囲気が非常に昭和感をにおわせる。厚手の黒いオーバーを重そうに着てノロノロと進む警察官や文字や数字がびっしり書き込まれた手帳と白黒の写真を見て、あぁこんな感じだったなと懐かしく思い出した。さらに対策本部の会議でもうもうと立ち込めるタバコの煙を見ると、喫煙が当たり前だった昭和の空気を感じた。絶対あんな空間で会議はしたくはないが。
当然作中には、機動隊員が雪舞う中カップヌードルをすするシーンがあったり、山荘を打ち壊した鉄球作戦などあさま山荘事件を象徴する出来事が出てくる。なぜにそれに至ったのかも描かれており、知らない世代でも昭和史の一ページを知ることができる。
視聴後調べると、最初タイトルは「救出せよ!」の予定だったが、当時の東映の会長が「突入せよ!」に変更させたという。のちに監督・スタッフが今の時代では「救出」が適していた、と述懐しているが、自分は「突入せよ!」の方が躍動感があり、激動の昭和を表すのにふさわしいと思う。イデオロギーを安易に持ち出さず、事件を通して警察内部のドラマを描いた良作だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?